光があまり届かない海に生息するサンゴが光る理由とは?

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サンゴといえば熱帯の浅い海に密集してサンゴ礁を形成しているイメージがありますが、中には深い場所に生息するタイプのサンゴも存在します。そんなサンゴには蛍光色を発する種がいることも知られており、イスラエルの研究チームが「一体なぜ光のあまり届かない場所に生息するサンゴが光るのか?」という謎に迫る研究結果を発表しました。

Coral fluorescence: a prey-lure in deep habitats | Communications Biology
https://www.nature.com/articles/s42003-022-03460-3


A scientific mystery solved: Why corals glow | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/959057

Scientists Have Finally Discovered Why Deep-Sea Corals Glow in The Dark : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/scientists-have-finally-discovered-why-some-corals-glow-in-the-dark

サンゴは一見すると植物のようにも見えますが、実はクラゲなどと同じ刺胞動物門に属する動物です。浅瀬に生息する種は褐虫藻という藻類と共生し、褐虫藻が光合成で作る栄養素を摂取していますが、光合成エネルギーを摂取しない種のサンゴはもっと深い海域に生息し、中には水深6000mもの深海に生息するものもいます。

これらのサンゴの中には光を放つ種も多く、「生育に必要な褐虫藻を誘い込むため」「光の損傷や熱ストレスから保護するため」など、光を放つ理由についてはいくつかの説が唱えられています。

しかし、光の少ない中深度の海域に生息するサンゴにとって褐虫藻の光合成エネルギーはそこまで主要ではなく、光によるダメージも受けにくいため、別の理由があるのではないかと考えられています。そこでイスラエル・テルアビブ大学とスタインハルト自然史博物館、大学間海洋科学研究所などの共同研究チームは、光の少ない水深に生息し、エネルギー源を褐色藻の光合成より捕食に頼っている種のサンゴに目を向けて、「サンゴは光で獲物となるプランクトンや小型の動物をおびき寄せているのではないか」という仮説を立てて研究を行いました。


まず研究チームは、ミジンコやカブトエビに近くサンゴのエサにもなっている水生甲殻類・Artemia salinaを用いた実験で、これらの種が蛍光色に引き寄せられるかどうかを調べました。その結果、実験室においてArtemia salinaが蛍光色に引き寄せられることが判明しました。

続いて研究チームは、イスラエル・エイラト湾(アカバ湾)のサンゴが自生する水深40mの環境でも、在来種のAnisomysis Marisrubriを用いて同様の実験を行い、やはり蛍光色に引き寄せられる蛍光を確認しました。一方、サンゴのエサにならない魚類は蛍光色に引き寄せられず、むしろオレンジ色を中心に蛍光色を避ける傾向があったとのこと。

その後、研究チームはエイラト湾の水深45m地点で採取したEuphyllia paradivisaというサンゴを用いて、蛍光色がどれほどArtemia salinaの捕食率に影響を及ぼすのかを調べました。サンゴの蛍光色を励起する青色の光の下で実験を行ったところ、緑色の蛍光を発するサンゴは黄色の蛍光を発するサンゴよりも捕食率が高いことが判明。一方、サンゴの蛍光色を励起しない赤色の光の下で実験を行うと、捕食率に差はなかったとのことです。


テルアビブ大学のサンゴ礁研究者で今回の研究を主導したOr Ben-Zvi氏は、「今回の研究は、サンゴの蛍光がエサを誘引する役割を担っていることを実験的に証明するものです。この仮説は『光トラップ仮説』と呼ばれており、海中の他の蛍光生物にも当てはまる可能性があります。また、この現象が海洋生態系において、これまで考えられていたよりも大きな役割を果たしている可能性を示唆しています」と述べました。

テルアビブ大学の海洋生態学者であるYossi Loya教授は、「多くのサンゴは口や触手の先端を強調する蛍光パターンを示しています」とコメント。サンゴが獲物をおびき寄せる能力は、特に光合成以外のエネルギー源を必要とする水深に生息するサンゴにとって重要だと主張しています。

なお、科学系メディアのScience Alertは、「この研究は中深部に生息する1種のサンゴのみを対象としたものであることに注意が必要です。サンゴのエサとなるプランクトンや甲殻類がどのように色を認識しているのかを知る必要があるほか、サンゴの種および生息場所、ライフステージによって異なる可能性があるため、さらなる研究が必要です」と指摘しました。

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