Netflixは7月13日、同社が立ち上げる広告ビジネスにマイクロソフト(Microsoft)が協力することを発表した。
その後まもなく、この発表に関するブリーフィングの機会を得るべく、エージェンシーの幹部たちはNetflixと会談を持った。さらにその後、8月に入ってもマイクロソフトとエージェンシーの各チームによるミーティングは引き続き行われている。複数のエージェンシー幹部の話によると、今後のミーティングでは、Netflixのインベントリの購入にさらに切り込んだ話し合いが行われる見込みだという。
「秘密主義」のミーティング
エージェンシーの幹部たちが、これらのミーティングで期待を寄せているのは、Netflixの広告販売ピッチに関する詳細情報の入手だ。広告付きプランの開始を2023年上旬に予定しているNetflixは、数カ月前から広告主の投資意欲を推し量ろうとしている。ミーティングに参加できるエージェンシー関係者の人数に制限をかけるなど、これらミーティングは秘密主義のベールに覆われている。
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エージェンシーの幹部たちは、いつになったらエージェンシーのプログラマティック担当者に参加要請の声がかかるのか、そしてこれが意味するのは、Netflixの広告インベントリーはローンチの時点でプログラマティックバイイングが可能であるということなのかなど、ミーティングでどんな知見がもたらされるのかに思いを巡らせるようになっている。
Netflix、マイクロソフトとのミーティングを控え、あるエージェンシー幹部は次のように語る。「今後2週間にわたってミーティングが何度か行われるが、参加メンバーを決めたところだ。詳細が明らかになってくるのはこれからだ」。
「質問をいくつもぶつけてきたが、いまのところまだ回答はあまり得られていない。そんな印象だ」と、別のエージェンシー幹部は語る。「今度のミーティングが実り多きものになるかどうかはわからないが、彼らが秘密主義を貫こうとしていることは確かだ」。いまのところ、これも希望的観測に終わる気配が濃厚なようだ。
混乱に包まれた混沌
これまでにNetflix、マイクロソフトとの会談を行なってきたエージェンシー幹部たちによれば、ミーティングは現在も引き続き行われているが、彼らが望むインサイトはまだほとんど得られていないという。販売される広告プロダクトは何なのか、それを誰が販売するのかについての回答をいまもまだ待っていると、複数のエージェンシー幹部が述べる。
「マイクロソフトに関する発表があったとき、来週か再来週にはすべての回答が得られると思っていた」と、彼らのなかのひとりは語る。だが、現実は違っていた。この幹部は現状を「混沌。まさに混沌だ」と表現する。
「混沌」は少し強い言葉かもしれない。別の幹部はこれを「スパイミステリー」と表現する。ここまでのミーティングの不透明さを考えれば、もっとしっくりくるのは「雲で覆われている」かもしれない。
Netflixもマイクロソフトも、共にNetflixの広告プレースメントについての具体的な内容を明かしていない。そのプレースメントの販売責任者が誰になるのかについても、Netflixとマイクロソフトの両者間だけでなく、マイクロソフト内においても明確ではない。
当の本人たちも把握できていない?
あるエージェンシー幹部は次のように語る。「マイクロソフトとの件が発表されたとき、我々関係者の多くは、これは広告サーバーの統合であって、売上全体のことでは必ずしもないだろうと考えた。そしてこのことが、マイクロソフトはどのくらいの人員をこれに割くのか、Netflixはこれにどう関わるのかという混乱を生む原因のひとつになっていると、私は思っている。当の本人たちでさえ、知っていて当然のその詳細を完全に把握しているとは思えない」。
「マイクロソフトと話しても、どのチームが販売を手掛けるのかについては、それは自分たちだと誰もが思っているという印象と同時に、誰もそうは思っていないという印象も受ける。まだ少し混乱があるようだ」と、別のエージェンシー幹部は語る。
米DIGIDAYがNetflixとマイクロソフトにメールでコメントを求めたところ、Netflixの交渉担当者からは明瞭さを欠く次のような回答が返ってきた。「低価格の広告付きオプションをどのようなかたちでローンチするのかについては、まだ決定の初期段階にあるため、具体的なことは何も決まっていない。したがって、現時点ではどれも憶測の域を出るものではない」。なお、マイクロソフトの広報担当者は、コメントを控えている。
ニワトリが先か、卵が先か
Netflixはエージェンシーの幹部たちが求めている情報を提供するどころか、逆に彼らに広告主がいくらなら払ってもいいと思っているかについての情報を手に入れるように促してきた。
「詳細は一切ない。彼らが知りたがっているのは、数字だけだ。(資金を)いくら持っているのか、クライアントの規模はどのくらいなのかを知りたがっている。彼らはこれが生むチャンスの全体像を把握したがっているが、問題は、その広告体験がどうなるかによって、これが生むチャンスも変わってくるということだ。 彼らはこれが何なのかをわかっていない」と、エージェンシー幹部のひとりは語る。「ニワトリと卵の議論と同じだ」。
おそらくニワトリ(卵でもいいが)はNetflixの広告プロダクトだろう。エージェンシーの幹部たちは、その広告プロダクトがかたちになるまでは、Netflixの広告販売ピッチはとらえどころのない状態が今後も続くだろうと考えている。「Netflixは広告プロダクトの開発と販売チームの編成を同時進行で行っている。現段階では、その焦点は広告プロダクトに当てられていると思うが、彼らのことなので、またすぐに方針転換するだろう。とにかく、すべてがうまく収まる必要がある」。
誰が「意思決定者」なのか
Netflixと制作会社のやりとりからも、同社の広告プロダクトがまだ完全には具体化していないことがわかる。
ある制作会社は、2023年第1四半期に配信開始が予定されているNetflixオリジナル番組を手がけている。同社幹部によれば、すでに制作もかなり進んでいるが、エピソード内に広告用のスペースを空けるかどうかの指示はいまだにないという。「すでに納品は始まっているが、まだ何も聞かされていない。そもそもこれについての向こうからの依頼はなく、これを受けてNetflixが望む番組の見せ方も変わってくる。その意味では、これからどうなるのかが興味深い」と、同幹部は語る。
公平を期すために言っておくと、Netflixはまだ、エージェンシーと広告主に自社の広告販売ピッチに関する詳細を明らかにすることに、急ピッチで取り組んでいない。ストリーミングサービスを提供する企業であるNetflixは、従来型テレビの広告費よりも総じて柔軟性に富むデジタル広告費を狙える位置にいるからだ。
しかし、広告主やエージェンシーが年間予算計画を練る9~10月は、もうすぐそこまで来ている。2023年の予算のうち、Netflixにいくら確保すべきか? 広告バイヤーがその判断に使える情報をなるべく早く提供する義務のようなものが、Netflixにはある。だからこそ、エージェンシーの幹部たちは、すぐにも何らかのインサイトを得られるようにすべく、努力を続けているのだ。
あるエージェンシー幹部は次のように語る。「まずは真相を突き止めること。とにかくいまは、この入り組んだ複雑な状況を切り抜けて、誰が意思決定者なのかを知ることに力を注いでいる」。
Tim Peterson(翻訳:ガリレオ、編集:黒田千聖)