ルイ・ヴィトン は大人気トート、ネヴァーフルをウェイティングリスト販売スタイルに変更。購入がさらに困難に【ラグジュアリーブリーフィング】

DIGIDAY

「みんながネヴァーフル(Neverfull)を持ってるし、みんなのママも持っている」。5月、サブレディットの「r/handbags」で交わされたバッグの未来に関する議論で、レディット(Reddit)のユーザー、curlygirlflは言った。希少であることが魅力になりつつある今日のラグジュアリー環境において、このような状況はルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)にとって決して理想的とはいえない。

大手ラグジュアリーファッションブランドのルイ・ヴィトンは、3月にクラシックな定番スタイル、ネヴァーフルのウェイティングリストをひそかにローンチした。そこには同ブランドのシグネチャーであるモノグラムやチェック柄のコーティングキャンバストートと、エンボスレザーバージョンが含まれていた。これらのスタイルは最近、LouisVuitton.comで購入できるようになったが、現在その商品ページには、かつて「カートに追加」があった場所に「通知を受け取る」ボタンが表示されている。ただし、ネヴァーフルの限定モデルならすぐに購入することができる。

この変更で、ルイ・ヴィトンはネヴァーフルを廃止するのではないかという噂が立ち、TikTokやオンラインハンドバッグフォーラムではさまざまな憶測が広がった。トレンドのトピック「ルイ・ヴィトンのネヴァーフル廃止」は、TikTokでは6月8日の時点で118億ビューを記録している。多くの人々は「通知を受け取る」を、これらのスタイルが最終生産数を超えて販売されたことを意味するのだと受け止めた。だが、このアップデートは、このスタイルのウェイティングリスト販売モデルへの移行を反映したものだ。これは6月上旬、米国中西部のルイ・ヴィトンの店舗への電話に対応した顧客サービス担当者が認めている。ネヴァーフルの購入を希望する買い物客は、店頭またはオンライン(eメールアドレスを入力する)でウェイティングリストに登録する必要がある。前述の担当者によると、現状では2、3カ月待ちとなっている。待機期間が終了した時点で、顧客は24時間以内に店頭でバッグを購入する必要がある。ルイ・ヴィトンはさらなるコメントには応じなかった。

現在は超富裕層の買い物客が焦点に

ラグジュアリーブランドがZ世代獲得のために包括性に取り組んだ時代が過ぎ、排他性への揺れ戻しが起きている。大きく変動する経済の影響を受けにくい超富裕層の買い物客にアピールすることが、現在の焦点となっているのだ。

エルメス(Hermès)の場合、需要が供給をはるかに上回るハンドメイドのバーキン(Birkin)やケリー(Kelly)バッグの入手可能性をコントロールしていることで話題を呼んでいる。この戦略は効果的で、同社の時価総額は、売上高ベースでファッションブランドのトップであるナイキ(Nike)をしのぐ勢いだ。エルメスは売上高では第3位、利益率では第1位のラグジュアリーファッションブランドといわれている。2位のシャネル(Chanel)も独占的であることを優先しており、ハンドバッグは直営店でしか販売しない。2022年には、シャネルはもっとも優良な顧客向けにプライベートブティックをオープンすると発表した。

ここ数年のラグジュアリーの急成長は鈍化しているが、ラグジュアリー市場自体は依然として上昇基調にある。ルイ・ヴィトンを所有するLVMHは1月、ファッション&レザーグッズ部門の2022年の売上が2019年にくらべて70%増加したと報告した。LVMHのCFOジャン=ジャック・ギオニー氏によると、これは主にディオール(Dior)とルイ・ヴィトンが牽引したものだ。また、2022年にルイ・ヴィトンは初めて売上高200億ユーロ(約3.4兆円)に到達している。

需要と供給の面で支配的な立場にあるラグジュアリーブランド

ルイ・ヴィトンや競合するラグジュアリーブランドの他のハンドバッグと同様に、ネヴァーフル・トートは近年、値上げが相次いでいる。サザビーズ(Sotheby’s)のファッションおよびアクセサリー部門のグローバルヘッド、シンシア・ホールトン氏によると、現在2030ドル(約28万円)で販売されているこのバッグは、2012年には870ドル(約12万円)で販売されていた。そして「もっとも積極的に」上昇したのは過去5年間だった。2021年から2022年にかけて、ネヴァーフルの価格は20%上昇したと報じられている

ホールトン氏は、ルイ・ヴィトンはウェイティングリストによってさらなる独占性を演出したいのだと考えている。また同ブランドのほかのバッグ、特に限定品やさらに高価格帯のレザースタイルの売上も伸ばそうとしている。

「ルイ・ヴィトンは自分たちのビジネスがネヴァーフルだらけになることを望んでいない」と同氏は言う。

投資ファンドのテマ・ラグジュアリーETF(Tema Luxury ETF)のポートフォリオ・マネージャー、ハビエル・ゴンザレス・ラストラ氏(CFA)によると、LVMHの投資家は最近、同社が「自らの成功の犠牲者になるのではないか」、つまり製品があまりに人気になりすぎてブランドの地位を低下させるのではないかと懸念している。

ラグジュアリーハンドバッグの再販会社ファションファイル(Fashionphile)の創業者でCCOのサラ・デーヴィス氏は、今回のウェイトリストは定番よりもわずかに価格が高い限定版ネヴァーフルに緊急性をもたらすだろうと話す。現在、限定版のノーティカル(Nautical)バージョンは2370ドル(約33万円)で販売されており、クラシック版より340ドル(約4万7000円)高い。

デーヴィス氏は買い物客のあいだで緊急性が認識されることを予測し、「(限定版のスタイルは)消え去り、その後は限定版やほかのネヴァーフルのスタイルがどれも手に入らなくなる」と述べた。「(この戦略は)非常に高い関心を持たれているドロップカルチャーを反映したものだ。どのブランドも過剰生産と供給過多を懸念している時代に、こうした(限定版)スタイルの100%セルスルーを促進するだろう」。

ホールトン氏もこれに同意しており、「ラグジュアリーブランドは、需要と供給の面でまだ支配的な立場にある」と語っている。

ウェイティングリストを活用するメリット

限定版のネヴァーフルは何年も前から売れ行きを伸ばしてきたと、デーヴィス氏は言う。さかのぼること2007年には、ルイ・ヴィトン、村上隆氏、LAの現代美術館のコラボレーションによるネヴァーフルが小売価格よりも高い値段で転売された。

すぐに購入することもできないし、オンラインで購入することもできないと多くの人が理解するにつれ、近い将来、ネヴァーフルの検索ボリュームが高くなるだろうとホールトン氏は予想している。「ルイ・ヴィトンの店舗の近くに住んでいる人ばかりではないのに、店舗に行く必要があるというのはおかしい」と、ホールトン氏は言う。

だが、それでもルイ・ヴィトンが顧客や市場シェアを失うことはあり得ないと、ホールトン氏は述べた。「このバッグは、このブランドのスタイルのなかで一番人気があり、どのスタイルとくらべてもセルスルーがもっとも高い。価格を上げ、購入を難しくしているにもかかわらず、依然として多くの女性は、仕事トート、ビーチトートまたは日常のバッグとしてこのバッグを欲しがるだろう」。

ブランドにとってウェイティングリストのもうひとつの利点は、顧客との関係を築くことができる点にある、とゴンザレス・ラストラ氏は指摘した。ルイ・ヴィトンの場合は、ブランドに関する「カスタマー・インテリジェンス」の構築も含まれており、ウェイティングリストのプロセスでは、買い物客が店舗に行き、販売員と会話をすることが求められる。次に、ウェイティングリストは顧客に連絡先情報の提供を要求し、ブランドは顧客に追加商品を販売する機会を得ることができる。

優れているブランドほど再販の価値も上がる

この記事に貢献した情報提供者の全員が、新しい小売購入パラメータの結果、再販チャネルでネヴァーフルの価格が高騰することになるだろうと述べている。ホールトン氏は、ネットで話題になっていることを踏まえると(特に多くの人はバッグひとつのために長期間待ったり、わざわざ遠くの店舗まで引き取りに行きたくないため)、まだ価格が高騰していないことに驚いているという。また、市場に出回るバッグの数量が少なくなることから、手に入れた人は間違いなくプレミア価格で売りたいと思うはずだ。

ラグジュアリーハンドバッグの再販会社リバッグの創業者でCEOのチャールズ・ゴラ氏は、エルメスのバーキンや限定版スタイルの販売の傾向と比較して、「需要の急増とセルスルー率の加速が予想され、最終的に価格が上昇する」と述べている。「そのアイテムの希少性が魅力を増幅させ、コレクターの切迫感をあおる」。

同様にゴンザレス・ラストラ氏も「いま購入するようアドバイスするだろう」と述べた。

ネヴァーフルは、すでに話題の再販アイテムだ。つまり今年に入ってから、リバッグが扱うルイ・ヴィトンのバッグのなかで、もっとも高いパフォーマンスと検索数を誇っている。全体でもエルメスのバーキンに次いで2位にランクインしている。ファッションファイルでは、ネヴァーフルのさまざまなサイズやスタイルが、7位、11位、13位など、過去半年のトップセラーバッグのリストに散見される。

デーヴィス氏は、シャネルの廃盤になったショッピングトートもファッションファイルで人気のスタイルだと指摘した。全体的に、何十年も前からあるアイコニックな形はつねにベストセラー入りしている。

「私たちはラグジュアリーブランドの目に見えないパートナーであり、再販はエコシステム全体の一部だ」とデーヴィス氏は言う。「小売と再販の比率がよくないブランドは、よいブランドではない。優れているブランドであればあるほど価格は近くなり、超最高級のブランドは小売価格よりもさらに高い価格で販売されている」。

さらにデーヴィス氏は次のように続けた。「製品が小売価格に近い価格で再販されればブランド価値が強化されるので、ブランドは私たちを必要としている。エルメスが(同社のバッグの再販価格のおかげで)よい投資先だというような認識はそう簡単に得られるものではない。そしてルイ・ヴィトンにとって、ネヴァーフルの価格は(再販で)上がり続けるだろうし、それはルイ・ヴィトンにとって本当によいことだと思う」。

2007年に発売されたネヴァーフルは、ザ・リアルリアル(The RealReal)によると、現在平均して91%のリセールバリューを保持している。

デーヴィス氏は、ネヴァーフルはシンプルに「2本のストラップのついた大きなキャンバス地のアイテム」であるため、比較的低い価格帯にもかかわらず、他のルイ・ヴィトンのバッグよりも利幅が大きいのではないかと推測している。そして、その利幅はさらに拡大されるだろう。

希少価値を生み出すことの重要性

ゴンザレス・ラストラ氏は「ルイ・ヴィトンが独占性を高めることで、ネヴァーフルの周りにオーラが生じて、ネヴァーフルに対する深い欲求が生まれる」と話す。「それが価格決定力を高めることになる。ラグジュアリーの価格が上がれば人々の欲望がさらに高まり、それが需要を高め、価格を上げることになる。これはすばらしいポジティブなフィードバックの循環だ」。

「ラグジュアリーメーカーは故意にこの状態の達成を目指している。ただ販売店に行ってフェラーリ(Ferrari)を手にして店から出てくるということは起きない」。

ホールトン氏は、ルイ・ヴィトンは今回のウェイティングリスト戦略を、スピーディ(Speedy)といったスタイルを含むすべてのコーティングキャンバスバッグへと拡大するのではないかと考えている。

「この希少性という本来の発想は、ラグジュアリーにおいて非常に重要だ」とホールトン氏は言う。「その発想がずっと存在するのは、ブランドにあまりにもメリットが大きいからだ。希少価値を生み出すことで、ブランドはもっと早く価格を上げることができる。自分たちのバッグは誰にでも手に入るものではないということをよしとすると、ブランドは主張している」。

もちろん、すべてのブランドが、こうした販売モデルのディスラプションを成功できるわけではない。

「別のブランドが同じ戦略を試みても、ブランド力がそこまで強くないと気づくかもしれない」とゴンザレス・ラストラ氏。「消費者に(バッグへの)限定的なアクセス権を与えたら、『じゃあ、グッチ(Gucci)のバッグを買うからいいや』となるかもしれない」。

だが、ルイ・ヴィトン側としては「おそらく、かなりの正確度でこうした決定を下すことができるほど多くのデータを所有しているのだろう」とゴンザレス・ラストラ氏は述べた。

[原文:Luxury Briefing: With new waitlist, Louis Vuitton is making it harder to buy a Neverfull tote]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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