SVB の破綻から1カ月、広告業界への影響はこれからだ:「これまで顧客やパートナーの銀行口座をリスクだと捉えたことは一度もなかった」

DIGIDAY

銀行を巡る混乱が広告業界にどのような影響を及ぼすかを予想するのは難しい。しかし、待ち焦がれていた修正の手掛かりはある。

シリコンバレー銀行(SVB)の破綻から1カ月のあいだに起きたことは、広告に関わる起業家やCEOにとって、長い現実直視の機会となった。

SVBの破綻は、現在の大半の銀行が取り入れている部分準備銀行制度において、企業の資金は実際には銀行にないどころか、一度たりとも銀行になかったことを痛感させる出来事だった。実際のところ、そうした資金はさまざまな期間、他者に貸し出されていて、その期間が終わるまで返ってくることはない。そのため、物事がうまくいかなくなり、慌てて銀行から全財産を取り戻そうとしたとき、実際にはそこに現金がないことを知り、驚くことになる。

資金調達が白紙になった例も

SVBが破綻したとき、何が起きたかは火を見るより明らかだ。

インデックス・エクスチェンジ(Index Exchange)のCEO、アンドリュー・カサーレ氏は、「当初、パブリッシャー1社から、懸念があるため、SVBの口座への支払いを保留してほしいという要望があった。その後すぐに、同じことを求めるパブリッシャーが続出した」と振り返る。

SVBの多くの顧客と同様、広告幹部は混乱に陥った。

そのひとりは米DIGIDAYの取材に対し、すぐに投資家と連携し、つなぎ融資の検討を始めたと述べている。この金融危機が原因で、アドテク事業の資金調達がすべて白紙になったとDIGIDAYに語った広告幹部もいる。アクイティアズ(AcuityAds)は現金の90%以上をSVBに預けており、自社株の売買を停止せざるを得なかった。プレイス・エクスチェンジ(Place Exchange)のように、すべての顧客に対し、追って通知するまで、予定されていた支払いを一時停止するよう要請した企業もある。

そして、そのすべてが、SVBで取り付け騒ぎが起きてから最初の数時間のあいだに起こった。

その後、パニックは収まった。SVBは米連邦預金保険公社と連邦政府の支援を受けることになり、広告幹部、そして、すべての顧客は、預金にアクセスできるようになった。

銀行が「リスク」とみなされるように

大惨事は回避されたのだろうか? 必ずしもそうとは言えない。SVBの破綻によって、大量のほこりがふるい落とされた。そして、広告幹部は想像すらしていなかった事実を目の当たりにすることになった。銀行の信頼は相対的なものにすぎないという事実だ。

その一例として、クレディ・スイス(Credit Suisse)に何が起きたかを見てみよう。SVBが破綻したとき、クレディ・スイスにすぐ飛び火しなかったのは、本質的に不安定なものがそこにあったためだ。クレディ・スイスが炎上したのは、ベアー・スターンズ(Bear Stearns)やリーマン・ブラザーズ(Lehman Brothers)がそうだったように、最も弱いつながりと見なされたためだ。そして、そのような物語はいったん始まると、なかなか止めることができない。結局、銀行は信頼の上に成り立っている。

「顧客やパートナーの銀行口座をリスクだと捉えたことは一度もなかった」とカサーレ氏は明かす。「それが、この困難な時期から得た最大の収穫だ。取引銀行を含めた顧客の組織を理解するため、私たちは入念な調査を行っている」

これは誰にとっても厳しい教訓だ。広告業界のように、財務規律が徹底されていない業界であればなおさらだ。もちろん、そのような状況は今変わりつつある。広告幹部の意識は確実に変化している。そして、広告幹部はかつてないほど、サプライチェーンの流動性に関心を持つようになった。こう語るのは、広告事業の迅速な資金調達を実現するプラットフォーム、オアレックス(Oarex)のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるニック・カラビア氏だ。今、広告幹部が求めているのは、素早く現金を手に入れることなのだ。

マーテク企業ソーシャル・チャンプ(Social Champ)のCEO、サミール・アーメド・カーン氏は、「経費や従業員の給与はすべてSVBから支払われているため、少し心配だった」と振り返る。「また、1つの銀行に全幅の信頼を寄せてはいけないと気付いた。この出来事をきっかけに、投資を分散するようになった」

引き締めの動きが広告業界に与える影響

ニーチェの言葉を借りれば、混乱から秩序が生まれる。

あるデジタルメディア企業の創業者は匿名を条件に、SVBが破綻したときの体験を率直に語り、「今後、この分野に参入するスタートアップの多くは取引銀行についてはるかに厳格になり、多様化が進むことになるだろう」と予想した。

質への逃避とでも呼ぼう。しかし、その代償は大きいかもしれない。SVBの破綻後、大手銀行には現金があふれかえっている。そのような金融機関が最もやりたくないのは、その現金を働かせるために貸し出すことだ。口座に現金が流入したのと同じくらい急速に、口座から現金が流出する可能性があるためだ。

つまり、銀行は誰にどれだけ貸すかについて、より慎重になるということだ。

これが現実になったとき、経済は引き締めの方向に動く。そして、これは広告業界にとって、決して良い兆候ではない。確かに、SVB破綻の副次的な影響は広告費にとって、ハリケーンというより向かい風に近いものだが、マーケター、パブリッシャー、アドテク幹部は警戒を続けている。

バイリンガル、バイカルチャーのメディアプラットフォームであるムンドナウ(MundoNow)のCEOを務めるレネ・アレグリア氏は、「この分野で数少ないマイノリティー所有の企業のひとつとして恐れているのは、銀行を巡る状況とVCが有色人種のデジタルコミュニティーにどうアプローチしているかを考えると、マイノリティー率いるデジタルスタートアップが以前ほど資金を得られなくなるかもしれないということだ」と語る。

シーケンシャル・ライアビリティ条項が懸念事項に

そして今、シーケンシャル・ライアビリティ条項に根差した恐怖がある。広告契約に含まれる条項で、広告費の流れの上側にいる企業が支払いを受けなければ、下側にいる企業も支払いを受けることはないと書かれている。通常、これは大きな問題ではない。しかし、経済が打撃を受けたとき、これが現実になりやすい。

パンデミックによって、アドテク企業の経営陣はそれを痛感した。SVBの破綻によって、それがさらに明白になった。今、アドテク企業の経営陣は既存の関係を見直し、リスクと判断した関係を一時停止したり、より厳しい保険条件を導入したりしている。

「私たちが一緒に仕事をしている企業は皆、サプライチェーンのどこからリスク、つまり広告費が来るかを気にしている」とカラビア氏は話す。「ここで懸念されているのは、ほとんどの場合、シーケンシャル・ライアビリティ条項だ。これまでも常に懸念の対象だったが、SVBの破綻後、それがどのような結果をもたらすかを皆が注視している」

多くの場合、パブリッシャーが貧乏くじを引くことになる。後からもたらされたこの教訓は、パブリッシャーにとって、今も変わらず有益だ。SVBの経営が傾き始めてから、パブリッシャーはアドテクパートナーの財務健全性や保全性について、より多くの質問をするようになった。厳格なクレジットポリシーを持たないベンダー、あるいは、リスクを顧みず、成長に全力を注ぐベンダーにとっては悪い知らせだ。その結果、弱い企業がサプライチェーンから排除され続けている。

「ここ数週間、このような出来事をかなり目にしている」とカサーレ氏は話す。「パブリッシャーは最近、ベンダーのデューデリジェンス(適性評価)をさらに強化している」

サプライチェーンの統合を後押しする出来事は増え続けており、SVBの破綻はそのリストに加わった最新の出来事だということだ。

[原文:A month after the collapse of Silicon Valley Bank, the fallout is just beginning for the ad industry

Seb Joseph and Marty Swant(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:分島翔平)

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