ナイアンティック、没入型の AR 開発に意欲的:ビルの家主や広告主から訴えられるリスクも

DIGIDAY

ポケモンGOの開発で知られるソフトウェア開発会社のナイアンティック(Niantic)は、没入感を深める拡張現実(AR)の実験を推進する一方で、未曾有の訴訟攻勢にさらされる可能性に直面している。

現在、AR業界は西部開拓時代さながらの様相を呈している。ナイアンティックの技術を活用して、物理世界に存在する個人所有の物件に仮想的な手を加えたり、ブランドの知的財産をおかしな方法で実験したりするなどの活動が、クリエイターたちのあいだで横行している。

これまで、生まれたばかりのARは彼ら権利者にとって取るに足りないちっぽけな存在だった。しかし、ナイアンティックのAR技術が複雑さを増し、応用範囲が広がるにつれて、この状況は転機を迎えるかもしれない。

次世代型ARアクティベーション

ナイアンティックはこの3月にAR開発ネットワークのエイスウォール(8th Wall)を買収し、拡張現実サービスの法人向け機能やブランディング機能を強化した。

同社でディベロッパーリレーションズの責任者を務めるダン・モリス氏はこう話す。「電通のような世界的なエージェンシーとも仕事ができるようになる。ARを活用したマーケティングキャンペーンを次のレベルに進化させ、一過性の場所に限らず、恒久的に固定された場所でも展開していきたい」。

10月14日にニューヨークのタイムズスクエアで催された、ウクライナ人アーティストのアルテム・ヒュミレウスキー氏によるデジタルアート展は、こうした次世代型ARアクティベーションのひとつの事例といえるだろう。

この日、「巨人」の異名をとるヒュミレウスキー氏の自画像が、最新のAR技術でタイムズスクエアのビルボードやデジタルスクリーンに重ねて合わせて投影された。一部の作品はNFT(非代替性トークン)として販売されている。

タイムズスクエアのアート展は、AR技術を活用して公共の空間を作り替える事例としてはまさに人目を引く。一方で、ナイアンティックの広報部門にとっては憂いの種ともなっている。なにしろ、他人が所有する物理的なビルボードをARで塗り替えたのだから、所有者や管理者から法的措置を取られかねない。

「あれは許されることなのか?」

ナイアンティックでテクノロジーとプラットフォーム関連のコミュニケーションを担当するグレッグ・チエミンゴ氏はこう語る。「あの映像を見て、法務部門に問い合わせた。『あれは許されることなのか?』と。公共の建物をああいう形で収益化してもよいのかと」。

法律家たちは「もっともな問いだ」と述べている。塗り替えられた不動産の所有者や、都会の一等地に大枚をはたいて広告スペースを買ったブランドから訴訟を起こされる可能性は十分にあるという。

土地利用、区画整理、Web3、メタバースなどを扱う法律事務所のローズローグループ(Rose Law Group)を創設し、プレジデントを務めるジョーダン・ローズ氏は、「訴訟の機は熟している」と話す。「建物の家主には、自分の所有する物件に展示物を掲げる権利がある。誰かが私有地に勝手に何か物理的な建物を建てれば、家主は法に訴えることができる。デジタル形式の展示物でも同じことだ」。

ローズ氏は今後、家主やビルのオーナーに、物件周囲のデジタル空間や仮想空間に対する権利をより明示的に主張するよう賃貸契約書を修正すべきと助言するつもりだ。「予防的自衛が必要だ」と同氏は話す。「こういうおかしなことが起こることを想定して、自衛しなければならない。いまは頭のなかだけで起きていることだが、明日には現実になるかもしれない」。

AR開発者が抱える潜在的なリスク

AR技術をめぐる法的なグレーゾーンはいまや財産権に限られない。

たとえば5月には、米人権団体のアメリカ自由人権協会(ACLU)が提起した顔認証技術をめぐる訴訟を受けて、メタ(Meta)がイリノイ州とテキサス州のユーザーを対象に、AR機能の無効化を余儀なくされた。メタはこの判決に関連する法的問題を未然に防ぐための措置であり、メタのAR機能が実際に顔認識技術を使用しているわけではないと説明している。

「メタは反訴しなかった。『そんなことはしていない』とはいわなかった」。プロのARクリエイターであるアレクシス・ゼラファ氏はそう話す。「彼らはただ批判されるがままだった」。

知的財産権や著作権の問題も、AR開発者が抱える潜在的なリスクだ。多くのARユーザーや開発者が人気の高い既存の知的財産を公然といじくりまわしている。持ち主たる企業の取り締まりを恐れることもない。しかしこの技術が広く普及すればどうなるか。拡張現実内でのIPの無断使用に、企業は目をつむったままではいないだろうとゼラファ氏は見る。

「みな、ピカチュウの顔やら何やらを好き勝手に作っている」と同氏は指摘する。「知的財産権や著作権の訴訟もいずれ起こるのではないか」。

ナイアンティックは自社のARプラットフォームの機能拡張を続けている。訴訟の可能性も十分に認識している。それでも、このようなリスクによって、AR内に現実世界のメタバースを構築するという彼らの目標が頓挫することはなさそうだ。

「我々は多くの取り組みをおこなっている。最終的には最高裁判所の判決を待つことになるだろう」と、モリス氏は語った。

[原文:Why Niantic anticipates legal challenges from OOH companies and brands as it develops immersive AR activations

Alexander Lee(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)

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