ペロトンの経営再建は教訓となるか?:事業の再構築を迫られる新興企業たち

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今年は、消費者の需要の変化やベンチャーキャピタルの資金枯渇を受けて、あらゆる分野の新興企業が大幅な事業縮小を余儀なくされている。しかし、ペロトン(Peloton)ほど大きなピボット(方向転換)を迫られた新興企業は恐らく存在しないだろう。

在宅フィットネスの新興企業である同社は10月6日、今年4回目のレイオフを行い、500人の職を削減した。そのわずか数日前には、ディックススポーティンググッズ(Dick’s Sporting Goods)とヒルトン(Hilton)の2社との新しい販売契約を発表した。今年まで自社のウェブサイトと店舗だけで商品を販売してきたペロトンにとって、これは大きなニュースだった。

大胆な軌道修正を迫られたペロトン

2月にCEOとしてペロトンに入社したバリー・マッカーシー氏は、今回の人員削減を肯定的に評価しようと試みており、「今日の発表で構造再編は完了した。これからは成長に注力する」状況になったと、CNBCに宣言した

同社はおそらく、パンデミックにより売上が急増した新興企業の運命がどれだけ暗転したかを示す典型例だろう。8月に行われた2022年度第4四半期の決算発表で、同社は6億7900万ドル(約998億円)の収益を発表したが、これは前年同期の9億3700万ドル(約1380億円)に比べて大きく減少している。株式調査アナリストは、ペロトンは在庫だけでなく、製造や物流など、元に戻すのが難しいコストのかかる部分に過剰な投資を行ってしまったことから、非常に劇的な形で軌道修正を迫られることになったと述べている。

Shopify(ショッピファイ)ゴーパフ(Gopuff)など、ほかの大手eコマース企業も、今年はレイオフを迫られた。しかし、ぺトロンは非常に大胆な削減を急速に行う必要があった。今後数カ月のうちに、ペロトンのように何回ものレイオフを迫られるeコマース企業と、1度の試みで軌道修正に成功するeコマース企業とが明らかになるだろう。eコマースの売上が急増し、ベンチャーキャピタルからの資金調達を簡単に確保できた時期に発展した新興企業は、この緊縮財政の時代に、新しい手法、すなわち有意義な削減の方法について学ぶ必要があるだろう。

生産能力向上のための投資

「ほとんどの構造再編は、急速には行われない」と、ビーエムオー・キャピタル(BMO Capital)で株式調査アナリストを務めるシメオン・シーゲル氏は述べる。

ペロトンがどのようにしてパンデミック中のサクセスストーリーから教訓に転化したかを簡単に説明しよう。同社は2019年のIPOのあと急速に、パンデミックのあいだに自宅で勤務する多くの人々の恩恵を受けるようになり、驚くべき記録的な業績を達成した。同社は2020年9月に行われた2022年度第4四半期の決算発表ではじめての四半期利益を達成し、売上も(2億233万ドルから6億710万ドルへと)172%増加した。

その頃のペロトンが抱えていた最大の問題は、十分な数の製品を十分な数の人に迅速に届けられることができないということだった。その時点では先進的だと思われていた考えに基づき、同社は米国を拠点とするフィットネス機器の製造業者であるプリコー(Precor)を4億2000万ドル(約617億円)で買収することを決定した。また、2021年2月の決算発表において、航空・海上貨物配送にさらに1億ドル(約147億円)投資することを表明した。

「あの時点では、小規模で成長中の企業として、多くの生産能力を獲得できることが魅力的だった」と、ジェーン・ハリ・アンド・アソシエイツ(Jane Hali and Associates)で小売調査アナリストを務めるジェシカ・ラミレス氏は述べている。

パンデミックによる成長を楽観視

その後、2021年の中盤に事態は変化しはじめた。2021年第3四半期の決算報告において、ペロトンは再び12億6000万ドル(約1850億円)の記録的な収益を報告したが、そのあとで次の四半期の売上額が約9億1500万ドル(約1350億円)に低下するという予測を報告した。その後1年のうちに、四半期決算で前年比2ケタの売上増を報告していたが、の売上が2桁成長を報告していた同社は1ケタ成長にとどまった。そして最終的には、直近の第4四半期の決算発表で、収益は前年同期と比べて28%減少し、損失は12億4000万ドル(約1820億円)に増大した。

これを受けて、ペロトンはほぼすべての部門から人員削減を行った。これによって、パンデミックのあいだに行った製造に関する変更のいくつかを元に戻す一方で、最新ラウンドにおけるレイオフでは、マーケティング部門がもっとも大きな打撃を受けた。

ペロトンのように、パンデミックによる成長を楽観視しすぎた企業について、アナリストや投資家の頭に浮かぶ疑問は、本質的に「これらの企業は在庫に投資しすぎたのか、それともインフラに投資しすぎたのか」という点にあると、シーゲル氏は述べている。

在庫への過剰投資は多くの場合、「つらい値下げシーズン」を引き起こすが、物流や製造能力への過剰投資よりもはるかに短期間で解決可能な問題だと、シーゲル氏は語る。

「残念ながら、ペロトンは両方に過剰に投資していた」と、同氏は付け加えている。

卸売を開始

ペロトンは現在、在庫を処分し、損失が積み上がっている状況でキャッシュを増やすため、卸売契約を増やしている。同社が8月、エクササイズ機器や、アクセサリ、アパレルを国内最大のオンライン小売業者であるAmazonで販売することを発表したのがその始まりだった。その後、ディックススポーティンググッズとヒルトンとの新しいパートナーシップを発表し、その動きをさらに加速した。

「ペロトンは現在、これまでは同社が販売に使用しなかったチャネルで商品を販売したいという欲求や意欲が次第に高まっている。しかしこれは、ブランドの価値を希薄にする可能性も考えられる」とシーゲル氏は述べている。

これらの新しい卸売契約を、人員削減と同じ週に発表したことで、マッカーシー氏はペロトンの将来に、明るい展望、すなわち同社が依然として成長中であり、後ろから迫りつつあるコスト削減の時代を乗り切れるということを見せようとしている。

ほかの新興企業も、レイオフの発表については同様の態度を示している。すなわち、自社が過剰な投資を行ってしまったが、現在では適切な成長軌道に復帰しているということだ。レンタルサービスのレント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)が9月に従業員の24%をレイオフすることを発表したとき、共同創業者兼CEOのジェニファー・ハイマン氏は、「これらの措置は、顧客により多くの価値を提供し続け、堅実な収益増加を促進できることを可能にしながら、収益化実現への道を加速させることを意図している」と声明で述べている。

Shopifyが7月に人員の10%を削減したとき、CEOを務めるトビ・ルーク氏は、従業員への覚書で、パンデミックによるeコマースの成長に対して楽観的に対処しすぎた点で「判断を誤った」ことを認めたが、「我々には大きな機会があり、Shopifyはいまだ初期段階にある」と付け加えた。

消費者の需要予測

ペロトンや、パンデミックにより成功したほかの業者を待ち受ける大きな課題のひとつは、消費者の需要が依然として予測しにくいことだと、ラミレス氏は語る。すべての小売企業は、インフレを理由に多くの消費者が不必要な出費を切り詰めており、今後数カ月に景気後退が起きるかどうかは不明瞭であるという事実を受け止める必要がある。

しかし、「資金繰りに苦労している消費者ですら、出費は旅行などイベントに関するものを優先している」と、同氏は付け加えている。このため、ペロトンに有利な状況がいつ復活するか、そして実体のある商品に支払う予算が増えるのかはいまだ明らかでない。

したがって、マッカーシー氏の宣言、すなわちコスト削減が終了したというのが正しいかどうかを予測するのは難しい。現在徹底的なレイオフを余儀なくされているeコマース新興企業の多くは、過去2年間のように激しく方向性が変化する経済状況で事業を行ったことがなく、来年の需要がどうなるかを予測しようとしても、未知の領域をさまよっている状況だ。

シーゲル氏は次のように述べている。「ペロトンは需要を推進したが、拡大はしなかったことが明白だろう。結局のところ、これからペロトンの機器を購入しようとしている人のうち、これまで買ったことのない人が正味何人いるかが問題だ」。

[原文:DTC Briefing: As startups look to recalibrate, Peloton’s restructuring serves as a cautionary tale]

ANNA HENSEL(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Peloton

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