ソーシャルコマース 成長の裏で、マーケターのあいだには温度差:「買うだけならウェブサイトへ行けばできる」

DIGIDAY

ソーシャルネットワークとeコマースプラットフォームは、ソーシャルコマースの新時代に向けて新たな機能を構築しようと競い合っているが、一部のマーケターは、少なくとも現時点で、ソーシャルコマースには広く一般にアピールする要素がないとみている。

Twitterとの連携から1カ月、Shopify(ショッピファイ)は米国時間7月19日、Googleとの新たなパートナーシップにより、Shopifyの出店者がYouTubeへのリーチを拡大し、一部クリエイターがYouTubeからShopifyストアにリンクすることが可能になると発表した。Facebookやインスタグラム、ピンタレスト(Pinterest)といった他のプラットフォームでも、ライブショッピング機能のバージョンを重ねて試験を進める一方、TikTok(ティックトック)は自社のeコマース計画の一部を保留したと報じられている

新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、オンラインコンテンツとeコマースの融合が進むなか、ブランドは大小を問わずライブショッピングの実験に乗り出し、買い物客を楽しませて教育すると同時に、新しいプラットフォームにいる潜在消費者にリーチしようと試みている。ソーシャルおよびeコマースのプラットフォームは、テクノロジーとコンテンツの両方に投資しているが、広告エージェンシーによると、テック大手の売り込みに前向きなクライアントばかりではないという。

ソーシャルコマースの課題

  • ネイティブチェックアウトだけでは不十分
  • 買い物客の既存の心理や習慣との戦い
  • 急激な変化には負の影響も
  • 米国の買い物客は世代によって行動が異なる
  • インフルエンサーが十分な影響力を発揮するとは限らない

ユーザーに提供する「価値」は?

デジタルマーケティングエージェンシー3Q/DEPTのペイドソーシャル担当シニアバイスプレジデントを務めるヨウメイ・カジタ氏は、ソーシャルメディアプラットフォームが、Shopifyのようなeコマース企業と連携するのは「超戦略的」な動きだと話す。特に、社内のリソースに乏しい中小事業者にとって便利なことは確かだが、プロダクトドロップのリマインダーやクリエイターのタグなど、ほかにも役立つ機能がなければ、連携するだけでは不十分だという。

「ソーシャルコマースとして、ネイティブチェックアウト(決済)機能を提供するだけでは、ソーシャルアプリのユーザーにとって十分な付加価値にはならない」とカジタ氏は話す。「買うだけならウェブサイトへ行けばできるからだ」。

ライブショッピングは、中国では何年も前から人気だが、米国での展開は近年になってからだ。2019年に、AmazonはAmazonライブ(Amazon Live)を導入した。買い物客がライブチャットを見ながら様々な商品について学べる同プラットフォームは、インフルエンサーによるオンラインイベントから、2022年7月のプライムデー(Prime Day)では、俳優のケヴィン・ハートやミランダ・カーなどのセレブを起用するまでに進化を遂げている。

2020年には、ウォルマート(Walmart)が、TikTokでショッパブルライブストリームを行った最初の企業となり、それ以降、Twitterなど他のプラットフォームでいくつものライブストリームを開催している。2021年秋には、ハズブロ(Hasbro)がインスタグラムとFacebook Liveで初のライブショッピングイベントを行った。そのほか、衣料品、玩具、アート、アクセサリーなど、様々なブランドとコラボレートしているライブ配信ショッピングアプリのNTWRKのように、新しいプラットフォームも人気を集めている。

ユーザーの心理もさまざま

既存のソーシャルプラットフォームにライブショッピングを導入するには、いくつかの重要な課題があると、デジタルマーケティング企業バイラルネーション(Viral Nation)の共同創設者兼共同CEO、ジョー・ギャグリース氏は述べている。インスタグラムやYouTubeのようなプラットフォームは、ユーザーがまだそれらを通じて直接購入するように条件づけられていないため、「心理との戦い」に直面しているのだという。一方で、ギャグリース氏はこうも警告する。「オーディエンスをあまりにも翻弄したり、物事を急激に変化させすぎると、深刻な悪影響が生じかねない」。

「これらのプラットフォームの視点から、私がこの分野で非常にもどかしく感じるのは、米国という市場の大きさだ」とギャグリース氏はいう。「そして米国の40歳の女性は、ミレニアル世代とはまったく違う買い物の仕方をする」。

加えて、インフルエンサーに十分な影響力があるのかという問題もある。フォレスター(Forrester)の1月のレポートによると、ショッパブル動画を視聴していた米国の成人の54%が、ショッパブルコンテンツのリンクを通じて買い物をしたことがあると答えた一方、新しいブランドを見つける主要な方法に、ソーシャルメディアのインフルエンサーを挙げた米国の成人は17%にすぎない。

エージェンシーによっては、クライアントがライブコマースを試しているところもあるが、導入に慎重なところもある。マッキニー(McKinney)のアクティベーションおよび分析担当アソシエイトメディアディレクターを務めるバリー・セイラス氏によると、YouTubeは依然として、人々が積極的に買い物をする気分になる場所というより、「のんびりくつろいで楽しませてもらう空間」だという。

「非常に乗り気で、すぐに数字が動くクライアントもいれば、一番乗りにならなくていいというクライアントもいる」とセイラス氏は話す。

「米国は買い物の選択肢が多すぎる」

ライブストリーミングによる収益は、今後も増加すると予想されている。スタティスタ(Statista)によると、米国におけるeコマースのライブストリーミングによる売り上げは、2021年の110億ドル(約1兆5000億ドル)から2022年には170億ドル(約2兆3200億円)に増加し、2024年には350億ドル(約4兆7800億円)に達すると予想される。小売りのソーシャルコマース分野も成長を続けている。イーマーケター(eMarketer)の予測では、小売りソーシャルコマース全体の売り上げは2022年に457億ドル(約6兆2500億円)、2025年には796億ドル(約10兆8800億円)に達し、2021年の366億2000万ドル(約5兆円)から2倍以上に増加するという。

このような成長ぶりにもかかわらず、他のマーケターたちは、ショッパブルコマースを優先事項にする様子はない。デジタルエージェンシーの3Qがマーケター400人を対象に行った調査によると、CPG(消費財)、小売り、テクノロジー、金融サービスのブランドはいずれも、ライブストリーミングのようなテレビ形式のショッピングコンテンツが、自社ソーシャルコマース戦略の優先順位で上位を占める可能性は低いと回答している。

フォレスターのバイスプレジデント兼プリンシパルアナリストのスチャリタ・コダリ氏は、「私が思うに、米国では選択肢が多すぎる」と述べている。「米国と中国では比較にならない。中国の消費者は、娯楽の選択肢や時間の過ごし方がはるかに限られており、そのなかでライブショッピングは成功を収めている。対する米国には、何十年も前からQVCがある。米国ではライブショッピングの市場は小さい」。

[原文:As social commerce grows, not all marketers see the appeal of live shopping

Marty Swant(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:分島翔平)

Source

タイトルとURLをコピーしました