チャットボット はリテンションツールとして機能するのか。パブリッシャー各社はテスト中

DIGIDAY

パブリッシャー勢はジェネレーティブAIテクノロジーを編集および営業活動に取り入れる一環として、独自のチャットボットを開発し、自身のウェブサイトに導入している。

本記事のために米DIGIDAYが取材をした4人のパブリッシャー幹部は皆、チャットボットが読者をサイトに留め、より多くのコンテンツを消費させる最新のリテンションツールになることを期待している。もっとも、どうなるかはいまだ未知数ではあるが。

というのも、チャットボットブームは以前にもあったからだ。その当時、パブリッシャーの50%近くがチャットボットを利用しており、その多くはFacebookメッセンジャーボットを使い、情報を読者に届けていると、2017年、DIGIDAYは調査結果を報じた。ただ、程なくして多くのパブリッシャーがその試みを止め、ブームの火は消えた。

ところが、その人気がいま再燃しつつある。最近のDIGIDAYの調査によれば、チャットボットは最も利用されている自然言語処理(NLP)テクノロジーであり、アンケートに応じたパブリッシャーの52%が使っていると回答した。そしてこのたび、フューチャーPLC(Future plc)、スキフト(Skift)、トラステッド・メディア・ブランズ(Trusted Media Brands、以下TMB)の幹部はDIGIDAYに対し、チャットボットの開発目的は自社サイトへのトラフィック増ではない、と断言した。彼らによれば、ジェネレーティブAIオンサイトエクスペリエンスが目指すのは、オーディエンスに直接奉仕し、検索とコンテンツ推薦を次のレベルに持っていくことだという。

チャットボットがリテンションおよびリサーキュレーションに役立つ理由

B2Bトラベルパブリシャーのスキフトは5月第2週、自社サイト上にチャットボットを導入したところ、利用数がすでに1万件を超えていると、同社CEOラファット・アリ氏は話す。このチャットボットは誰でも月に3回まで無料で質問ができ、スキフトの有料サブスクライバーは回数無制限で利用できる。これは、読者が記事を3つまで無料で読めるスキフト自身のペイウォールをひな形にしたものだ。チャットボットはユーザーへの回答として、AI生成テキストと質問に関連するスキフトの記事および検索結果のリンクを3つ提示する。

「このチャットボットは既存有料サブスクライバーとの関係を深めてくれている。つまり、これはリテンションツールだ。エンゲージメントを深めてくれるし、願わくは、サイトの利用数およびユーザーごとの閲覧ページ数も伸ばして欲しい」とアリ氏は話す。

TMBは5月第4週にチャットボットのコーディングを開始したと、同社CTOニック・コンタルド氏は話す。同社はテイスト・オブ・ホーム(Taste of Home)とファミリー・ハンディマン(Family Handyman)の両サイトでチャットボックスを試していく。

「一定数の人々が訪問し、遊ぶか試すかしてくれるのは間違いないと思う」とコンタルド氏。「つまり、リテンションの役に立ってくれるはずだ。ただ、それはあくまで短期的なものだと思う。最終的には、このサイトを再訪したいとユーザーに思ってもらえる真に良質なものを提供できる状態の構築を目指したい」。

コンタルド氏のチームはさらに、他のTMBブランドの記事推薦も視野に入れている。たとえば、誰かがバーベキューチキンのレシピを知ろうとテイスト・オブ・ホームのチャットボットを利用した際、その回答と併せて、アウトドアグリルの掃除に関するリーダーズ・ダイジェスト(Reader’s Digest)の記事も提示できるようにしたいと、コンタルド氏は説明する。

フューチャーPLCもトムズ・ハードウェア(Tom’s Hardware)のサイトに新設したチャットボットに「リサーキュレーションツール」として期待していると、同社CEOジョン・スタインバーグ氏は話す。同社によれば、5月16日に導入以来、そのチャットボット――質問に対して、テキストによる3つの回答と3つの推薦記事を返す――はすでに6100人を超えるユーザーが利用したという。同社は開発をさらに進め、ゆくゆくは自社ホームページに搭載したいと考えている。

検索を向上させるチャットボット

疑問/知りたいことの答えが欲しければ、GoogleやAIを介するビング(Bing)で簡単に検索でき、しかもいまやChatGPTという便利な選択肢もあるなか、パブリッシャー勢はそれでもなお、読者は自社チャットボットをウェブサイトの案内役として利用してくれるはずだと考えている。その理由をDIGIDAYは幹部らに訊ねた。

幹部らによれば、彼らのチャットボットは各パブリッシャーのコンテンツに特化させており、そのため一般の検索エンジンやChatGPTよりも専門性の高いツールになっているという。それゆえ、彼らのチャットボットはいわゆる「ハルシネーション(幻覚)」を起こしたり、信頼の置けないソースから情報を持って来たりする確率が低いと、幹部らは話す。

「チャットボット内のデータは常に我々自身の正当なデータになるよう努めている」と、フューチャーPLCのCTOケヴィン・リ・イン氏は話す。同社のチャットボットは外部ソースではなく、自社コンテンツのデータおよび情報に基づいて推測するものであり、「勝手に作り上げる」ことはしないという。

そこがパブリッシャー独自のチャットボットとChatGPTの違いだと、インジェニオ(Ingenio)のメディア部門トップ、ジョシュ・ジャフィ氏は指摘するとともに、自社チャットボットがエンゲージ力の高いエクスペリエンスを提供し、人々をAstrology.comといった同社のウェブサイトに引き戻してくれることを期待していると話す。

スキフトのチャットボットはハードペイウォール内の専有検索に基づく情報にアクセスできる。アリ氏いわく、ChatGPTには(メーター制課金のいわゆるソフトペイウォールのコンテンツとは異なる)その検索情報にアクセスすることも、そこから取捨選択することもできないという。

「これは検索の進化と言えなくもないが、それでもまだ言い足りないほどの進歩だ」とアリ氏は断言する。

コンタルド氏は一方、TMBがチャットボットに期待するのは、検索エンジンの代わりではないと話す。「弊社のチャットボットには、自社コンテンツでよりイマーシブな(深く没入する)ものになり、一見それほど関連性が明白ではない情報も提示できるものになって欲しい」。たとえば、コースディナーのメインに相応しい前菜も提案できるチャットボットだ。「我々は自社サイトに人々をエンゲージさせるためにさまざまな手段を考えている。人々が他の何かを見つけるために、わざわざGoogleに戻らずに済むようにしたい」と氏は言い添える。

チャットボットに関するビジネス論

これら企業独自のチャットボックスはさまざまな収益機会も生みうるが、その戦略はいまだ明確な形にはなっていないと、幹部らは話す。スキフトの場合、たとえば営業チームがチャットボットをサブスクライバーへの付加価値として売り込むことができるし、それは一部読者のコンバートに寄与すると、アリ氏は指摘する。もっとも、同社のチャットボットは「依然、大量の新規サブスクライバー」を生むには至っていないと、氏は言い添えた。

ただこれが、AIを介するチャットボット関連の一部コストの最小化に寄与する可能性はある。デベロッパーやエンジニア、デザイナーがチャットボットの創造に費やす時間およびリソースとは別に、GPT-3.5でのチャットボットの運営で月に数百ドル(数万円)が必要になると、アリ氏は話す。GPP-3.5とはAIテクノロジー、ChatGPTの土台であり、オープンAI(OpenAI)が外部デベロッパーにも利用可能にしている(ちなみに、だからこそ本記事に登場するパブリッシャーは皆、運営費が毎月数千ドル[数十万円]に上るGPT-4を使っていないと、アリ氏は言い添える)。

5月第3火曜日、BuzzFeedは自社フードブランド、Tasty(テイスティ)のレシピを推薦するチャットボットのボタトゥイユ(Botatouille)を導入した。ニューヨークタイムズ(The New York Times)によれば、BuzzFeedにはパーソナライズしたサービスやBotatouilleといったカスタムインターアクションを提供するサブスクリプションを販売する計画があるという。

フューチャーPLCのチャットボットには一方、アフィリエイト収益を生む潜在力があると、スタインバーグ氏は話す。このチャットボットが返す回答には時折、同社が有する価格比較プラットフォーム、ホーク(Hawk)からお勧めの商品を購入させるウィジェットが伴う。ただし、どの程度の収益が見込めるかについては、「しばらくは小さなもの」だろうと、スタインバーグ氏は言い添える。

さらなるチャットボットの登場

パブリッシャー幹部勢は一様に、これらチャットボットは正式に導入したとはいえ、依然として試験中であると、くり返す。そして、他のバーティカルやパブリケーション用のチャットボットも開発中であるとも言い添える。

フューチャーPLCはフーワットウェア(Who What Wear)といったサイトへのチャットボット導入を計画しており、読者がファッションに関するアドバイスを求めることができ、チャットボットがショッパブルコンテンツへのリンクも提供できるようにするという。

「人々が頻繁に訪れるサイトの大半でAIチャットボットエクスペリエンスが得られるようになる、という考えが前提にある。そこで我々はそのいわば先駆者になるべく、いち早く実験に乗り出したいと考えた」とスタインバーグ氏は話した。

スキフトは複数のチャットボット導入も計画している。長い研究論文を要約し、その論文の調査結果に関する詳細な質問に答えられるチャットボットもその一つだと、アリ氏は話す。

アリ氏はさらに、もっと広い視野でこれを捉えてもいると、言い添える。つまり、チャットボットが読者との関係性を「現在のパッケージベースの関係から、質問ベースの関係」に変えてくれるはずだと、氏は話す。

「パブリッシング界では、それはたんなる記事よりもはるかに有用性が高いものになると、私は考えている」とアリ氏。「スキフトの読者の言葉からスキフトのユーザーの言葉へと変えていきたい」。

[原文:Media Briefing: Why publishers hope chatbots will be the latest retention tool

Sara Guaglione(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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