日本企業のブランドやブランディングは、どうあるべきか:要点まとめ

DIGIDAY

日本企業は現在、ブランドやブランディング関して、どのような課題を抱えているのか。

ブランドパーパスという言葉の流行にも象徴される通り、ブランドやブランディングの重要性は、昨今ますます声高に叫ばれるようになった。しかし、その盛り上がりとは裏腹に、日本企業のブランド作りに関する課題を指摘する声も聞かれる。

「ブランド価値を高めることも重要だが、それをどう活用するかにも、日本企業はより目を向ける必要がある」。こう語るのは、中央大学大学院戦略経営研究科教授・日本消費者行動研究学会会長の田中洋氏だ。

田中教授は、昨年11月24日、デジタルマーケティング研究機構(DMI)がオンラインで開催した月例セミナー、「これからの日本市場・グローバル市場に向けた、日本企業のブランドやブランディングはどうあるべきか」に登場。インフォバーン 代表取締役・DMI幹事、田中準也のファシリテートのもと、ニューバランス ジャパン マーケティング部長・DMI幹事の鈴木健氏とともに、日本企業のブランドやブランディングを巡る課題について語りあった。

以下は、同セミナーの要点とハイライトだ。なお、読みやすさのため、個々の発言は多少編集してある。

本稿の要点:

  • そもそもブランド論とは欧米市場の考え方で、国内に輸入されたのは1990年代と歴史も欧米圏ほど長くない。それゆえ、経営者のブランドへの理解度も差がある。
  • ブランドは、好景気のときよりも不景気時に注目される。
  • パーパスドリブンなブランド作りは有効だが、社会課題の解決を過度に利用するのは本質から外れかねない。
  • そもそもブランドは、ビジネスのための手段のひとつ。ブランド価値を高めることも重要だが、それをどう活用するかにも重きを置くべき。

日本企業はブランド作りが下手なのか?

田中準也(以下、田中[準]):あえてこうした表現を使うが、グローバルブランドと比較して日本企業の多くはブランド作りが上手ではなさそうだ。では、なぜそうなってしまっているのか? おふたりの考えを伺いたい。

鈴木健氏(以下、鈴木):ブランド論というのは、1990年代ころに国内に輸入された考え方で、特に米国市場の影響を強く受けている。そうなると、やはり米国企業のようにはいかないケースも出てきてしまう。日本企業はブランド作りが下手だとかいう話以前に、欧米圏の考え方を日本企業が解釈したという点を認識しておく必要がある。

田中洋氏(以下、田中[洋]):前提として、ブランドやブランディングは、不況時に求められることが多いという点を述べておきたい。たとえば、ブランドマネジメントという考え方がP&Gによって開始されたのは1931年の世界大恐慌の最中であったし、ブランド・エクィティが注目されたのは1980年代末の米国不況期であった。実際、2020年代以降、世界中の多くの企業がコロナによる不況に喘いでいるが、ブランディングの重要性を叫ぶ声は、ますます聞かれるようになっている。

そのうえで日本国内に目を向けたとき、欧米とどのような違いがあるか。それは、トップ企業の経営者たちのブランドに対する考え方にあるように思う。欧米圏の経営者は日本企業の経営者に比べ、ブランド力を活用して窮地を脱してきた経験が豊富だ。たとえば、IBMやインテルなどがその例だ。対して日本企業は、日立製作所のような例外はあるものの、ブランド論に向き合うようになったのは比較的最近であるため、成功体験が乏しい。

それゆえ、前者はブランドの重要性を理解している。さらにいうと、経営とは何かという考え方のなかに、ブランドという要素を組み込んでいる。経営者自ら「我々のブランドはこうである、だからこれを行うのだ」ということを主張できなければ経営者としての資格はない。

ブランドパーパスといかに向き合うべきか

田中[準]:昨今、パーパスという言葉が国内でもよく聞かれるようになっている。特に新興スタートアップには、何かしらの社会課題を解決するというパーパスを掲げる企業が多い。しかし、パーパスと儲けることは両輪でなくてはならないが、そのバランスは非常にいま、難しくなっていると感じる。こうした潮流には、一体どのような背景があり、企業はどう向き合うべきだろうか?

田中[洋]:昨今広がっているパーパスという言葉は、オバマ元米国大統領が心酔していたリック・ウォレンという牧師がしたためた著書、『The Purpose Driven Life』から端を発していると思われる。同著作で述べられているパーパスというのは、超越的な概念で、いわば神から与えられた使命といった意味合いを持っている。これが巡り巡って、いまビジネスの世界で流通するようになったのだろう。

では、その背景は何か。ひとつ考えられるのは、最近は100年に1度起こる災害というのが、毎年といっていいほど頻繁に起こっていることだ。ひと昔前は、気候問題に関してもある意味絵空ごとというか、企業も「ここでCO₂を排出するのを止めても、関係ない」ぐらいの意識だった。ところが最近は、環境が危機に晒されているという事実が、顕在化してきている。こうした変化が、このパーパスという言葉の流行と関係しているのではないか。

鈴木:環境問題との関係は大いにありそうだ。また、企業の目的を単なる「金儲け」とするのではなく、「社会課題を解決すること」とした方が、消費者も従業員もモチベーションが湧く。我々の労働には意味があるんだということを再認識できるからだ。しかし、昨今の流行り具合を見ていて思うのは、パーパスという言葉で消費者を引きつけて、マーケティングしたいという狙いが見え隠れするケースが多い。社会課題の解決を、マーケティングに使い過ぎているのだ。実際、さまざまな批判も見られる。それでは、本質からずれてしまう。

海外向けブランディングのポイント

田中[準]:海外向けのブランディングを行ううえで、統制と権限移譲のバランスをうまく取ることは重要だ。言語、慣習、価値観、そして文化など、さまざまな違いがあるなかで、どのようなポイントに気を付けるべきか。

田中[洋]:海外向けということでいうと、まず日本企業は、あまり統制や権限委譲がうまくできていない気がする。たとえば、日本国内と海外市場でロゴの使い方が異なるといった事態も見られる。これはやはり、グローバルで統一する必要があるだろう。それに誰がブランドの意思決定に関する権限を有しているのかが曖昧な場合も多い。

鈴木:特に参入初期に関しては、ヘッドクオーターが積極的に指導する必要がある。そうでないと、後々パーセプションの異なるブランドができてしまう可能性があるからだ。企業によってはその市場に入るために、現地法人や現地の流通、販売代理店を頼らなければならない場合がある。すると、その販売代理店やローカルな文化の影響を強く受けることになる。せっかくブランドとして成長しても、パーセプションが異なっていると、本社の介入が非常に難しくなってしまう。

企業ブランドと製品ブランドの使い分け

田中[準]:これは、個人的にもエージェンシー時代に感じていたことだが、グローバル企業は、企業ブランドと製品ブランドを局面によってうまく使い分けているように思える。日本企業はそこから何を学ぶべき?

田中[洋]:企業ブランドと製品ブランドを使い分けるには、その業種や産業構造、企業のフェーズを理解する必要がある。たとえばGoogleは、ほとんどのサービス名にGoogleと付けている。おそらくその理由は企業名を付けておけば短時間でブランドが浸透できるメリットがある。Googleのように企業ブランドと製品ブランドが統一されているケースは、技術展開の流れが速いIT業界では多く見られる。

一方、たとえばP&Gのように、ハウス・オブ・ブランズ(house of brands)といわれるような戦略を選択する企業もある。この場合、基本的に企業ブランドは裏に回り、製品ブランドを前面に立てせるケースが多い。日本だと、小林製薬などがこれに当てはまるだろう。では、なぜこれらの企業は、ハウス・オブ・ブランズ体制を取っているのかというと、M&Aが戦略として組み込まれていること、またそれぞれのブランドがカバーする市場が相対的に独立していることが両方大いに関係している。たとえば、P&Gは頻繁にブランドの売買を行い、ブランドポートフォリオを入れ替えている。そうした企業体制を理解することも重要だ。

「ブランド嫌い」な経営層との向き合い方

田中[準]:日本企業のなかには、ブランドやブランディングという言葉にアレルギー反応を起こしてしまう経営者もいるようだ。なかには、日本語におけるブランドという言葉は、「ブランド品」といった形で、どこか高価、ラグジュアリーなイメージを含意しており、この言葉を使用することが経営者の理解を妨げているのでは?という声もある。そんななか、経営者から理解を得るために、マーケターはどのように対応すべきだろう?

田中[洋]:ブランド価値を高めるためのアプローチは多種多様だ。私の考えでは、ブランド価値というのは、25ぐらいの要素に分解できる。たとえば知名度を上げるというのもひとつ。知覚価値や連想を高めるというのもそうだ。ブランドという言葉の社内での使用を意図的に避けて、そういったより具体的な言葉に置き換えて伝えるやり方もありだと思う。

ただその前に、ブランドと「売れること」の関係を、いま一度考えて見て欲しい。そもそも、ブランドは売れるための前提条件のひとつでしかない。ブランドの調子が良ければ、製品も売れて企業は万々歳かというと、そんなことはない。実際、強いブランドを持っていても倒産する企業は山ほどある。

私がよく使う例に、ボーリングのたとえがある。思い出して欲しい、ボーリングのレーンのうえには「スパット」と呼ばれる点々のようなガイドが記されている。ボーリングでピンをたくさん倒すためには、ピンを見ていたのではダメで、スパットの上を通さなければならない。つまり「スパット」はブランドと同じ役割を果たしている。ブランドは売上を達成するための前提条件である。であるならば、ブランド価値を高めるだけでなく、それをどう活用するか、そもそもその企業にとってブランドを活用する必要があるのかという点にも大いに注目する必要がある。

鈴木:ブランドは不動産と同様、資産であると考える。結局それを活用しない限りは、ビジネスにはならない。ブランディングとブランドで培われた資産をどう使うかというのは、異なるアプローチが必要になる。そこは混同すべきではないだろう。

Written by 村上莞
Image by Shutterstock

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