エージェンシーが、ソーシャルおよびリテールプラットフォームと手を組んでデータに直接アクセスすることで、消費者へのリーチを優位に進めようとする動きが増えている。
リテールメディアが広告主のファネル中央部からファネル下部の選択肢として台頭するなか、エージェンシーはプラットフォームとパートナーシップ契約を結ぶことで、広告関連のスキルトレーニングやメディア戦略にアクセスできるというわけだ。
食料品配送プラットフォームのインスタカート(Instacart)はこのほど、より多くの広告主とそのメディアエージェンシーを教育する(と同時に引きつける)ために、「Ads Academy(アド・アカデミー)」を開始した。ブランドや広告主を対象とした、同社の広告プロダクトに関する認定プログラムだ。
Advertisement
連携するエージェンシーとプラットフォーム
レイザーフィッシュ(Razorfish)のメディア担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるロブ・シルバー氏は、「今後もこのように直接的な形でプラットフォームと提携するエージェンシーは増えていくだろう」と述べている。
同氏は「(デジタル分野における)エージェンシーとプラットフォームのこのような緊密なパートナーシップは(中略)、これまでもエージェンシーとプラットフォームが単なる取引関係ではなく、両者の連携をあらゆる側面から見据えた、より包括的な関係を築く推進力となってきた」とし、「そのような関係が、この分野の大手既存パートナーから、投資獲得を狙う新興パートナーへ移っていくのは自然な流れだ」と話す。
IPG傘下のマグナ(Magna)は、不透明な経済情勢にあっても2023年の米国広告市場は回復力を維持し、リテールメディアの広告売上は15%増の410億ドル(約5兆6370億円)に達すると予測している。BTL(テレビ、新聞、ラジオ、雑誌のマスメディア4媒体以外)のマーケティング予算がリテールメディアネットワーク(RMN)の成長を後押しすると同時に、店頭マーケティングからRMNに予算が再配分されるとみられる。
キャンペーンパフォーマンスの最大化
インスタカートの「Ads Academy」は、すべてのブランドとエージェンシーが参加できる。キャンペーンパフォーマンスの向上に利用できる同プログラムには、グループエム(GroupM)などが最初のパートナーに名を連ねている。プログラムでは、インスタカートにおけるキャンペーンのスキルから広告フォーマット、自動化ツールといったトピックをカバーし、マーズ・エージェンシー(Mars Agency)、アセンシャル(Ascential)、ティヌイティ(Tinuiti)、ピュブリシス(Publicis)など、約20社のエージェンシーパートナーがコース内容を提供する。
取材時にピュブリシス・コマース(Publicis Commerce)のCOOだったエイミー・ランジ氏(後日デジタス[Digitas]北米法人の新CEOに就任)は、「今回のパートナーシップを通じて、カリキュラムを策定し、自社の主要なコマースチームやブランドに対するトレーニングに活用できるようになる」と述べている。ピュブリシス・コマースはそのほか、ウォルマート(Walmart)やeBay(イーベイ)などのマーケットプレイスパートナーを持つ。
「(インスタカートの)認定プログラムに参加することで、エージェンシーは、プラットフォームとそのプロダクトの特性を理解し、それによりキャンペーンパフォーマンスを最大化し、ブランドの成長を促進することが可能となる。また、このトレーニングにより、我々は新時代のコマースにおいて引き続き助言と成長を提供していくことができる」と同氏は述べている。
また、「我々はエージェンシーが戦略的に(インスタカートと)連携の度を深め、クライアントの成長を確保することを期待している」と同氏は話す。基本的に、エージェンシーはクライアントが既存顧客や潜在顧客を見つけ出すことを支援しているため、インスタカートに掲載されることは買い物客に広くリーチするうえで役立つのだ。
新しいメディアやテック企業と提携する価値とは
2023年のスポンサードプロダクトに関する社内テストに基づき、インスタカートは広告主の売り上げが15%以上増加したと述べている。同社は約6000社のCPG(消費財)ブランドと提携しており、また北米の8万店を超える店舗からサービスを提供している。
一方で、インスタカートのようなプラットフォーム側にとっての利点は、「急速に成熟し、毎月のように新規参入がある分野で自らを差別化できることだ」と、エクスベラス・メディア(Exverus Media)のパフォーマンスメディア担当バイスプレジデントを務めるシファット・ウラー氏は話す。
ウラー氏によると、このようなパートナーシップをプラットフォームと結ぶエージェンシーは増えており、それは自分たちが新しいメディアやテックパートナーに通じているという安心感をクライアントに与えられるからだという。「ベータ版を試す機会や最新の考え方を常に真っ先にクライアントに提供できるという保証になる」と同氏は述べている。
独立系エージェンシーのノバスメディア(Novus Media)でCMO兼プレジデントを務めるロブ・デイビス氏は、自身のエージェンシーも現在多くのパブリッシャーやプラットフォームと提携していると話す。たとえば、ビアント(Viant)とのパートナーシップを通じて、同社はデジタルオーディエンスを購入し、何百万もの匿名化されたデータポイントにアクセスし、さらにはカスタムツールを構築する能力を手に入れている。
「おかげで(パートナーは)ほかの方法を用いるより多くのビジネスを我々から得ることができ、また我々は、ほかの方法では入手するのが困難あるいは高額なデータへのアクセスを得ることができる。まさにウィンウィンの関係だ」と同氏は言う。
プラットフォームパートナーの存在は不可欠か
同様にReddit(レディット)は4月、ほかのソーシャルアプリと競える広告プロダクトの提供に取り組むなかで、パートナーのアウトリーチを独立系エージェンシーに拡大した。同プラットフォームはすでに主要な持株会社すべてと契約を結んでおり、今回新たに、ホライゾン・メディア(Horizon Media)、PMG、Wプロモート(Wpromote)といった独立系パートナーを獲得した。
「特にRedditがこのようなプログラムを展開するのは賢明といえる。このプラットフォームは広告主に関して、非常に両極端な認識を持たれることが多いからだ」と、エージェンシーのランドリーサービス(Laundry Service)でペイドメディア担当責任者を務めるニティン・シンハ氏は話す。「多くのクライアントやそのエージェンシーパートナーが、このプラットフォームをインターネットの未開の地であるかのような遅れた見方をする一方、その大規模かつ熱心で、情熱的なオーディエンスの価値を理解しているクライアントもいる」。
メディアプランニングやバイイングの戦略は、「ただ競合より多くの金額を投じるだけのブランド」との差別化を助けてくれるものでなくてはならないとシンハ氏は説明する。つまり、バイヤーに自社プロダクトの使い方を教育し、競合に金額で負けても別のアドバンテージを授けてくれるこうしたプラットフォームには、より大きな価値があるのだ。
スパークファウンドリー(Spark Foundry)のコマース担当エグゼクティブバイスプレジデントであるエイプリル・カーライル氏も、コマースおよびリテールメディアの発展にはプラットフォームパートナーの存在が不可欠であり、とくにプラットフォームが常に変化していることが理由として大きいとの見解を示す。
「インスタカートのようなプラットフォームは、野心的なロードマップに基づいて絶えず新しいものを取り入れ、ブランドからの投資機会を逃さないようにしている」と同氏は話す。また、正式なトレーニングや認定プログラムを提供しない機能については、ソフトローンチが行われることが多いとも言う。
さらに、コマースメディアがeコマース、販売、および従来型の検索パフォーマンスを通じて拡大を続けるなか、エージェンシーは引き続き「マネージドサービスとセルフサービスのモデルが混在する購入手段に対処する」ためのパートナーシップを模索していくことになると、カーライル氏は述べている。
[原文:Agencies partner with platforms like Instacart as retail competition increases]
Antoinette Siu(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:島田涼平)