ブランドのエージェンシー判断指標、「 離職率 」が加わる:「人材を維持できないのなら、ペナルティを受けるべき」

DIGIDAY

数カ月前の時点では、広告エージェンシーの社員たちの多くは燃え尽き症候群を体験していた。それは「大離職時代(the Great Resignation)」のせいでリソースが少ないにもかかわらず、常に新しいビジネスを売り込む「ピッチ」任務を次から次へと課せられていたからだった。

いまでもエージェンシーのクリエイティブやピッチコンサルタントのなかには、まだ忙しいスケジュールを抱えていると言う人もいる一方で、新しいビジネスの動きが遅くなっていると言う人も出てきている。

「ピッチ担当者が今後もいるかはわからない」

ピッチコンサルタントやエージェンシーのクリエイターによると、(エージェンシーやコンサルタントにおける大離職を懸念する)クライアントと向き合うために、ピッチが進行しているエージェンシーにとって人材の確保がより重要になってきているという。

独立系の人材紹介コンサルティング会社R3のプリンシパルである、グレッグ・ポール氏は「クライアントが(エージェンシー側のスタッフの)離職率を重要なKPIにしているのを目にするようになってきた」と言い、最近ではそれがピッチにおける指標のひとつとしてよく使われるようになったと付け加えた。「クライアントは人材を維持できるエージェンシーが報われ、維持できないエージェンシーはペナルティを受けるべきだと考えている」。

人材紹介コンサルタント会社のAARパートナーズ(AAR Partners)のプレジデント、リサ・コランチュオノ氏によると、大離職がいまピッチを行っている一部のクライアントの最大の関心事となっているため、人材獲得に関してはこれまでになく流動性が高まり、各社で人の出入りが激しくなっていると指摘する。

「いまは人の移動、仕事の機会がとても多い。(いまあなたに新規案件を売り込んでいる人が)案件が実際に始まった時に勤務し続けているとは約束できない状況だ」。

売り込みの低迷

「大離職時代」においてクライアントたちが人材の維持をより重要な指標のひとつとしていることに加えて、一部のエージェンシーの幹部やピッチコンサルタントは、ここ数カ月で新規事業の売り込みが全体的に減速していると語る。

これは全てのピッチコンサルタントやエージェンシー幹部に当てはまるわけではないが、R3によれば、今年2月の時点で、新しいビジネスのピッチは前年比で24%ダウンしており、実行されているピッチにおいてはその金額が前年比で47%減少しているという。

人材紹介コンサルタント会社アーク・アドバイザーズ(Ark Advisors)のパートナーであるアン・ビロック氏は、「たとえば4月は必ずしも1年の中で(新規売り込みが)低迷するような時期ではない」と語る。ブランドは通常、この時期には第4四半期の広告増加に備えて売り込みをかけている体。「この時点で、ブランドは第4四半期に向けて仕事を準備するためにエージェンシーを探しているはずだが、私たちはそれをあまり見かけない」。

ポール氏は、現在行われているピッチは、プロジェクトやクリエイティブの規模が比較的小さいものが多いと説明した。同氏によると、「クライアントがメタバースやNFTをテストしたり学んだりすることに非常に興味を持ち始めているため、それらの分野に対する関心や重視が高まっている」という。

小規模なピッチも検討

広告代理店の幹部やピッチコンサルタントによると、体験型マーケティングやアクティベーションの復活にも注目が集まっているようだ。大きな(対面式の)イベントが復活する中で、体験型マーケティングを再開させるというオプションもマーケターたちは念頭に置いているようだ。これらのアクティベーションは大きな事業の一部であることもあるが、それ自体が単発のプロジェクトとして成り立つ可能性もあり、エージェンシーたちが小規模なビジネスとして競い合う対象となっている。

またエージェンシーの幹部やピッチコンサルタントによると、いくつかのエージェンシーでは、現在進行中の小規模な新規事業のピッチについては、報酬額の基準を引き下げているという。報酬が安くとも、そのプロジェクトをさらに大きなものに進化させたり、ただ報酬として額が小さいという理由で却下するのではなく、(クライアントである)小さな会社が今後成長するかどうかの可能性をより詳しく検討しようとする狙いだ。

取材に応じた2人のピッチコンサルタントによると、大手エージェンシーグループたちも現在、小規模な顧客向けのピッチを行うことを受け入れており、小規模なピッチの機会から彼らを除外しないようにコンサルタントに指示しているという。

たとえそうであっても、小規模なプロジェクトのために絶えずピッチを行うことで全体的に疲弊してしまい、スタッフが燃え尽きてしまう可能性があるため、「とにかくピッチに参加する」よりもまず、慎重に選択すべきだとピッチコンサルタントたちは考えているようだ。

[原文:Marketing Briefing: Why staff turnover has become a more important metric for agencies pitching clients as the pursuit of new business evolves

Kristina Monllos(翻訳:塚本 紺、編集:黒田千聖)

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