iOS16 の内容にデジタル広告業界は安堵も、危機は去らず:ティム・クックは「懸念」を主張

DIGIDAY

デジタル広告業界にとって、AppleのWWDCの開幕日は、戦々恐々としてカレンダーに印をつける日となっている。

恐れるのも無理はない。近年、ITP(Intelligent Tracking Prevention)、ATT(App Tracking Transparency)、「メールを非公開(Hide My Email)」、「プライベートリレー(Private Relay)」などの機能が、Appleのエコシステムのあらゆる階層にわたり、一貫してオンライン広告を骨抜きにしてきたからだ。

しかし、今年のWWDC――Appleが毎年開催し、今後のソフトウェア製品のリリース予定を発表する最大カンファレンス――の基調講演を最初に目にした広告業界の人々は、安堵のため息をつくことになった。

6月6日に開幕したWWDC 2022では、CEOのティム・クック氏やソフトウェアエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントのクレイグ・フェデリギ氏といったAppleの幹部陣が登壇し、新しいeメール、テキストメッセージ、写真共有機能など、iOS 16とmacOS Venturaで予定されているアップデートをプレビューした

Appleによるプライバシー保護対策の歴史

Appleは近年、「プライバシー」を消費者に対するブランドプロミスの基軸としている。今年のWWDCの基調講演でも、幹部陣が、iPhoneのウォレットにおけるユーザーIDの保護や、「Safety Check」という新機能を紹介するなかで、この言葉に触れている。WWDCは6月10日までの開催だったが、7000億ドル(約94兆1100億円)近い規模のオンライン広告ビジネスに携わる人々への、厳しい批判が檀上から発せられないことは、つかの間の救いとなっただろう。

この5年間というもの、AppleはウェブとiOSの両方において、デジタル広告のエコシステムに自分たちの意向をじわじわと押し付けてきた。それはITPの導入による、SafariでのサードパーティCookieの規制強化から始まった。関係筋によると、この動きに伴い、Appleの同ウェブブラウザにおけるパブリッシャーのCPMが60%も低下したという。

2017年に発表されたこの機能は、ウェブで2番目によく使われているブラウザであるSafari上で、クロスサイトトラッキングを制限するもので、他のブラウザ、中でもGoogle Chromeに同様の動きを促す転換点になったと考えられている。

その後数年間、iPhoneメーカーの関心はモバイルOSに向けられた。スマートフォン市場におけるiOSのシェア(28%)が、ブラウザ利用におけるAppleのシェアを上回ることから、この動きは、広告掲載媒体に対して、より広範な影響をもたらす可能性が高いと見る向きが多かった。

Appleは2020年、ATT機能をiOS 14で導入し、iPhoneユーザーに、アプリパブリッシャー(およびその収益化パートナー)が広告露出後の行動を測定することを許可するか確認することで、IDFA(Identifiers for Advertisers)と呼ばれるモバイル識別子を取得しにくくする意向を明らかにした。

業界に与えられた執行猶予

Appleは業界に対して何度か猶予期間を与えたものの、そのような締め付けの見通しだけでも、業界関係者の多くを怯えさせるには十分だった。iPhoneユーザーの行動測定に頼る複数の公開企業の株価にも悪影響が及び、とりわけFacebookは深刻な打撃受けた。

さらに、その後のiOSアップデートと「メールを非公開」機能によって、Appleは、マーケターがキャンペーンのパフォーマンス測定で頼りにしている、もうひとつの重要なデータポイントを取得しにくくする考えを打ち出し、関係筋はこれを「とどめの一撃」だと米DIGIDAYに語った。

そして今年のWWDCを前に、別の関係筋は、IPアドレスを隠せるiCloudの有料ユーザー向け機能「プライベートリレー」を、AppleがデフォルトですべてのiPhoneユーザー向けに提供するようになるのではないかと予想していた。

そのようなことになれば、デジタルマーケティング分野はさらに骨抜きにされていただろう。この分野の幹部らの中に、Appleのプライバシー関連の取り締まりが、政府の競争当局の監視によって抑制されているとの見方があるとしても、楽観視はしないほうが賢明だ。

「プライバシーへの悪影響を懸念」

AppleのCEO、クック氏は今年、国際プライバシー専門家協会(IAPP)の最大の年次カンファレンスにおいて、当局による措置が消費者に悪影響を及ぼしかねないという自社の懸念を出席者に訴えた。

「私たちは、他の目的のためにプライバシーとセキュリティを損なう規制について深く懸念している」と、その席でクック氏はIAPPの代表者らに語っている。「政策立案者たちは競争の名の下に、サイドローディングと呼ばれるプロセスによってiPhone上のアプリがApp Storeを回避できるようにする措置を講じている」。

[原文:Apple’s iOS 16 spares ad tech further anguish (for now) but more privacy clampdowns expected

Ronan Shields(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:猿渡さとみ)

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