Vice Media、 Twitch 上のコンテンツ 広告枠を販売へ:「まずは視聴者の信頼を獲得しなければならない」

DIGIDAY

ヴァイスメディアグループ(Vice Media Group:VMG)は、同社がTwitch(ツイッチ)で発信するコンテンツで広告収入を稼ぎたいと考えている。まずは今月から、半年前にTwitchチャンネルを開設したリファイナリー29(Refinery29)のゲーム系トーク番組「グッドゲーム(Good Game)」で広告販売を開始する。

同グループのコリー・ヘイクCOOがラスヴェガスのCESで語ったところによると、Twitchの営業チームと共同で、プレロール、ミッドロール、ポストロール広告、ブランデッドコンテンツ、プロダクトプレースメントを販売するという。取引価格は最大で数百万ドルにのぼるもよう。

さらに、Twitchとのコンテンツ契約の一部に、ライブショッピングやeコマースを組み込むことも検討している。なお、本記事の米DIGIDAYにおける公開時現在(1月9日)、VMGのTwitchコンテンツで広告の販売実績はひとつもない。

「広告費目当てのコンテンツ配信だと見られたくない」

VMGとTwitchは収益に関わる条件についてはその詳細を公表していない。相手がクリエイターの場合、Twitchの標準的な収益分配率50/50だ。一方、Twitchの広報によると、一部のパブリッシャーとの提携関係では、Twitch限定のコンテンツを制作する際、前金を支払うこともあるという。ただし、今回の契約でVMGに前金が支払われた否かについては肯定も否定もしなかった。

VMGは2022年の晩夏、ヴァイスワールドニュースによるヴァイスのTwitchチャンネルで配信するインタビュー形式のニュース番組を皮切りに、Twitchでのコンテンツ配信を開始した。ヴァイスニュースのグローバルニュース担当シニアバイスプレジデントで、同部門の編集長を兼務するケイティ・ドラモンド氏は当時、「Twitchで新たな収入機会を模索するとしても、このチャンネルでオーディエンスとコミュニティを確立してからにしたい。視聴者の信頼を獲得するのが先決で、単なる広告費目当てのコンテンツ配信だと見られたくないからだ」と述べていた。

視聴者の獲得を優先してTwitchでの収益化を先送りしたことが直接の原因ではないが、米紙ウォールストリートジャーナル(The Wall Street Journal)がその第一報を伝えたとおり、VMGは年初に設定した2022年度の売上目標に約1億ドル(約130億円)届かなかった。このことはVMGに詳しい人物も米DIGIDAYに認めている。VMGの昨年の売上総額は前年と同程度の約6億ドル(約785億円)だった。

ヴァイスのオーディエンスにリーチすることに関心があるかどうか

先週、ヘイク氏と同氏率いるチームはCESでTwitchと夕食会を共催し、その場で両者の提携を発表した。VMGのリファイナリー29は、女性とノンバイナリーのゲーマーやゲーム文化を扱う「グッドゲーム」というメディアを運営しており、これをベースとした同名のTwitch番組で広告を販売することもあわせて発表された。

メディアバイヤーは担当するクライアントがTwitchでのキャンペーンを希望したら、ヴァイスもしくはリファイナリー29を出稿先の候補として検討するだろうか。それは、究極的には、広告主がヴァイスのオーディエンスにリーチすることに関心があるのか、それともTwitchでのライブ配信という点を優先させるかの議論になるだろう。

UMワールドワイド(UM Worldwide)でインテグレーテッドインベストメント部門を統括するシニアバイスプレジデントのモリー・シュルツ氏はこう述べている。「Twitchよりもヴァイスのパーソナリティを見て決める。Twitchがゲームのライブ配信の場であるという理解は十分に浸透しているが、そこではゲーム以外のコンテンツも配信されている。Twitchで配信しているというだけで、ヴァイスのコンテンツを検討する理由になるとは思えない」。

Twitchと相性のよいパブリッシャーばかりではない。このプラットフォームでの広告出稿を検討しているメディアバイヤーであれば、そこで表示されるコンテンツにはことさら厳しい選別の目を向けるだろう。

シュルツ氏もこう話す。「Twitchを検討する際には、最低限、ゲームとの関連性が重視される。ヴァイスは確かにゲームコンテンツを制作しているが、もともとゲーム系ではないパブリッシャーにとっては難しい条件だろう。パブリッシャーにとって、容易に参入できる分野ではない。彼らはとくにゲーム系のパブリッシャーとして知られているわけではないし、Twitchのオーディエンスがそれを目当てにTwitchに行くというコンテンツを持っているわけでもない」。

利益を出せるのは魅力的なコンテンツを提供するパブリッシャーに限られる

リファイナリー29のTwitchチャンネルには、本記事の公開時点で743人のフォロワーがついている。直近60日間(リファイナリー29のTwitchチャンネルでライブ配信がアーカイブされる期間)の再生回数は、動画ごとに大きく変動する。同チャンネルの公開データを見る限り、最大だと2万回をやや上回る一方、もっとも少ない動画となるとわずかに4回だ。なお、同社の広報によると、60日以上前に配信された「グッドゲーム」の動画のなかには、再生回数が20万回あるいは30万回を超えるエピソードもあるという。

ヘイク氏によると、広告主のついたライブ配信で十分な再生回数を達成するため、Twitchも番組配信中にそのホームページで「グッドゲーム」を宣伝する。Twitchでは、このような番宣を以前から有機的におこなってきたという。「Twitchが番宣に協力してくれるため、規模の拡大は容易だ。また、番組には有名人がゲスト出演するため、視聴者がある程度自然に増えることも期待できる。いずれにせよ、必要に応じて各種の番宣を展開する用意はできている」。

ヴァイスニュースはいまもTwitchで積極的に配信しており、現在のフォロワー数は3800人を数える。12月に配信した2本の動画はそれぞれ30万回以上の再生回数を獲得したが、チャンネルの収益化はまだおこなわれていない。ヘイク氏によると、近い将来にニュースコンテンツの収益化に乗り出す計画はあるものの、具体的な日程は決まっていないという。

「プラットフォーマーとの収益分配に関しては、よいものは自ずと上にいくという話だ」と、VMGで商務および販売戦略担当のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるジェフ・シラー氏は述べている。「何もしなくてもソーシャルで好調な利益が出せるというのはまれなケースとなるだろう。大きな利益を期待できるのは、他社では真似(まね)のできない、最高に魅力的なコンテンツを提供するパブリッシャーに限られる。そう考えると、ソーシャルがその真価をもっとも問われるのはブランデッドコンテンツとその配信かもしれない。ある意味、真っ向勝負といえる」。

Twichへの参入は明暗が分かれる

動画ニュースを配信するリカウント(The Recount)は昨年4月にTwitchとの提携を発表した。このとき、同社は「リカウントライブ(Recount Live)」というTwitch限定の番組を制作するとして、Twitchから前金を受け取っている。具体的な金額は公開されなかった。また、この契約により、Twitchのアフィリエイトプログラムの一環として、番組中のプレロールおよびミッドロールの広告収入、さらにTwitchの各種サブスクリプションから入る消費者収入も、その50%がリカウントに支払われる。ところがその半年後、ネットメディアのアクシオス(Axios)が昨年12月に報じたとおり、リカウントは従業員に営業を一時停止すると通告した。「リカウントライブ」もどうやら完全にTwitchから撤退したようだ。

一方、ローリングストーン(Rolling Stone)はライブストリーミング配信で着実に視聴者を集めている。現在のフォロワー数は約5万5000人で、1月5日からTwitchで配信されている直近の動画の再生回数は、本記事の公開時現在、23万3000回を超えている。

「Twitchでは、ほとんどのパブリッシャーが疲労困憊するほど集中と献身が要求される」。そう語るのは、コンヴィヴァ(Conviva)で戦略担当バイスプレジデントを務めるニック・キケロ氏だ。「Twitchというプラットフォームでは不断の積み重ねがものをいう。収益化するしないにかかわらず、オーディエンスの構築が鍵となる。あちこちで同じコンテンツをサイマル配信するだけではらちが明かない」。

たとえば、米紙ワシントンポスト(The Washington Post)はTwitchで4万2000人超のフォロワーを獲得したが、Twitchでの実験は一時中断されているようだ。ニュースのライブ配信は2ヶ月前を最後に更新が途絶えている。投稿した動画は数千単位の再生回数を獲得し、オーナーはTwitchの親会社であるAmazonの創業者で、取締役会長を務める億万長者のジェフ・ベゾス氏だ。それにもかかわらず、ポスト紙はTwitchでニュースコンテンツの配信を成功させる決め手を探しあぐねている。

キケロ氏はこう話す。「Twitchはすべてのパブリッシャーに適しているわけではない。Twitchでオーディエンスをつくり育てるためのDNAを持ち合わせ、出演者に注力するなら、成功が期待できるかもしれない。いずれにせよ、自分たちのオーディエンスが誰で、どこにいるのかを知ることが先決だ」。

[原文:Vice Media is ready to sell ads on Twitch, starting with Refinery29’s Good Game show

Kayleigh Barber(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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