成功に導くリーダーとは? パートナーリーダーシップ こそ、新時代に求められる経営スタイル:トミーヒルフィガーのエイブリー・ベイカー氏

DIGIDAY

パンデミックによって、ワードローブや日常のルーティンが変化したように、成功するリーダーになる方法という長年の考え方も崩壊した。

トミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)のプレジデント兼チーフブランドオフィサーであるエイブリー・ベイカー氏は、「激動の時代」はもはや常態化していると語る。「成功はほんの一瞬で、すぐに基準が高くなり、次の脅威や挑戦が現れる。そして問題を解決してくれるだろうという期待が、リーダーであることの代償となっている」。

今日ではどんなリーダーでもその力には限界があるとして、ベイカー氏はチームを導くために「より人間的な」アプローチをとっているという。それとともに周囲の「人々の可能性を引き出すこと」が最優先事項として浮かび上がってきた。

3月に行われたSXSWで講演したベイカー氏は、トミー・ヒルフィガーが9月のニューヨーク・ファッションウィークで数百万ドル規模の野外ファッションショー/カーニバルを開催したときのことを引き合いに出した。ブルックリンで行われたショーにはファッション界の名だたる人々が参加し、ジュリア・フォックス氏とアメリア・グレイ氏がランウェイを歩いた。一晩中、雨が降っていた。

このイベントを大失敗として今後同じことが起きないように戦略を練るのではなく、ベイカー氏はいつも通り、よかった点にチームの目を向けさせることにした。そのなかには190億回ものメディアインプレッションもあった。彼女がアプローチをこのように変化させたのは、特にパンデミックがそうだったが、過去3年間で人々の生活を大きく混乱させた出来事によって、ものの見方が変わったからだ。

職場の構造が崩れたように、リーダーシップという概念も崩れた。「人々はもう命令されたり、コントロールされたりすることを望んでいない」と彼女は言う。今日のリーダーは答えをあまり持っていないため、これはちょうどいいことかもしれない。要するに、3年前とくらべて新しい世界であり、誰にとっても新しい領域なのだ。そして彼女は、リーダーシップの作戦を書き換える機会だと捉えている。

いま求められているのは「パートナー・リーダーシップ」

リーダーの力は、企業がどのように思われているかに対して影響を与えることができる点にあると、ベイカー氏は言う。それは主に、組織のニーズに基づいて社内の行動や信念を導くことによるものだ。そのため、サーバント・リーダーシップ(相手に奉仕してから導くこと)は前に進む道ではないと彼女は述べ、「カオス」の原因になると指摘した。

つねに困難を伴うニューノーマルにもっとも適しているのは、ベイカー氏が 「パートナー・リーダーシップ」と呼ぶものだ。このモデルでは、チームリーダーとメンバーが互いに助け合う。

リーダーはチームメンバーを元気づけ、刺激を与えて、チームが学び、成長するのを助ける。同時に、リーダーもチームから学ぶ。つまり全員の長所を認めつつ、全員の短所をみなでサポートするというリーダーシップスタイルだ。

「誰もが作りたいと願う未来のために構築されている」と、彼女は言う。

「パートナー・リーダーシップ」の成功のカギは、リーダーがみずからの弱さを見せ、フィードバックを受けようとする姿勢を示すことと、すべての関係者の相互的な信頼だという。「自分もひとりの人間であり、相手と同じように多くのことで悩んでいると知ってもらうことは、この時代に私たちが互いに与え合うことのできる最大に前向きなことのひとつ」と、ベイカー氏はGlossyに語った。

ベイカー氏は自分のキャリアを決定づけた瞬間として、90年代後半のトミー・ヒルフィガーの全盛期に、同社のCMOから彼でさえもインポスター症候群(自己を過小評価する心理傾向)になっていると打ち明けられたことを思い出した。ベイカー氏は1997年から同社に勤務している。

チームとともに学びながら成長する

「パートナー・リーダーシップ」の最近の実践例として、ベイカー氏は問題解決のための「完璧なプラン」をチームに提示しない選択をしたときのことを挙げた。その代わり、彼女はプランの開発にチームを参加させたが、それが功を奏した。「人々はそれまで以上に多くのリスクを負い、さらに建設的な批評に対してよりオープンになり、協力的になった」と彼女は言う。「みんなと一緒にリーダーが現場の第一線にいることをチームが理解するのは役に立つ」。

さらにこうも付け加えた。「チームは、私に明確な方向性と基準を示してほしいと思っている。でもチームには学ぶ余地があり、私はチームに成長するための時間を与える必要がある。そして、私たちはこれまで以上のスピードでそれを行わなければならない」。

ベイカー氏いわく、歴史的にトミー・ヒルフィガーは従業員とのコミュニケーションに多くの時間と労力を費やし、生産性の高いプレゼンテーションやミーティングを主催してきた。パンデミックの間もミニフィルムやショーを活用してインスピレーションとエンターテインメントを提供するなど、リーダーはバーチャルでそれを維持する方法を見出している。

さらにトミー・ヒルフィガーは毎月のタウンホールも継続した。この全社的なミーティングは、組織のさまざまなレベルの人々に貴重な「通信時間」を提供する場となり、社員が取り組んだインパクトのあるプログラムを共有したり、学んだことや成功したことについて話すことができる。

最近では社外での非公式なミーティングなど、あらゆるレベルの従業員とシニアリーダーとのあいだのタッチポイントをより多く設けている。

トミー・ヒルフィガーのグローバル本社と姉妹ブランドのカルバン・クライン(Calvin Klein)のヨーロッパ本社は、アムステルダムにあるひとつの複合施設に入っている。約2500人の社員がそこをオフィスと呼び、週に3日働いている。3月27日、両ブランドを所有するPVHは、2022年の全体的な収益が1%減少したと報告した。トミー・ヒルフィガーの収益も1%ポイント減少している。しかし同ブランドの第4四半期は、前年比3%の成長を反映した。

「(トミー・ヒルフィガーでは)さまざまなリーダーシップスタイルや物事を成し遂げるための方法が受け入れられている」とベイカー氏。「いつも誰かに合わせなくてはというプレッシャーを感じることなく、自分が正しいと思える方法で学び、指導し、チームを構築して成長させる力を与えられていると感じている」。

つねに未来に目を向ける姿勢と断固とした楽観主義の社風

入社25年目にして革新的であり続けることができた理由は、創業者トミー・ヒルフィガー氏のつねに未来に目を向ける姿勢と「断固とした楽観主義」が社内に浸透しているからだとベイカー氏は言う。また、新しく入社してくる優秀な人材もベイカー氏を前進させている。そうした人材には、Web3を中心としたイノベーションに取り組む「SWATチーム」もいる。

ベイカー氏は、9月のファッションイベントはチームの継続的な回復力とともに、昨年度のベスト2に入る誇らしい出来事だったと振り返った。Robloxでライブ配信されたファッションショーに加えて、カスタムTシャツ・ステーションやトラヴィス・バーカー氏のパフォーマンスが行われたほか、THモノグラムの製品コレクションのローンチの場としても機能した。「ランウェイに立つモデルだけじゃない。私たちは中途半端なことはせず、大きく出る」と彼女は言う。

2月にはファッションショーを開催する代わりに、トミー・ヒルフィガーはミュージシャンのショーン・メンデス氏を起用し、主要な市場に立ち寄る「ツアー」を行うグローバル・マーケティングキャンペーンに投資した。さらに、3月にはディセントラランド(Decentraland)のメタバースファッションウィーク(Metaverse Fashion Week)で大規模なアクティベーションを行い、デジタルワールド間の相互運用性について新たな境地を開拓している。

[原文:‘Partner leadership’: Tommy Hilfiger’s Avery Baker on pivoting management styles for a new era]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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