イケアは今、店舗の商品を人々の部屋に置いてもらうべく、新しいテクノロジーを次々に取り入れている。DIGIDAYはイケアの共同最高デジタル責任者兼最高技術責任者にインタビューを実施。ARやAIなどさまざまなデジタルツールを活用して、どのようにオンラインショッピングをパーソナライズしているのか話を聞いた。
イケア(IKEA)の店舗に行ったことがある人なら誰でも、部屋のデザインにインスピレーションを与えてくれる厳選されたルームセットを見たことがあるだろう。イケアのウェブサイトは、いろいろな意味でシンプルで、かつてのカタログの雰囲気を今も引き継いでいる。だが、一方で同社は、店舗の商品を人々の部屋に置いてもらうべく、新しいテクノロジーを次々に取り入れている。
イケアはこの夏、AI(人工知能)を活用した「イケア・クリエイティブ(IKEA Kreativ)」プラットフォームをリリースし、人々が実際の部屋をスキャンして買いたい商品を試せるようにした。イケアがテクノロジーを活用して、店舗機能の一部を買い物客の部屋で提供しようと試みるのは、今回が初めてではない。2017年には、「イケア・プレイス(IKEA Place)」と呼ばれるAR(拡張現実)アプリをリリースし、AIを使って人々が商品を発見したり、「iPad」を使って実際の部屋を見ながら家具の配置をシミュレーションしたりできるようにしている。
イケア・リテール(IKEA Retail)で共同最高デジタル責任者兼最高技術責任者を務めるパラグ・パレック氏によれば、オムニチャネルコマースが同社の事業全体に占める割合は、2016年のわずか2%から25%に増えているという。一方、イケアのアプリを使って人々が作成している部屋のデザインは毎月4万件以上、スキャンしている部屋の数は毎月1万件以上に上っていると、イケアは述べている。顧客のおよそ20%が、あとで見直すために1つまたは複数のデザインを保存しており、平均的なユーザーはデザインの作成に30分以上も費やしているという。
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ポルトガルのリスポンで11月初めに開催されたテクノロジーカンファレンス「ウェブ・サミット(Web Summit)」で、パレック氏は米DIGIDAYの取材に応じ、イケアがARやAIなどさまざまなデジタルツールを活用して、どのようにオンラインショッピングをパーソナライズし、人々が店舗の外でより最適な商品を見つけられるようにしているのかについて語ってくれた。
なお、読みやすさを考慮し、以下のインタビューには編集を加えている。
◆ ◆ ◆
- ――オンラインでのショッピング体験は、対面での体験と同じではない。AIを活用した小売に投資することで、どのような変化をもたらそうとしているのか。
- ――レコメンデーションのためにデータを活用してAIを学習させるという取り組みにおける次の展開は?
- ――今も続く経済の不透明感が、マーケターの計画に影響を及ぼしている。イケアでは、支出を減らしたいと考えている人々や買い物に関する考え方を変えている人々について、どのように見ているだろうか。
- ――イケアのウェブサイトとアプリ以外に、TikTokやピンタレスト(Pinterest)など、ほかのプラットフォームではどのようなデジタルマーケティングミックスを展開しているのだろうか。
- ――インフルエンサーについてはどうか。
――オンラインでのショッピング体験は、対面での体験と同じではない。AIを活用した小売に投資することで、どのような変化をもたらそうとしているのか。
現在、実店舗での体験は、ショールームを見て「ベッドルームのセットや部屋のセットはこんな感じなんだ」とインスピレーションを得ることから始まる。そこから、人々はアイデアを得たり実際の見え方を想像したりして、買いたくなるほど魅力的な商品かどうかを判断している。一方、オンラインの世界は、「すべてのベッドの一覧はこちらで、全商品の一覧はこちら」といったような、極めて二次元的な見せ方になっている。では、イケアならではの体験をオンラインで実現するにはどうすればいいのだろうか。そこで、イケア・クリエイティブではいくつかのシナリオを用意している。そのひとつが、あらかじめ用意されたセットやショールームで、ウェブサイトやアプリを使って見え方を確認できる。だが、より重要なのは、人々が自分の空間でさまざまな家具を試せることだろう。
――レコメンデーションのためにデータを活用してAIを学習させるという取り組みにおける次の展開は?
従来のビジネスとオンラインにおける次の展開は、顧客から完全な同意を得たうえで、(顧客が)何を求めているのかをより詳しく把握できるデータを、どのように収集するのかを考えることだ。彼らは、どのような場所で商品を探しているのだろうか。そのようなデータに基づいて、商品を見て回るよりはるかに楽しいカタログ体験をサポートできれば理想的だ。イケアがかつて作っていた紙のカタログを例に取れば、今のところ、オンラインはある程度紙のカタログと同じだといえる。だが、デジタルを利用することで、押し付けがましくない形でどのようなことを実現できるのだろうか。完全な同意を得たうえで、データの一部を利用し、顧客に価値を提供するにはどうすればいいだろうか。
――今も続く経済の不透明感が、マーケターの計画に影響を及ぼしている。イケアでは、支出を減らしたいと考えている人々や買い物に関する考え方を変えている人々について、どのように見ているだろうか。
これから厳しい冬の時代を迎えることになると思う。イケアで、私たちが重視しているのは手頃な価格だ。多くの顧客はおそらく予算が少なく、今後ますます予算を減らしていくだろう。だが、それは彼らが夢をあきらめたということではない。私たちが顧客基盤に対して負っている責任のひとつは、店頭価格から考えて、あるいは全体的な体験の観点から考えて、いかに多くの商品を手頃な価格帯で提供するかということだ。これには、商品だけでなくサービスも含めてお得感を提供したり、商品を自宅に届けたり、安い価格や手の届きやすい価格を実現する商品構成を考えたり、価格帯を考慮して商品をデザインしたりすることも含まれる。手頃感は、私たちが今後も重視していくテーマだ。
――イケアのウェブサイトとアプリ以外に、TikTokやピンタレスト(Pinterest)など、ほかのプラットフォームではどのようなデジタルマーケティングミックスを展開しているのだろうか。
そのような取り組みはまだ初期段階にある。マーケットプレイスに関していえば、中国でウィーチャット(WeChat)やTモール(Tmall)と提携しているところだ。私たちはマーケットプレイスの観点から、提携できる可能性がどこにあるのかを検討している。
――インフルエンサーについてはどうか。
私たちは今、オンラインライブショッピングに参入し、フィンランドとフランスで実験を行っているところだ。インフルエンサーとどのように連携すればいいのか、ときには彼らが店舗に来て自分の体験をオーディエンスに伝えられるようにするにはどうすべきなのか、といったことを検討している。店舗で商品を販売してきた昔ながらの小売企業であるイケアにとって、この分野への参入は新たな試みだが、そのための機会は設けている。グローバルマーケティング責任者を新たに配置し、この分野で起こっている動きを取り入れているのだ。今後数年間で、さまざまな取り組みを見てもらえることだろう。
Marty Swant(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:黒田千聖)
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