ロブ・ライリー氏は正真正銘のクリエイターだ。この業界に10年間身を置き、インパクトのある有意義な作品を生み出すために何が必要かを知っている。そして、次世代をインスパイアするためなら、自身の知識や成功体験を喜んで共有する。
ライリー氏との対談から、彼がクリエイティビティに情熱を注ぎ、高い品質水準を持って仕事に取り組んでいることは明白だ。同氏がクリエイティブ部門を統括する広告業界1位のWPPは、2022年のカンヌライオンズで「Most Creative Company」賞を300ポイントという圧倒的大差で受賞した。
快活で人を惹きつける魅力あふれるライリー氏なら、世界最大の広告代理店のチーフクリエイティブオフィサーを任されるのも当然だ。同社に入って1年あまりという同氏だが、将来の見通しは前向きで、コラボレーションとブランドの一貫性が成功し続けるためのキーファクターだと強調する。
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- ――実は私の部屋に「恐れを知らぬ少女(Fearless Girl)」像の写真が貼ってある、という話をするつもりでこのインタビューの準備を進めていたところ、あなたがあの像に命を吹き込むのに一役買っていたことを知って、ほんとうに興奮した。
- ――あなたは「#NYCSaysGay」など、他にも社会正義のためのキャンペーンに参加しているが、人々をインスパイアするために、どのように現実の問題を利用するのか?
- ――そのようなミッションにおいて、人材採用はどういった役割を果たすのか?
- ――以前、クリエイティビティの共同体的側面について話しておられたが、テクノロジーやバーチャルでの仕事は、そこの部分にどのような影響を与えると思うか?
- ――WPPは2022年のカンヌライオンズで、圧倒的な大差をもってクリエイティビティの賞を獲得したが、その成功の要因と思われる特別なアプローチなどはあるか?
- ――この1年、今の新しい役割をこなすなかで、学んだことは?
- ――今楽しみにしていることは? 2023年に成し遂げたいことはあるか?
- ――TikTokやリール(Reels)のような短いフォーマットの動画によって、あなたの仕事で変わったことはあったか?
- ――あなたのキャリアのなかで今この状態にあるのは、何がきっかけだったと思うか?
――実は私の部屋に「恐れを知らぬ少女(Fearless Girl)」像の写真が貼ってある、という話をするつもりでこのインタビューの準備を進めていたところ、あなたがあの像に命を吹き込むのに一役買っていたことを知って、ほんとうに興奮した。
インタビューの冒頭でこんなうれしいことを言ってくれる人と対談できるなんて、最高だ。私は、自分がこの世を去った後も長く影響を与え続けられるような何かを創造することこそが達成感の源だと思っている。株式ブローカーたちが証券取引所から出てきたところであの像と向き合い、明日はきっと正しいことをしようと思い出す。ニューヨーク市は人の流れの妨げになるとの理由で少女像を公園に移設したかったようだが、我々は「いや、それなら東京かロンドンに移そう、みんな彼女を欲しがっているから」とか言って反対した。
そして、唯一受け入れ可能な代替案としてステート・ストリートを提示したんだ。それが今、像が立っている場所だ。あの作品への投資がどんな効果を生み出すかはわからない。どこかの大統領や起業した人、病気の治療法を発見した人が、「恐れを知らない少女」に触発されたことで少しばかり大胆な行動ができたのかどうかなんて、誰にもわからない。
――あなたは「#NYCSaysGay」など、他にも社会正義のためのキャンペーンに参加しているが、人々をインスパイアするために、どのように現実の問題を利用するのか?
私のこれまでの作品やプレゼンテーションを見て貰えばわかってもらえると思うが、クリエイティビティこそ今日もっとも価値ある資産であると考えている。そう、「NYC Love」キャンペーンは、フロリダ州で起こった「ゲイと言ってはいけない(Don’t Say Gay)」問題に対抗して行ったものだ(このキャンペーンはニューヨーク市長のエリック・アダムズ氏と協働し、フロリダ州内に戦略的に設置されたデジタルビルボード広告上でNYCによるLGBTQ+コミュニティへのコミットメントを強調するものだった)。アイデアは素晴らしい。だが、あれが本当に偉大なキャンペーンになったのは、メディア・プレースメントのおかげだ。
クリエイティブな見出しは面白くて人の興味を引くし、かなりパンチが効いている。だが、基本的に「フロリダから出ていく」ことを勧めるような広告を米国内のメディアで購入できるということ、そしてそれをフロリダ州が止められなかったことは事実。あれをやるには、ほんとうの意味での創意工夫とクリエイティビティが必要だ。私は、いずれ学校で子どもたちにクリエイティビティを教えるようになればと、大きな期待を寄せている。
いまでも子どもたちには多くのことを教えているが、脳を働かせクリエイティブな方法で問題解決をする術を教えていくべきだ。「自分はクリエイティブじゃない」と思っている人が多すぎる。クリエイティブでいるために、アーティストになる必要はない。ただ自分の脳を、自分なりのユニークなやり方で働かせて物事を解決していけばいい。これからの時代、クリエイティビティがより多く使われるようになり、時には国家規模や世界規模で生じる混乱状態から抜け出すためにもクリエイティビティが活かされるようになるのではないかと感じている。
――そのようなミッションにおいて、人材採用はどういった役割を果たすのか?
若い人たちは、正しいことをしている会社で働きたいのではないだろうか。勤務先の会社を選ぶにせよ、支持するブランドを選ぶにせよ、その企業の行動を見て決める。でも、いいキャリアを築きたいし、お金も稼ぎたい。これら2つの考えは、互いに相容れないものである必要はない。
私たちは、ユニークで様々なタイプの人間を惹きつけるために、彼らにとって正しい行動をし、さらには世の中にとっても正しい行動をし続けねばならないと考えている。私たちが今苦労しているのは――みんな苦労しているところだが――多様性とインクルージョンに関することだ。
意見も声も背景も異なる、あらゆる違ったタイプの人たちが共に生きていけるようにするために、もっと努力していかねばならないと感じているし、それこそがビジネスなんだと思う。それを実現するためにどうすればいいのかを模索し続けているところだ。
――以前、クリエイティビティの共同体的側面について話しておられたが、テクノロジーやバーチャルでの仕事は、そこの部分にどのような影響を与えると思うか?
我々のビジネスは徒弟制度のようなものだ。私がこの仕事をしているのは、何十年もの間、自分の担当プロジェクトとは関係ないような話も含めて、上司がいろんな話をするのを聞いてきたから。そこに私がいて、このコミュニティの一員だったからだ。自分のデスクに座りながら、今どういうことが起こっているのかと耳を傾けることができる。実に多くのことを学んだし、そこが今の若者たちにとって本当に危うい部分だと感じている。
人々がオフィスに戻ってきたとき、在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせたハイブリッド型で働く人たちも含めて、誰もが職場に溶けこめるようにするために、しっかりと仕事をしなくてはならない。ハイブリッド型の職場を切望する声に、テクノロジーが追い付いたのかどうか、私にはわからない。そういうものもあるにはあるが、高額な費用がかかる。私たちは、どうすれば職場をより面白い場所にできるかを考えなければならないが、それは複雑な問題だ。
――WPPは2022年のカンヌライオンズで、圧倒的な大差をもってクリエイティビティの賞を獲得したが、その成功の要因と思われる特別なアプローチなどはあるか?
私は才能というものをおおいに信じている。正しい才能を採用すれば、よりよい結果が得られる。私たちの会社を、最良の、もっとも魅力的でもっともインクルーシブな職場だと思ってもらえるようにすること。これが大事だと思う。なぜなら最高の人材はこういう部分に魅力を感じるものだから。わが社のCEOであるマーク・リードの「自分はこの会社を世界一クリエイティブな会社にしたい」という言葉が出発点だ。そして、他のCEOたちもみな、これに続いた。
もし経営陣が自らそう望まなければ、クリエイティブな会社になどなれない。だがわが社のCEOは、クリエイティブな会社にしたいと言ってくれた。ナンバーワンになるために、そしてもっともクリエイティブな企業の1つと認められるために必要なことを実行する準備が整っていなかったら、おそらく失敗に終わるだろう。そしてすべてのスターティングポイントはCEOたちだ。
幸運なことに、わが社には素晴らしいCEOが揃っている。今やわが社はおそらくもっとも働きたい会社のひとつだろうと思うし、私たちの熱量がそうさせたのだと思う。すると我々のグループ企業からも、さらにはWPPセンターからもよい話が聞こえてくる。そしてそれは人々の目に魅力的に映るだろう。つまり、「人間」に「プロセス」が加われば「一貫したクリエイティブエクセレンス」が生まれるということだ。さほど複雑ではないものの、実行するとなると難しい。
――この1年、今の新しい役割をこなすなかで、学んだことは?
大きな会社だと真に互いを支えあう会社にはなれないのかというと、そうではないということを学んだ。リードは、すべてのCEOが協働しあう極めて特別なグループを作り上げた。常にコミュニケーションを取り合い、ミーティングを重ね、対話を欠かさないことが、大きな組織の中で人を動かす上で本当に必要なのだということ。つまり、ひとりの人間が組織を操るのではなく20人が全員同じ方向を向いている状態だ。
私は以前規模の小さい会社で働いた経験があるので、それが小規模企業で効果的だということは知っていたが、大企業でもうまくいくとは知らなかった。なかでも常にコミュニケーションをとることが重要で、リードはみなの声に耳を傾け素晴らしい意見を引き出し、十分な情報を得た上で決断を下すことに長けている。たぶんそれが、私が学んだ中でもっとも大きなことだ。
つまり、確かな信ぴょう性と本物の目的意識をもって頻繁にコミュニケーションをとっていれば、極めて大きな組織であっても、非常にまとまりのある有意義なかたちで運営することができるだろう。
――今楽しみにしていることは? 2023年に成し遂げたいことはあるか?
この2年間はパンデミックのなかで、それぞれの国も世界も、厳しい時を過ごしてきた。そして今世界では、迫りくる不況など、新たな出来事がいろいろと発生して、また別の厳しい1年を迎えている。こういった時期には、人々は安定を求めてブランドに大きな期待を寄せると思う。
私が一番楽しみにしているのは、そんなブランドを世界中の人々の目に留まるように届け、安定や希望やインスピレーションを、それを必要とする人々に提供できるようにすることだ。難問を解決するのに、パニックになってはいけない。困難だからこそ、十分にクリエイティビティを発揮するべきだ。ブランドやマーケターのためのエージェントとして我々ができることは、ブランドの健全性を保つこと、そしてできる限り人々に寄り添うことだ。
――TikTokやリール(Reels)のような短いフォーマットの動画によって、あなたの仕事で変わったことはあったか?
私のクリエイティブのプロセス全体でやっているのは、アイデアが文化の中にどのように根付くかを予測することだ。人々に愛され、シェアされて拡散されているものは、何なのか? それこそクリエイティブプロセスのすべてだ。だから、それが人々の生活の中にどのように入りこんでくるか、どこに表示されるかは関係ない。TikTokで見られるかもしれないし、もっと長い動画のなかかもしれない。リニアTVやNetflixのシリーズ、あるいはスポーツ中継やエンターテインメントのライブ番組の合間に流れるもっと昔ながらのテレビコマーシャルの中かもしれない。
だが情報提供の道具としての動画は、かつてないほど盛り上がりを見せており、今後ますます増加していくと思われる。クリエイティブな人間としてもっとも重要なものは好奇心だと私は考えている。業界で経験を重ねるうちに好奇心を失い、新しいプラットフォームや若者たちに人気があるものを知り試してみようと思わなくなったら、たぶん成功は得られない。自分のスキルやマインドを常に新鮮な状態に保ちつつ、仕事に打ち込まなければならない。
ところで、短い動画はますますエンターテインメント性が高く手軽になっていて、無関心ではいられなくなっている。各ブランドはまだTikTokのようなものを十分に理解しきれていないようだが、私たちはしっかり研究して、遊び心をもって楽しんでいかなくてはと思っているし、その一端を担えることにワクワクしている。しっかりマスターするまで、十分な好奇心を保ち続けなければならない。
――あなたのキャリアのなかで今この状態にあるのは、何がきっかけだったと思うか?
子どものころ、クイズショーの司会者になりたいと思っていたが、今でも司会者を務めているような気分になるのはショー、つまり「見せる」ことを前に進める仕事をしているからだろう。それが、チーフクリエイティブオフィサーの仕事だ。
私は広告の簡潔さと、手軽な満足感を得られるところが好きだ。私たちの仕事の本当の素晴らしさは、文化や広告やエージェンシーに対して何かを送り出すことができるという点だ。私たちは今、10年、15年、20年前よりもはるかに多くのことをこなしている。製品を作り、ポリシーを生み出している。つまり、WPPだけではなく多くの場所でポリシーを作り変えてきたということだ。より多くの多様な志望者や若者たちに我々の業界の魅力を感じてもらえたら、と願っている。WPPがその役に立てればうれしいが、そうでなくとも、他にも素晴らしい企業はある。この業界には、多様な若い人材が必要だと思うから。
意義深い仕事をして素晴らしい人生を送り、そしてその仕事で時には人を笑顔にすることもできる。いつも人を泣かせてばかりではないんだ、もう少し、笑わせてあげたい。私たちは常に政治的に正しくあろうと懸命に努力をしてきたので、少しユーモアのセンスを失ってしまったようだ。私はもうちょっとだけ、楽しさを付け加えようと頑張っている。なぜなら世界はいま、重苦しいからだ。私たちには楽しさが必要だ。そして広告というのは間違いなく、とてつもなくたくさんの楽しさを味わえる場所だ。
[原文:WPP’s Rob Reilly on the power of creative excellence]
Carly Weihe(翻訳:SI Japan、編集:猿渡さとみ)