ポップアップ 店舗のあり方が変わった:「商品を販売する場」から「顧客体験を実験する場」へ

DIGIDAY

こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります

約2年間にわたってソーシャルディスタンスが実行され、ほとんどオンラインで買い物することが多かったが、新たに開設されるポップアップ店舗は、人々が対面でショッピングを行う理由を作り出すことに注力している。

サックス(Saks)は7月、米コロラドのアスペンにポップアップ店舗を開設した。この店舗では買い物客が店舗のスタイリストからスタイリングやファッションのアドバイスをオンデマンドで受けられ、タッチスクリーンモニターなどの「デジタルタッチポイント」で同社のウェブサイトを閲覧できる。一方でアルタビューティー(Ulta Beauty)は、同月にニューヨーク市のアルーアストア(Allure Store)にインタラクティブなポップアップスペースを開設した。ここでは買い物客が店舗のARバーチャル試着技術や、商品コンテンツにリンクするQRコード、スマートミラーも利用できる。

新しい顧客体験を実験する場

店舗を一時的に運営するという考えは新しいものではない。しかし、パンデミックにより引き起こされたeコマースのブーム以降、ポップアップ店舗は、単に商品を販売するための新しい場所をテストするだけでなく、ブランドについてより没入感のある体験を作り出し、人々が再び対面でショッピングすることに夢中にさせることも目的となった。多くのブランドや小売業者にとって、ポップアップ店舗は買い物客についてより深く知るための空間であり、新しい体験型機能のための実験の場となった。

プレイサー・エーアイ(Placer.ai)のマーケティング担当バイスプレジデントを務めるイーサン・チェルノフスキー氏は次のように述べている。「ポップアップ店舗は、市場をテストする機会であるとともに、通年にわたって開店することを望まないような場所に店舗を開く機会でもある。この柔軟性を活用して、特定の時期に特定の市場を設置できる」。

多くの小売業者たちは、近年において店舗が大量に閉鎖した一因は、企業が消費者の希望を満たせなかったからだという結論に達したと、専門家たちは語る。その結果として、小売業者は新しい店舗のコンセプトやデザインの要素を試すことに意欲的となった。

企業は、これらの一時的な店舗によって顧客と結びつきを持ち、自社ブランドを顧客に紹介するため、さまざまな方法を見いだした。Shopify(ショッピファイ)の委託を受けたフォレスター(Forrester)の最近のレポートによれば、今後1年間にブランドの32%は自社のポップアップ店舗の戦略や、対面販売のエクスペリエンスを確立または拡大することを計画している。

企業は、このような仮設店舗を通じて顧客とつながり、ブランドを紹介するさまざまな方法を考え出しました。Shopify が委託した Forrester の最新レポートによると、今後 1 年以内に 32% のブランドがポップアップ戦略および対面式体験を確立または拡大する予定です。

テクノロジーを駆使した「没入型」店舗

この最新のポップアップ店舗で、小売業者たちは、対面でのスタイリングアドバイスや、専門家によるコンサルティング、インスタ映えする装飾など、顧客が通常オンラインでは利用できない機能を追加してきた。AR試着や、QRコード、VR体験など、買い物客をより没入させ、楽しませることができる流行の技術を取り入れるところも出てきている。

たとえば、ハドソンズベイ(Hudson’s Bay)のeコマース部門であるザ・ベイ(The Bay)は、12月にテクノロジーを駆使したポップアップ店舗を開設した。ここでは顧客がQRコードをスキャンするだけで品物を購入でき、スマートフォンでチェックアウトして、購入した品物を配送する宛先を選択できるため、購入したものを持ち歩く必要はない。一方で、化粧品製造会社のコスメティカラボラトリーズ(Cosmetica Laboratories)は最近、自社のビューティー・イノベーションを紹介することを主眼とした、没入型のポップアップ店舗を開始した。同社のポップアップイベントでは、化粧品のテクスチャーの投影、トロントにある同社の製造施設のバーチャルツアー、フォトブース、およびカスタムフェイスマスクの体験などを行った。

アリックスパートナーズ(AlixPartners)の小売プラクティスのディレクターを務めるジム・クセラ氏は次のように述べている。「顧客に対して、自社店舗を訪問すべき理由を与える必要がある。適切な理由を与えられなければ、顧客はAmazonで買うだろう。このため、これらの実験的な小売のテクノロジー、新規アイテム、新規デザインはすべて、顧客を従来の店舗に呼び戻す方法を探すためのものだ」。

ポップアップ店舗からの学び

美容品ブランドのグロシエ(Glossier)などほかのブランドにとって、ポップアップ店舗はある意味で、買い物客がそのブランドのどこを気に入っているのか、どこに新しい店舗を開設すべきか、常設店舗にどのような要素を残すかを学ぶための方法となってきた。グロシエは最近、マイアミとシアトルに常設店舗を開設したが、これらの都市は、同社は過去にポップアップ店舗を開設したことがある場所だ。同社のシニアバイスプレジデントとエグゼクティブクリエイティブディレクターを務めるマリー・スーター氏は、米モダンリテールによる以前のインタビューで「当社は当然、さまざまな小売モデルをテストして、コミュニティが我々にどのように関与するかを見てきた」と述べている。

インテリアデザイン企業のヘイブンリィ(Havenly)も、ニューヨーク市で新たに開設したポップアップショールームを、実店舗での小売モデルについてさらに学ぶための手段とみなしており、そこで得られた知識を活かして、ほかの市場に展開することを考えている。この店舗では、買い物客が同社の独占コレクションを見たり、専門家から対面で直接デザインサービスを受けることもできる。

クセラ氏は次のように述べている。「現在ポップアップ店舗で見られるものは、テクノロジーや大規模な初期投資を必要とするものが多い。特定の市場での投資対効果をテストして証明し、小売業者が多くの店舗で大規模な投資を行うに値するものかどうかを見極めるために、ポップアップ店舗は優れた方法だ」。

コスト面で慎重にならざるを得ない場合も

ポップアップ店舗は新しい要素を試すための方法ではあるが、一部の小売業者は、自分たちがどれだけの資金をねん出できるかを考えず、過度に野心的となるリスクがあると、同氏は述べている。

同氏は次のように述べている。「考えられる問題点のひとつは、ポップアップ店舗によって得られた知識などについて現実的に捉えられず、自社のほかのチェーンに組み入れることだ。ポップアップ店舗や未来型店舗のデザインで一般的に見られるのは、どのようなものを数百もの店舗に拡張可能かどうかについて、おもにコストに関して、小売業者が非現実的に考えているということだ」。

しかし、小売のポップアップ店舗の開設は近い将来に減少することはないだろうと、専門家は語る。すでに多数の実店舗を展開している小売業者も、ポップアップ店舗を開設している。たとえばノードストローム(Nordstrom)は、ニューヨークのサウサンプトン(Southampton)にノードストロームローカル(Nordstrom Local)というコンセプト・ポップアップショップを開設した。この店舗はショッピングをより便利にするためのサービスハブとして運用する。

プレイサー・エーアイのチェルノフスキー氏は次のように述べている。「ポップアップ店舗は大きな流れとなっていくだろう。消費者、地主、小売業者のすべてにとって、より安定的で継続的なポップアップ形式を保有することには、多くの利点があるからだ」。

[原文:Experiential retail takes center stage in latest round of pop-ups]

Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Saks

Source

タイトルとURLをコピーしました