「不況に強い」 ラグジュアリーファッション が投資対象として注目【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

投資対象として牽引力を増す「不況に強い」高級ファッション

NFTの人気は、若い消費者が高額なファッション製品に投資する機会をもたらしている。

5月11日、希少なダイヤモンドや倫理的に調達された高価な宝石を手始めに高級品の消費者資産を中心に扱う投資マーケットプレイス、ラクサス(Luxus)が正式にローンチした。同社はブランドと連携し、投資家にフラクショナル・オーナーシップ(共同所有権)を提供することで、ラグジュアリー関連の投資機会を民主化する。参加資格は、まずは米国に居住している18歳以上の認定投資家および非認定投資家となっている。

ラクサスは、ブラックストーン(Blackstone)の元エグゼクティブで23年間ヘッジファンドで経験を積んできたダナ・アウスランダー氏と、シャネル(Chanel)での経験を持つヴォーグ(Vogue)の元マーケットエディターのグレッチェン・ガンロック・フェントン氏によって設立された。ふたりは高級消費財投資への関心の高まりを利用し、その人脈と業界での優れた能力を駆使して、同社をラグジュアリー、商品、収集品が交差する場として位置付けることを目指す。ラグジュアリー市場は2021年に回復し、年間6~8%の成長を持続させて2025年までに4000億ドル(約51兆円)近くに達するとされている。ラグジュアリーの消費者のオンライン投資に対する新たな意欲についてはいうまでもない。

「インフレーションはここ数十年で最高に達しているが、ラグジュアリーは2021年に当たり年を迎え、有形資産はかつてないほど重要性を増している」とアウスランダー氏は述べ、有形資産を「不況知らずの資産」と呼ぶ。

資産価値のある商品への投資プラットフォームが注目されている

そうした意見には、クリスティーズ(Christie’s)のハンドバッグとアクセサリー部門の国際シニアスペシャリストであるレイチェル・コフスキー氏も同意している。「クリスティーズでは2008年の不況の真っただ中に、オークションで販売されたバッグの世界最高値を記録した」。5月11日、クリスティーズは、これまでオークションで販売された中でも最大のホワイトダイヤモンドを含む2点の200カラットのダイヤモンドを筆頭に、およそ7000万ドル(約90億円)相当の宝石を販売した。その週の初めには、アンディ・ウォーホル氏の作品「ショット・セージ・ブルー・マリリン(Shot Sage Blue Marilyn)」が、同じくクリスティーズを通じて、20世紀の美術品としての記録的な価格を打ち立てている。

特にダイヤモンドに関しては、世界のダイヤモンドの3分の1をロシアの採掘会社アルロサ(Alrosa)が生産しているが、現在アメリカの制裁下にあるため、ヨーロッパでの戦争が需要に大きく寄与している。

ラクサス以外にも「IPOを簡略化した形の証券化」(Nasdaqを連想するとよいかもしれないが、ただし資産は7500万ドル、約97億円以下)を提供する「レギュレーションA」のプラットフォームは数多く存在している。美術品を専門に扱うマスターワークス(Masterworks)は、10億ドル(約1287億円)以上と評価されている。アウスランダー氏によれば、ラクサスの差別化要因は独占性を排除していることだ。マスターワークスとは異なり、投資家は誰かに招待される必要がなく、投資のためのウェイティングリストも存在しない。さらに、宝石やジュエリーに特化することで、女性が少ないというレギュレーションAの「明白な欠落」を補っていると彼女は主張する。この分野のほとんどが、不動産、ウイスキー、ワインなど、「男性が築いた商品」が中心なのだ。

高価なジュエリーが投資機会として成熟

アウスランダー氏とガンロック・フェントン氏は、ジュエリーが文化的なイベントやエンターテインメントで目立つことが同社のビジネスに有益になると期待を寄せる。アウスランダー氏は、ドラマ『ダウントン・アビー(原題:Downton Abbey)』から映画『アンカット・ダイヤモンド(原題:Uncut Gems)』にいたるまで、あらゆるものにおけるジュエリーの役割をリストアップし、2019年のアカデミー賞で128カラットのティファニーのイエローダイヤモンドを身につけたレディー・ガガなど、レッドカーペットを象徴したジュエリーに注意を向けさせている。セレブリティが身に着けたアイテムは価値が上がり、投資機会として熟しているという点と、ジュエリー会社の保管庫や金庫に保管されていることが多いという点に、ラクサスは直接的な結びつきを見出した。

ラクサスはプレシード資金調達ラウンドで250万ドル(約3億2200万円)を獲得し、7月にソフトローンチを果たした。投資家にはファッションブランドのヴェロニカ・ベアード(Veronica Beard)の共同創業者であるヴェロニカ・M・ベアード氏をはじめ、ブラックストーンの現在および過去のエグゼクティブなどがいる。

クヴィアト/フレッド・レイトン(Kwiat/Fred Leighton)が同社のローンチパートナーで、プラットフォームを通じてアーガイルピンクダイヤモンドを一般に提供する。40万ドル(約5153万円)というこのダイヤモンドの価値の高さを考慮し、シェアは200ドル(約2万6000円)となる予定だ。このダイヤモンドは、世界のピンクダイヤモンドの95%を産出し、2020年初頭に閉山したオーストラリアのリオ・ティント鉱山から調達したものだ。アウスランダー氏によると、2005年から2020年にかけて年間評価額が11.5%上昇すると分析されていることから、「悩むまでもなく」開始時のMVPに選んだという。「私たちは、人々に儲けてもらいたい」と彼女は述べた。

時計や自動車など、今後さらに投資対象を拡大予定

ラクサスは2023年に成長を加速させる前に、今年さらにふたつの資産を販売する計画だ。

アウスランダー氏とガンロック・フェントン氏とともに、同社のウェブサイトの運営にはキャンターフィッツジェラルド(Cantor Fitzgerald)のCXフューチャーズマーケット(CX Futures Market)でかつてプレジデントを務めたリチャード・ジェイコブズ氏が加わり、初めて投資する人でも使いやすいものにすると請け負っている。1月には対応するアプリのローンチも予定している。CXフューチャーズマーケットでは、天候などのカテゴリーに関連する金融商品の取引を提供している。

アウスランダー氏いわく、ラクサスはクリスティーズからふたりのエグゼクティブを採用しており、現在FinTech(フィンテック)に移行しているオークションハウスの従業員たちに支援されている。諮問委員会には、サザビーズ(Sotheby’s)とヴァンクリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)のエグゼクティブが名を連ねる。

今後ラクサスは、時計やその他のアクセサリー、さらには自動車もこのプラットフォームに追加することを計画しているが、ハンドバッグなどのソフトラグジュアリーアイテムはあまり期待しない方がいいだろう。

「もっとも高級なバーキンでさえも、そこまでの価値はない」とアウスランダー氏は説明したが、将来的にはファッションハウスの中でもエルメス(Hermès)やシャネル(Chanel)に限ってはパートナーシップも検討しているという。「ジェーン・バーキン氏のために特別に作られたプロトタイプなら、積極的に検討するだろう」。

NFTでも暗号通貨でもない、価値ある商品の証券化

アウスランダー氏によれば、ラクサスは50万ドル(約6440万円)以上の「博物館級」の資産を独占的に取引したいと考えている。そのため創業者たちは、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(Victoria and Albert Museum)などのミュージアムに現在収蔵されている作品に目を付けている。また、ラクサスの資産を展示するために、関連するミュージアムを活用することも目標だ。アウスランダー氏は、ボストン美術館にジュエリーの常設展示があることに言及した。

将来的には、たとえば希少な家宝をオークションハウスではなく、このプラットフォームに持ち込むほうが望ましいと出品者に思わせるようなプログラムを立ち上げる予定である。また、アジア市場に照準を定めた国際的な展開という野望もある。

ブランド側としては、もっとも価値のある商品を証券化することでメリットが得られる。ラクサスは各資産を証券取引委員に提出し、さらにそのアイテムを宣伝して代替取引システム(ATS)に上場している。

「私たちは完全に規制の下にある」とアウスランダー氏は言う。「これはNFTではないし、暗号通貨でもない」。

アプリのローンチに合わせて、ラクサスの投資家は二次流通市場で自分のシェアを売却して利益を得ることを選べるようになる。さらに、ブランドは資産をIPOよりも高い価格でこのプライベート市場に売却することを選択できる。ブランドは手数料でインセンティブを受け、その収益は投資家に分配される。小売店は商品の保険に責任を持ち、ショールームの目立つ場所に陳列する義務がある。

マーケティングに関しては、ラクサスはブランドパートナーの名前、着実なコンテンツカレンダー、そして「多くの」資金を活用し、投資家と消費者の両方に自社を紹介している。いまのところはeメールキャンペーンと有料のデジタル広告に頼っており、特に注力しているのはインスタグラムだ。次にTikTokとTwitterに投資し、ポッドキャストも開始するつもりでいる。

実際のモノの所有に関心のないZ世代に取り組む

これはタイムシェアリング・プログラムではなく、投資家がそのアイテムを受け取ることは決してない。

「若い世代は、実際に所有することに関心がなく、そこが異なる点だ。X世代とブーマー世代は、それを見たり、着たり、一緒に持ち歩きたいと思っている」とアウスランダー氏は指摘した。「若い人たちは、それが自分のポートフォリオにどう反映されるかを本当に気にしている」。

ミレニアル世代とZ世代は、特に文化的に人気のある方法で投資ポートフォリオを多様化することに関心を持っている層であることを考慮すると、まさにラクサスのターゲット層である。これはNFTブームで証明されている。

「NFTと暗号通貨のムーブメントは、間違いなく私たちに有利だ」とアウスランダー氏は言う。「昨年はNFTは一時的な流行だと考えたが、明らかに定着している」。

もちろん、暗号NFTの分野は完全に安定しているわけではない。5月12日の朝、デュアル暗号通貨のルナ(Luna)とテラ(Terra)の価値が暴落し、それぞれ0.93ドルと0.23ドルで取引された。後者は常に1コインあたり1ドルで取引されることを意味する「ステーブルコイン」だ。

それでも、ラクサスはいずれはオープンシー(OpenSea)を介して、NFT領域で遊んでいる人たちに加わることを計画している。メタバースに飛び込む準備はまだできていないが、若い買い物客に正面から取り組みたいと考えている保守的なブランドにとって、ラクサスは一歩前に踏み出す存在になると、創業者たちは考えている。

若い消費者層のあいだでは、実際に手にすることができるラグジュアリーファッションへの大きな投資も広まっている。コフスキー氏いわく、今月初めに行われたクリスティーズのハンドバッグ・オークションでは新規顧客の半数がミレニアル世代だった。クリスティーズはWeChat(微信)にオークションの広告を出しているが、スタティスタ(Statista)によると、WeChatはユーザーの40%が25~35歳である。

クリスティーズはバッグに加え、財布、スカーフ、チャームのカテゴリーでも成功を収めている。12月には、カニエ・ウェスト氏が着用した「Donda」のスタンプ入り防弾チョッキの初のNFTを販売した。このNFTには、ウェスト氏のサイン入りの現物が付いていた。

「今日のファッション(の買い物客)は、自分のお金をどこにつぎ込むかについて、じっくり真剣に考えている」とコフスキー氏は言う。「時の試練に耐えるものを購入したいと思っているのだ」。

[原文:Fashion Briefing: ‘Recession-proof’ luxury fashion is gaining traction as an investment opportunity]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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