総合商社 丸紅が目指す「 eスポーツ ソリューション」の全貌:「チームや選手という、『メディア』が生み出すコンテンツの価値に賭ける」

DIGIDAY

2022年、世界のゲーム人口は30億人を超えている。この圧倒的なユーザーを内包するビッグコミュニティは、コンソール型からオンラインに移行したことで、爆発的に増加したのは周知の事実だろう。

プレイヤー数の拡大によって、ニッチな競技シーンだったeスポーツ市場も成長し、経済産業省の試算によると今や世界市場は2000億円、日本だけでも100億円に達するとの予測もある。今なお世界各地でeスポーツチームが次々と誕生しているが、一方でそのビジネスモデルは賞金やスポンサーのロゴ掲出といった「競技性」に依存する形から、コンテンツやゲーミングコミュニティにフォーカスしたモデルへと変化している。大手チームもゲームを配信するストリーマーの活用やエンターテインメントイベント運営、ライフスタイルブランドの展開など、eスポーツチームの「ファンコミュニティ」を最大限に活用し、メディアとしてのパワーを保持するようになってきた。

そこに目をつけたのが、総合商社の丸紅だ。「eスポーツは10〜15年のスパンで持続性のあるビジネスになる」と、丸紅の新規事業を推進する、次世代コーポレートディベロップメント本部投資マネジメント部の並松裕貴氏は、大きな期待を寄せる。

丸紅は2021年、ロンドンに拠点を置くグローバルトップeスポーツチームの「Fnatic(フナティック)」と資本・戦略提携を発表した。丸紅が彼らに期待するのは「メディア」としての価値だ。いまやZ世代を中心として、次代の消費者に稀有な影響力を持つFnaticは、若いユーザーにアプローチできる強力なマーケティングアセットになると、並松氏は見ている。同氏は、2022年10月7日に開催された「DIGIDAY GAMING & esports FORUM」に登壇。eスポーツのビジネスポテンシャルと、そこにおける丸紅の戦略を語った。

なぜ、丸紅はeスポーツに投資するのか

広告代理店や事業会社、プロスポーツチームなどが既存事業とのシナジーを期待してeスポーツに投資する例は多い。一方で、丸紅は総合商社であり、電力エネルギー、食料、金融、航空船舶など幅広い事業をグローバルで推進している。

そのうえで、同社は、未開拓の成長領域でのビジネスモデルの創出に向けて次世代事業開発にもリソースを割く。その注力する領域は幅広く、ブロックチェーン、スマートシティ、ヘルスケア、ウェルネス&ビューティーと多岐にわたる。無数の「選択肢」があるなかで、なぜ丸紅がeスポーツに着目したのか。並松氏は3つのキーワードで新事業の解像度を高めて行った結果に辿り着いたものと述べる。

  • ホワイトスペース:将来成長が期待できる新しいビジネスモデルの創出(ホワイトスペースの取込)を掲げるなかで、従来当社が得意としているBtoB領域から拡張し、BtoCに近い領域を探索するなかで「メディア」領域に着目した。
  • 若者世代:中長期的な視座に立つと、今後、世界の消費の中心を担うのはZ世代・ミレニアル世代と言われており、彼らに支持される「メディア」として、既存のマスメディアではなく、SNSや動画配信プラットフォームを活用したものであること。
  • 日本と海外とのギャップ:グローバルで先行しつつも日本が後から追随できるポテンシャル領域として「eスポーツ・ゲーム」に着目。世界で愛されるコンソール型のゲーム機を次々と生み出してきた日本には、ゲーム文化が根付いている一方で、eスポーツは欧米が先鞭をつける状況。このギャップこそが、大きなビジネスチャンスを生むと捉えた。また、eスポーツ市場の収益項目はスポンサー料・広告料が大半を占めており、メディアビジネスに類型できることに加え、若者世代を中心にSNSや動画配信プラットフォームを主戦場としている点も後押しとなった。

Fnaticはただのプロeスポーツチームではない

では、丸紅がこれほどまでに期待するeスポーツ領域において、Fnaticというチームと資本提携・戦略提携をしたポイントはどこにあったのか。

そもそもFnaticとは、ロンドンを拠点に2004年に設立されたeスポーツチームだ。世界中で所属プロのプレイヤーが活躍し、30のタイトルで200回を超える優勝実績を誇る。コロナ禍前の2019年から日本のeスポーツチームとの交流があることに加えて、2022年にはビジネスと競技の両面で日本進出を果たしており、熱狂的ファンも多い。特徴的なのは、優れたプレーヤーを輩出するだけでなく、高いコンテンツ制作力を有し、ゲーミングハードウェアなどのプロダクト開発も手掛け、それらを独自IPとして保有している点にある。

つまり、いわゆる競技シーンにおける「アスリート集団」ではなく、eスポーツ・ゲーミング市場を主要な事業領域として捉え、ユーザーにアプローチをかけるコンテンツサービサーでもあるのだ。そこが、丸紅の思惑と合致した。

「彼らは自チームでスタジオを持ち、映像制作も企画・撮影・編集などすべてにおいてプロレベル」とし、並松氏は続ける。「実際にそのストリーミングコンテンツは、世界のeスポーツチームのなかで2番目に視聴されている。グローバルブランドとスポンサードコンテンツも制作し、Z世代に対してリーチさせる実績を残すなど、Fnaticを『メディア』として捉えたビジネス展開を行っている」。

ブランドや広告ビジネスにおいて重要なのは、エンゲージメントの高いユーザーがどこにいるか、にある。その「場所」のひとつがメディアだが、熱狂的なZ世代のファンがFnaticの「選手」や「チーム」というメディアにいるのだ。

「それこそが価値そのものであり、Fnaticに懸けた理由だ。eスポーツにはプレイヤー、パブリッシャー、オーガナイザーなどが存在し、そこでエコシステムが構築されている。ただ、そのエコシステムそのものではなく、選手やチーム、そして彼らが生み出すコンテンツにこそエンゲージメントの源泉があると考えている」。

並松 裕貴/2008年に東日本電信電話株式会社に入社。経営企画、新規事業開発を経て、2019年に丸紅株式会社に入社。現在、eスポーツ及び次世代メディア事業開発を担当。

「点」の熱狂を、「面」に広げられるか

マーケティングアセットとして、Fnaticへの期待感は高い。プレイヤーに対しての圧倒的なエンゲージメントは、多くのブランドや企業にとって魅力的なものになる。たとえば、市場調査のアンケートひとつをとっても、非常に高精度な情報を入手できる可能性が高い。加えて、デジタルネイティブで多くの情報チャネルを持つZ世代やα世代から、リアルなフィードバックも受けられる。

一方、その高いエンゲージメントを持ったユーザーを拡大させていくためには、今後の課題といえる。つまり魅力ある「点」を、これまでとは違う領域で増やし、「面」にしていく必要があるのだ。

並松氏も「やはりまだ成長過程にある市場なので、ファンをより増やしていく必要がある」と、課題感を語る。マーケティングツールとしてそのパフォーマンスを評価する場合、競技シーンのみに限定してしまうとリーチできるファン数に限りがあるからだ。

ただ、丸紅は既に次の一手を打ち始めている。2022年2月には、Fnaticとしてプロリーグの「Rainbow Six Japan League」に参画。そして、7月には「Apex Legends」でチームを組成した。また、8月には著名な日本人ストリーマーであるSPYGEA氏が加入。Fnaticというグローバルブランドを独自のゲーム文化を持つ日本市場において、着実にアセットを増やしていき、Fnaticのファン増に繋げている。

実際に、丸紅と資本・戦略提携する以前はTwitterのフォロワー数は約3万だったが、現在ではチーム、選手を合わせて約140万フォロワーまで増加。「このモメンタムはまだ衰えないと思うので、課題となっているリーチ数を解決していきたい」と、並松氏は今後の成長に自信をのぞかせる。

エンゲージメントだけでなく、コストパフォーマンスも

さらに丸紅は、Fnaticをエンゲージメントが高いだけでなく、コストパフォーマンスも高いメディアへと成長させていく、という目標を掲げている。そのためには、「リーチ数の改善だけでなく、ブランドや企業が意思決定しやすい仕組みも構築する必要がある」と並松氏は指摘する。

一例として、アメリカにおけるオーディエンスのデータがある。eスポーツが好きな人と、そうでない人を比較すると、前者には大学を卒業した学士が多く、世帯年収1000万円以上の家庭が多いという。一定のリーチ数を踏まえ、こうしたデータにもとづいた指標や効果測定を積み重ねることで、ブランドや企業にとってのエンゲージメントを高めていくこともマーケティングにおいては不可欠だ。

「ファンのエンゲージメントだけでなく、ビジネス面でもeスポーツは魅力がある。すでにアメリカでは前述したようなデータが活用されている。eスポーツのトレンドは日本も欧米に近い状況となってきているので、丸紅としてFnaticをファン及び企業にとってメリットのあるメディアに成長させる余地は、まだ大いにあると信じている」。

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Written by DIGIDAY Brand STUDIO(海達亮弥)
Photo by 渡部幸和

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