マンチェスター・シティ 、eスポーツ事業に本格参入:「レガシースポーツクラブがeスポーツに参入するのは賢明だ」

DIGIDAY

イングランドの強豪サッカークラブ、マンチェスター・シティ(Manchester City)は、サッカー界で大きな栄誉を競うだけでは飽き足らず、eスポーツでも同様の取り組みを行おうとしている。

マンチェスター・シティは2022年4月、同チームで2人目のフォートナイト(Fortnite)プレイヤー、コンラッド・スクラム氏とeスポーツチーム契約を締結した。スクラム氏は、2021年10月に加入したエイダン・“スレッツ”・モング氏と共に戦うことになる。これは、競技ゲームとプロスポーツとのあいだのギャップが狭まりつつあることを示す兆候だ。さらに、サッカークラブがeスポーツファンを獲得するために、リスクを承知で行動に出始めていることを示すものでもある。

そして、その理由は簡単に理解できる。サッカーチームによるeスポーツへの初期段階の進出は、控えめに言っても保守的で、サッカーにこだわり、「FIFA」シリーズの競技イベントに集中することを選択していた。その結果は決して芳しくはなかった。FIFA フランチャイズは世界中に巨大なファンベースを抱えているが、それが必ずしもeスポーツイベントの成功に結びつきはしなかった。その結果、サッカーは世界的に見てもトップクラスのeスポーツとは見なされておらず、ヨーロッパ以外ではそれほど人気がない。

eスポーツ組織ツンドラ(Tundra)の最高経営責任者(CEO)、エブゲーニー・ロシュチャプキン氏は、「そのため、独自のFIFAチームの構築に投資した一部のクラブは、eスポーツ事業を停止または縮小している。プレミアリーグのクラブのほとんどは、現在、正規のFIFAチームを持たず、eプレミアリーグ・トーナメントにのみ毎年参加している」と話す。

変革を起こしてきたマンチェスター・シティ

最初の本格的兆候が見られたのは、2019年、クラブがeスポーツエンターテインメント組織フェイズ・クラン(FaZe Clan)と契約した時だ。この契約は、競技そのものに加えeスポーツを取り巻くライフスタイルに興味を持ったオーディエンスにクラブを紹介しただけでなく、eスポーツの世界へクラブを奥深く導くためのエキスパートを得ることにもつながった。

この動きは功を奏したようだ。マンチェスター・シティのオーナーであるシティ・フットボール・グループ(City Football Group)は2022年初め、日本でFIFA eスポーツチーム「ブルー・ユナイテッド eFC(Blue United eFC)」を所有・運営する、経験豊富で成功したeスポーツ組織のブルー・ユナイテッド・コーポレーション(Blue United Corporation)と提携した。クラブと組織が共にプランを作成することで、要求の厳しいeスポーツやゲームコミュニティに幅広く受け入れられるという。

これには、幅広いeスポーツの機会に目を向け、国際的に成功しているeスポーツタイトルやeスポーツファンコミュニティの本格的な活性化に焦点を当てることが含まれている、とロシュチャプキン氏は語る。

マンチェスター・シティにとってもうひとつの大きな出来事は、2021年にeスポーツチームとして「フォートナイト・バトルロイヤル(Fortnite Battle Royale)」参戦を決めたことだ。これが、前述の競技ゲーマー探しのきっかけとなり、成功すれば、さらに多くの人にクラブを知ってもらうことにつながる。

FIFAとフォートナイトにフォーカス

エンターテインメントIPのなかで、フォートナイトほどのリーチと文化的キャッシュを持つものは少ない。たとえば、フォートナイトのクリエイターによると、マーベル(Marvel)をテーマにした2020年のゲームの第4シーズン最終回には、過去最高の1530万人のプレイヤーが同時に参加し、340万人以上がYouTubeとTwitch(ツイッチ)でその様子を見守ったという。ちなみに、「ゲーム・オブ・スローンズ(Game of Thrones)」最終シーズンの最終回は、HBOチャンネルで1360万人がライブで視聴している。

シティ・フットボール・グループのメディア・ディレクター、ギャビン・ジョンソン氏は次のように述べている。「我々はサッカークラブであり、我々が行うことはすべてスポーツに動機づけられているが、ここ数カ月でeスポーツチームはFIFAを超えて、フォートナイトに進出した。FIFAシリーズは今後も我々の基盤であり続け、その分野で成長し続けるが、ほかの分野にも目を向けている」。

そう言いつつも、FIFAやフォートナイト以外の新しいゲームタイトルには、急いで参入することはないとジョンソン氏は断言している。ほかの分野には徐々に参入し、候補となるタイトルのファンダムをしっかりと把握した上で、何をすべきかを決定したいと考えているという。

ジョンソン氏は「我々はeスポーツチームのためにほかのタイトルも検討し続けるが、現時点で共有できるものはない。基盤が整っていることを確認したい」と続ける。

「多くの投資とコミットメント」

その基盤のひとつが競技ゲーマーのためのサポートネットワークであり、ピッチに立つ選手と同じような、エリートのためのスポーツ環境に身を置くことができるようにすることだ。たとえば、eスポーツチームにはすでにメンタルコーチがいる。合計4人の専属幹部が、4人の選手で構成されるeスポーツチームをサポートしている。

「我々は、サッカークラブであるマンチェスター・シティの選手を扱うのと同じ考え方で、eスポーツチームのメンバーを扱っている。彼らが最高水準のパフォーマンスを発揮できるよう、物理的、精神的、後方支援的なサポートを受けられるようにしている」とジョンソン氏はいう。「そのためには多くの投資とコミットメントが必要になる」。

商業的なチャンスも獲得

eスポーツチームを持つことで得られるマーケティングの利点のほかに、商業的なチャンスもある。4月、マンチェスター・シティとフェイズ・クランは、シティのスタジアムで共同ブランドのグッズを販売するポップアップショップをオープンした。その1年前には、クラブとスポーツ用品メーカーのプーマ(Puma)がeスポーツ用ウェアのシリーズを発売している。

「多くのスポーツの平均的なオーディエンスは急速に高齢化しているため、伝統的なスポーツ組織やクラブが、eスポーツに参入して基盤を拡大し続けることが賢明であることは周知の事実だ」とeスポーツ企業ギルド・Eスポーツ(Guild Esports)のCEO、カル・ホード氏は述べる。

「その結果、マンチェスター・シティのようなクラブが、(サッカーゲームの)FIFAを越えてeスポーツへと焦点を拡大していることは意外ではない。eスポーツの各タイトルには、それぞれ異なるオーディエンスと、そのタイトルへのロイヤルティにあふれた異なるファン層が付いているのだから」。

[原文:‘A lot of investment and commitment’: Manchester City ramps up esports efforts

Seb Joseph(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:黒田千聖)

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