「我々は1日中、1年中ブラック」:非白人経営のクリエイティブショップ創業者 ブリタニー・ボスコ氏

DIGIDAY

「エージェンシー」という言葉は、クリエイティブショップ創業者で学際的アーティスト、ブリタニー・ボスコ氏には似合わない。事実、彼女は2015年にそのショップ、スラッグ・グローバル(Slug Global)を立ち上げた際、屋号からエージェンシーの文字をあえて外した。胡散臭くなるからだと、ボスコ氏は語る。

スラッグ・グローバルはアトランタとロサンゼルス、そして米中西部一帯に拠点を構える、ブラック&ブラウン(広く、非白人の意)経営の、クリエイティブによるクリエイティブのためのショップである。周縁化されているコミュニティに尽くし、それらコミュニティの声を前面かつ中心に据えるべく、クライアントに対して常に説明責任を果たすという、オーセンティシティ(信頼・真正性)の方針のもと、創業された。そして2020年、人種的不平等に対する抗議運動や公正を求める声が世界中で高まるなか、ボスコ氏と彼女のチームが行なったのは、シンプルに、自らのコアバリューをさらに強化することだった。それはスラッグ・グローバルのチーム全員の士気を高める動きでもあったと、ボスコ氏は語る。

現在、スラッグ・グローバルはブランディング、クリエイティブワーク、ソーシャルメディア戦略、プロダクトの活性化やそのほか付帯サービスを、スタートアップから大手テック企業まで、計8社のクライアントに提供している。また、提携先には、インスタグラム、ブラック・アメリカンによる芸術祭であるアフロパンク(Afropunk)、エナジードリンクブランドのレッドブル(Red Bull)などがある。米DIGIDAYはこのたび、ボスコ氏にインタビューを行った。POC(People Of Color/有色人種、の略語)経営のクリエイティブショップが2021年に有する意義、オーセンティシティ、そして創造的自由について話をうかがった。

なお、読みやすさを重視し、発言は端的にまとめてある。

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ーーまずは、クリエイティブによるクリエイティブのためのPOCショップを立ち上げた経緯を。

世間は相変わらずひとつの枠に入れたがるし、すぐに「君たちはあれこれと手を出しすぎだ。音楽のことだけやっていればいいじゃないか。エージェンシーの世界は混沌だぞ。素人が下手に手を出すものじゃない」なんて言ってくる。実際、絶対にやめたほうがいいと、何度も言われた。でも、我々を応援してくれるキッズもいた。それ、格好いいよって。我々はアーティストで、自分たちのコミュニティを創りたいと思っている。自分の作品を見せたいという欲求と、我々のすることを称賛してくれて、しかも正当な市場価格を払ってくれるコミュニティを創りたいという思いがあった。そこから始まった。

我々はアーティストのために創造するアーティストであって、アーティストのために創造するテック関係の人間ではない。我々自身もアーティスト。そこが、うちのエージェンシーとほかとの決定的な違いだ。全員が独立したアーティストだから。

ーーアーティストであることの重要性とは? それがスラッグ・グローバルの業務にどう影響するのか?

クライアント企業に対して、きちんと説明責任を負える点が大きい。有色人種や黒人が自分たちの同胞に、自分たちの文化に語りかけることが重要なのだと、クライアントに理解してもらえるようくり返し説いている。これまで長いこと、必ずしもそうだったわけではない。しかし、何年もかけて、相応しいクリエイターを起用することの重要性をクライアントに諭してきた。「我々は、そんなことは言わない。そのキャプションはおかしい。我々は、そんな服は着ない。それは偽物の臭いがする」と、口が酸っぱくなるくらい言ってきたし、そんな我々を彼らも信用してくれて、正しい方向に舵を切ってくれた。

ーー2020年、多くのブランドはダイバーシティ推進を宣言した。スラッグ・グローバルにとって、これはどのような意味を持つか。

これはどうかしていると思うが、我々はコロナ禍に助けられた。本当に妙な話だが、あのときに世界で起きたすべてのことが我々の背中を押してくれたのは間違いない。たくさんの説明責任が発生した。パフォーマティブな仕事というのは、何かしようと企画を持ちかけてきた人が、急になしのつぶてになることがある。そういった人たちに対してさえも、説明責任が要求された。だから、我々はそういう人たちにはっきりと伝えた。「たしかに、コロナ禍中に銃の乱射事件もいくつも起きたわけだし、それがとっても重要だったのはわかる。だが、それでも説明責任はあるはずだ。それでは、さようなら」って。eメールで、丁寧に。パンデミックが起きて、それまで以上に説明責任が求められるようになったことで、我々はいまや今後の方向性を示す思想的指導者のような存在として、周囲からみられている。

ーーブラック&ブラウン経営のクリエイティブショップにおける困難とは? それをどう乗り越えてきたか?

今日は何もする気にならないのに、それでも世間の、社会のプレッシャーが重くのしかかってくるときもある。自分は未熟なんじゃないか、私では足りないんじゃないか、という恐怖や、自分のために立ち上がるだけじゃない、自分を頼りにしてくれている人たちのために立ち上がって、その人たちの今の声を伝える作品を創っているんだ、という思いがある。それに対応することもひとつの課題だ。

それと、そう、我々はブラック&ブラウン・エージェンシーなんだ、という強い思いはあった。でも、ときどき、支持してくれている仲間のためにも頑張らなくちゃ、というプレッシャーを感じることもある。彼らは、自分が立ち上がらなかったことで、罪悪感を抱いているわけだから。その点は、あの時期、我々が慎重に進んでいかないといけないところだった。「わかった、今日のところは一歩引く。いったん後ろに下がって、もう一度やり直そう」と、言えるようにしたし、これを言うことを恐れないようにした。

ーースラッグ・グローバルとの仕事を望むブランドや企業にとっての説明責任とは?

自分たちのコアバリューと企業理念に常に忠実であること、それが我々のオーセンティシティだ。どんなに大きなオファーでもそれがコミュニティのためにならないなら、周縁化されている部分に光を当てるものでないなら、ブラックコミュニティの気持ちを高揚させるものでないなら、その仕事は受けない。金額の大小は関係ない。これは1回こっきりでおしまい、という話ではない。我々は1日に1回だけ、1年に1回だけ、ブラックになるのではない。我々は1日中、1年中ブラック。闘いたくないときもブラックだし、それが現実なんだ。

健全な境界線を引けたと思う。もちろん、最初はいろいろと学ぶことがあった。我々だって、常に正しいことができていたわけじゃないから。声を上げるのを怖がっていたのもそう。でも結局、そういう人たちはこっちが何を言っても生意気だと文句を付けてくる。それがわかったから、考え方を改めた。よし、一から作り直してみよう、まったく別のやり方でやってみようって。正直、エージェンシーという言葉を捨ててからは、とても有意義に仕事ができているね。

[原文:‘We’re Black all year, all day’: Art collective turned creative agency talks accountability in 2021

KIMEKO MCCOY(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)

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