ワクチン接種キャンペーンを再開する、米ブランドたちの思惑 :「誰もが持つ当然の権利」

DIGIDAY

世の中は、間もなく日常を取り戻すだろう――その明るい予測をデルタ変異株が脅かすなか、ブランド各社はふたたび感染対策を促す取組みを強化。米国人に新型コロナウイルスのワクチン接種を呼びかけている。

米国では現在、半数以上の国民がワクチン接種を完了したものの、新たな変異株の感染者数が急激な上昇を見せている。一方、ファイザー社製新型コロナウイルスワクチンを正式に承認したという米食品医薬品局(FDA)の発表を受けて、ボディスプレーのアックス(Axe)や、クリスピー・クリーム・ドーナツ(Krispy Kreme)、旅行予約サイトのエクスペディア・グループ(Expedia Group)では、自社ブランドの公衆衛生に関する取組みを再検討し、新たなキャンペーンを展開している。

「世の中をできるだけはやく正常に戻したいと望み、そのために何かできることをしたいと思うのは、誰もが持つ当然の権利だ」と、エクスペディア・ブランズ(Expedia Brands)のプレジデントを務める、ジョン・ギーゼルマン氏は話す。

各社の取り組み

クリスピー・クリーム・ドーナツは、ワクチン接種のインセンティブプログラムをはじめて積極的に導入した全米規模のブランドのひとつで、現在、最初に実施したキャンペーンに立ち戻り、ワクチンを1回でも接種した米国人には、ドーナツを2個無料でプレゼントすることにした。また、アックスは6月にキャンペーンを開始。インセンティブプログラムとして全米でコマーシャルを流し、無料体験や商品無料プレゼントを実施している。

また、現在エクスペディア・グループでは、国際連合児童基金(UNICEF)と提携し、世界規模のワクチン接種キャンペーンを展開中だ。このキャンペーンは、新型コロナウイルスに対するUNICEFのグローバルな取組みに1000万ドル(約11億円)を寄付するというもので、エクスペディアやホテルズドットコム(Hotels.com)、バーボ(Vrbo)をはじめとするエクスペディア・グループの全ブランドが参加している。決済時に各ブランドのモバイルアプリを利用すると、自動的に売上の一部が寄付される仕組みで、寄付金は、ワクチンの流通や感染症の診断、治療のために使用される。

「これだけで世界が抱える問題を解決することにはならないが、私たちの活動に賛同したほかの企業が、独自の方法でこの問題に取り組んでくれることを期待している」とギーゼルマン氏は話す。

ウィン・ウィンの関係

旅行業界は、パンデミックのロックダウンでもっとも影響を受けた業界のひとつであることを考えると、エクスペディア・グループにとってワクチン接種のキャンペーンは理に適っているとギーゼルマン氏。「つまりこれは、企業としての目標とも、同じ人類を助けるという社会的使命とも合致するものだと、私たちは考えている」と話す。

このウィン・ウィンの関係は、エクスペディア・グループにとっても一挙両得――そう考えるのはブランディング企業のシーゲルプラスゲール(Siegel+Gale)で、戦略グループの責任者を務めるリサ・ケイン氏だ。このキャンペーンでワクチン接種が進むと、モバイルアプリのダウンロード数が増えるだけではない。「きっとまた、これまでのように旅行ができるようになる」というユーザーの希望も膨らむ。「グローバルな旅行企業であるエクスペディア・グループにとって、世界各地の人々がまた健康に暮らせるようになることは、大きな意味がある」とケイン氏はメール取材で答えた。

クリスピー・クリーム・ドーナツの場合も、今回の取り組みはブランド認知度の向上に役立っているといえるだろう。実際、このキャンペーンではすでに250万個のドーナツを提供している。同様にアックスでも、ワクチン接種プロモーション用プレゼント品はすべて終了し、現在Webサイトでは、そのほかのアックス商品をオンラインで購入できるページを表示している。

ただし慎重さは必要

ただしケイン氏によれば、新型コロナの検査やワクチン接種のキャンペーンが、どのブランドにとっても良いのかといえば、決してそうとも限らないという。今回のパンデミックが米国を分断し二極化をもたらしたため、広告主はそれを踏まえて注意を払うことが求められる。「ブラウニーのポイントを欲しいがために、消費者が踊らされるようなことがあっては本末転倒」だからだ。

一方でケイン氏は以下のように付け加える。「もちろん、企業側が熟慮の結果、思いやりをもって顧客や従業員をサポートするのであれば、いまワクチン接種を推進するのは、押しなべて良いことである」。

ニューヨークを拠点としたブランディング、およびマーケティング企業、TBGAでCEOを務めるクリスティーン・アレマニー氏もケイン氏の意見に賛同する。「もちろん『良いことをする』という目的もあるだろうが、こうしたワクチン接種のキャンペーンは、間接的であれ直接的であれ、エクスペディアに経済的な恩恵をもたらす。整合性のとれた取り組みなら、結果はおのずとついてくるはずだ」とメールで答えている。

アレマニー氏によると、今回のパンデミックを契機に本質的な目的を念頭に置いた、パーパスドリブンなキャンペーンが続々と生まれているという。その多くは、ジョージ・フロイド氏の殺害とブラック・ライブズ・マター(BLM)のムーブメントに応えたものだ

「メッセージの発信や非営利な業務提携を行うとき、ブランド各社は慎重を期さなければならない」とアルマニー氏。「ただ、ワクチン接種の義務化に対する意見は二極化が見られるものの、接種にともなう経済的なハードルを取り除く動きに対して否定的な意見はない」とメールで答えている。

[原文:‘Everyone has a vested interest’: With delta variant and rising COVID-19 cases, brands recommit to vaccination campaigns

KIMEKO MCCOY(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)

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