LoL 世界大会のブランドアイデンティティ、いかに構築されたか:垣間見えた広告主への姿勢

DIGIDAY

2022年のリーグ・オブ・レジェンド・ワールド・チャンピオンシップ(League of Legends World Championship)の優勝チームが決まった。「ワールズ(Worlds)」とも呼ばれる世界大会のクライマックスであるとともに、その中心的なテーマ「ワン・アンド・オンリー(One and Only)」の集大成でもあった。

ワールズのテーマは、ブランド顧客をはじめとする関係者からのフィードバックをもとに、数カ月かけて入念に準備し、ライアットゲームズ(Riot Games)の中核ブランドを表現したものだ。つまり、広告主に対するライアットの姿勢をのぞき見ることができる。

ワールズのテーマとは?

リーグ・オブ・レジェンド(以下、LoL)ファンが親しみを込めてワールズと呼ぶLoLのワールド・チャンピオンシップは、毎年開催されている世界最大級のeスポーツイベントだ。ライアットの集計によれば、2021年の決勝戦の同時視聴者数は7400万人近くに達し、2020年から60.33%増加した。簡単に言えば、ライアットにとって、年に一度、ファンやパートナー候補にブランドを紹介する最大の機会なのだ。

ライアットは2021年8月、2022年のワールズのテーマを決めるプロジェクトを始動。クリエイティブエージェンシーのテンドリル(Tendril)がビジュアルアイデンティティの支援を行った。テンドリルのクリエイティブディレクター、パトリック・コフィー氏によれば、両者は「数年前」から提携の機会をうかがっていたという。

ライアットはワールズを開催するたび、イベントのプログラムやビジュアルアイデンティティを統一するため、「テーマ」となる1行のフレーズを考えている。このテーマは、テンドリルのようなエージェンシーがワールズのビジュアルアセットをつくる際の参考になり、メルセデス・ベンツ(Mercedes Benz)のような広告主が、独自のアクティベーションを展開する際の材料にもなる。

2020年のテーマは「テイク・オーバー(Take Over)」、2021年は「メイク/ブレイク(Make/Break)」だった。2年連続で視聴者数の記録を更新し、2020年の決勝戦は4950万人、2021年は7386万人が同時視聴した。どちらのイベントもそのテーマを中心に、ソーシャルメディアで相当な数の会話が交わされた。Googleトレンドによれば、ワールズの開催前、どちらのフレーズもオンライン検索が急増していた。

ライアットeスポーツ(Riot Esports)のグローバルクリエイティブ責任者、キャリー・ダン氏は、「意図的に2つのメッセージを伝えている。もちろん、ワールズそのものにスポットライトを当てているし、この唯一無二のイベントが文化のなかで持つ意味も強調している」と話す。「しかし、このイベントには12の地域、100以上のチーム、何百人ものプロが関わっている。『リーグ・オブ・レジェンド』eスポーツのファンダムはひとつだが、極めて多様なパーツで構成されているという真実の二面性を、我々は気に入っている」。

数カ月に及ぶプロセス

2022年のテーマを決めるプロセスは、2021年のワールズが始まる前から始まっていた。ダン氏率いるクリエイティブチームはまず、ライアットのイベント、放送、ブランド開発チームの担当者とブレインストーミングを行い、Microsoft Wordのドキュメント20ページ分のテーマ候補を書き出した。

「世界にひとつという意味のテーマ候補が大量にあった」とダン氏は振り返る。「それが『ワン・アンド・オンリー』につながり、この1行が何度も繰り返されることになった」。

2022年のテーマが「ワン・アンド・オンリー」に決まり、ブランドパートナーやeスポーツ組織などの関係者に周知するまでに2カ月近くを要した。ダン氏によれば、十分なフィードバック期間を設けたが、ほとんどのパートナーはイベントとそのブランディングに対するライアットのアプローチを信頼し、大きな反発はなかったという。

「私たちのパートナーが私たちのパートナーであるのは、このエコシステムに本当の意味で溶け込みたいと望んでいるためだ」とダン氏は話す。「そのため、彼らに合うものを考えるというより、誰もがこれを土台にできるよう、本物であることを意識している」。

ビジュアルアイデンティティの開発

「ワン・アンド・オンリー」というテーマは、リル・ナズ・Xの参加、リル・ナズ・Xによるワールズのテーマ曲「スター・ウォーキン(Star Walkin’)」など、ワールズの放送の目立つ部分を象徴していただけでなく、イベントのオンライン中継やニューヨーク、マディソン・スクエア・ガーデンのHulu(フールー)シアターをはじめとする会場で使うビジュアルアセットにも多大なインスピレーションを与えた。

プロジェクトに参加したテンドリルのクリエイティブディレクター、アダム・ブランドン氏は、「会場では、イベントチームが活用方法を考えるのだが、生中継のために提供したものは、繰り返される背景アニメーションやタイトルカードなど、シンプルなものが多い」と話す。

2022年のワールズのビジュアルは、参加する24のプロeスポーツ組織の色とロゴを組み合わせたカラフルなを中心に、「ワン・アンド・オンリー」の統一感を強調した。

全プロチームの色とロゴを網羅した最新のAirtable(エアテーブル)データベースがライアットから提供され、テンドリルのデザイナーが3Dモデリングツールのフーディニ(Houdini)を使って旗を制作した。

どのチームがワールズに出場するかわからない時点で旗をつくらなければならなかったため、テンドリルはモジュール式のツールキットを用意し、チームのロゴと色を入れ替えることができるようにした。

テンドリルのエグゼクティブプロデューサー、ラモナ・ゴーニク・リー氏は、「各チームがさまざまな個性の色を持っている」と話す。「それらを組み合わせ、魅力的なビジュアルに仕上げる方法を見つけることも課題のひとつだった」。

なぜそれが重要なのか?

ワールズのテーマとビジュアルブランディングに関する研究開発の深さは、eスポーツの熱狂的なファンダムを幅広い文化やエンターテインメントへの足掛かりにするというライアットの目標にとって、毎年開催されるワールズのようなイベントがいかに重要かを示している。ライアットはLoLからほかのゲームジャンルに進出し、オリジナルのストリーミングコンテンツにも足を踏み入れているが、中核製品であるeスポーツを支えるブランディングやビジュアルの手を抜くことはない。

コフィー氏は次のように述べている。「ライアットについて言えることがひとつある。大手ゲーム会社のなかでは、デザイン面で、先駆者のような役割を果たしてきたということだ」。

[原文:How Riot Games developed its brand identity for the League of Legends World Championship

Alexander Lee(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:黒田千聖)
Illustrated by Ivy Liu

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