インフレ下で「切実なニーズを生み出しにくい」:レント・ザ・ランウェイのような衣料サブスクが顧客離れを起こすかもしれない理由

DIGIDAY

こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります

衣服レンタルの市場は専門家によれば「堅調」だが、レント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)のようなサブスクリプションサービス企業は、激しいインフレのなかで予算をやりくりする買い物客が増えるなか、消費者の共感を得るのに困難を経験するかもしれない。

アパレルを購入する代わりにレンタルするのは、環境フットプリント(人間の消費活動が環境にどれだけの負荷をかけているのかを計測する方法)を抑え、ワードローブを刷新して、デザイナーの衣服を販売価格より安く入手することを求めている消費者にとって、依然として人気の高い方法になっている。フューチャーマーケットインサイト(Future Market Insights)によれば、全世界で衣服のレンタル市場は2021年から2031年に11%成長すると予測されている。

「切実なニーズ」を生み出しにくいアパレル

それでも、衣服レンタルのサブスクリプションは困難に直面している。業界トップのレント・ザ・ランウェイは、最新の四半期決算(5〜7月)で、アクティブな加入者が前の3カ月と比べて約1万人も減少したと語っている。コスト削減のため、同社は第4四半期に従業員の24%のレイオフを計画しており、このプロセスは現時点では約250万ドル(約3億6500万円)の初期費用がかかるが、将来的に2500万ドル(約36億5000万円)から2700万ドル(約39億4000万円)の経費を節約できるとしている。ファッションパス(Fashion Pass)は非公開企業であるため収益を発表していないが、最近プランを値上げした。その理由を「配送料と材料のコスト上昇と、エシカルな製造基準を維持するため」としている。またスティッチフィックス(Stitch Fix)はレンタル企業ではないが、同様に加入者数の減少に苦しんでおり、これは大手アパレルサブスクリプション分野の先行きを暗示している可能性がある。同社は第4四半期に37万人の顧客を失った。

時間と費用の節約を求めている消費者向けに、アパレルのサブスクリプションボックスを取り入れるD2Cブランドは増えてきている。しかし、経営コンサルタント会社のカーニー(Kearney)の消費者関連部門のパートナーであるブライアン・エーリッヒ氏は、家族やペットのためのフードデリバーリーなど、「切実なニーズ」のための会員制でない限り、「それ以外のサブスクリプションは、非常に自由裁量的だ」と述べている。

「消費者が業界全体にわたってアパレルやフットウェアの費用を節約している現在、ラグジュアリーを除いて、これは非常に簡単に切り捨てられるものだ」と、同氏は米モダンリテールに述べている。

インフレの影響で、多くの消費者は、どれだけのサブスクリプションサービスを維持するかを検討するようになってきている。ペイメント(PYMNTS)がスティッキー・アイオー(sticky.io)と共同で発表した2022年のサブスクリプションコマースコンバージョン指標(Subscription Commerce Conversion Index)によると、サブスクリプションを停止した理由として「コスト」を挙げた顧客の割合は、2021年10月から2022年3月までに10倍以上に増加した。レポートによれば、これは若い層の消費者のあいだで特に顕著だ。すべての年齢層のなかで、Z世代は過去1年間のサブスクリプションのキャンセル率がもっとも高く、17%だった。

レント・ザ・ランウェイのCEOを務めるジェニファー・ハイマン氏は、9月に行われた決算発表において、6月中旬から、「加入者の一時停止率の上昇と維持率の減少に加え、以前の加入者が再加入するまでの時間が従来よりも長くなったことを目にしている。季節的に加入者数が減少していることと相まって、この第2四半期の末においてアクティブな加入者数が予想を下回る結果となった」。

生活必需品の価格上昇との関連性

このタイミングは、生活必需品の価格上昇と関係している可能性がある。たとえば、AAA(全米自動車協会)によれば、1ガロン(約3.79リットル)のガソリンのコストは6月に史上最高値となった。また、Aラインパートナーズ(A Line Partners)の創設者であるガブリエラ・サンタニエロ氏が米モダンリテールに語ったところによると、何年もパンデミック時と同じワードローブを着てきた消費者は、夏の結婚式のような特別な機会に着る服をレンタルではなく購入したいと考えるかもしれない。たとえばNPDグループ(The NPD Group)によると、女性のドレスの売上は、2022年の1月から5月にかけて、前年比で42%も増加した。消費者は「この際、投資してしまおう」と決心したのかもしれないと、サンタニエロ氏は語る。

レント・ザ・ランウェイ自身も、その嗜好の変化を認めている。ハイマン氏は電話で次のように述べている。「2022年、当社の顧客は、パンデミック以前とは違う形で、生活、仕事、社交、旅行を行っていることが明白になってきた。これは、顧客の着るものに影響を与える。特に厳しいマクロ環境のなかで、顧客の行動におけるこのような種類の変化が、ビジネスにどのような影響を与えるのか、いまだに学んでいるところだ」。

同社はパンデミックの渦中で、突然方向転換して適応することを迫られた。ほとんどのビジネスと同様に、同社も2020年3月に自社の実店舗をすべて閉鎖した。2020年8月にはこれらの店舗を恒久的に閉鎖することを発表した。2020年9月には、会員プランを一新し、無制限レンタルオプションを廃止した。現在は3種類のプランを提供しており、2カ月で最低月額69ドル(約1万100円)からとなっている。また同社は利益を上げるために、よりカジュアルな服も投入し、ブランドアンバサダーやアフィリエイトマーケティングに投資して、自宅での引き取りサービスも開始した。

このビジネスモデルの最終的評価はまだ出ていない

注目すべき点として、同社は特にリセールに注力した。この分野は同社がサックス・オフ・フィスス(Saks Off 5th)とのパートナーシップによりこの8月に拡大したものだ。同社は2020年、一部のノードストロームラックの店舗で、中古の衣類を期間限定で販売した。この夏には中古の衣類を自社サイトで販売し、サブスクリプションに加入していない顧客でも購入できるようにした。ハイマン氏は、2021年にこのリセールが「成長のもうひとつの原動力となり、当社の価値提案をより完全に実現できる」とCNBCに語った

レント・ザ・ランウェイの変化は実を結びつつある。第2四半期の収益は過去最高を記録し、上場以来はじめて調整後EBITDAがプラスとなった。しかし、支出パターンの変化から、依然として穴埋めのための対応を行っている。同社の純損失は1年前より改善されたが、直近の第2四半期について合計3390万ドル(約49億5000万円)に達している。

同社の株価は前年比で90%低下したが、エーリッヒ氏の説明では、これは同社に大きな欠陥があるためではない。「投資家が、レント・ザ・ランウェイを長期的に存続する独立した事業体ではなく、流行りの事業と見ている可能性があるからだ」と同氏は語る。

実際に、大きな枠組みの一部であることをよしとせず、ブランド独自のレンタルサブスクリプションボックスの立ち上げを検討するブランドは増えてきている。ラルフローレン(Ralph Lauren)には、「ザ・ローレン・ルック(The Lauren Look)」というプログラムがあり、会員は毎月125ドル(約1万8300円)で同時に4つまでのアイテムを借りることができる。スコッチ・アンド・ソーダ(Scotch & Soda)には、「スコッチコレクト(Scotch Collect)」メンバーシップを提供しており、毎月99ドル(約1万4500円)で同時に3つまでのアイテムを借りることができる。マークス・アンド・スペンサー(Marks & Spencer)は今週、最大7つのアイテムが入ったテーマ別カプセルワードローブのレンタルを開始することを発表した。このコレクションは5日間から30日間まで借りることができ、最低価格は、ハイヤーストリート(Hirestreet)というワードローブで、39ポンド(45ドル、約6570円)からだ。

サブスクリプションモデルは「長期的な観点から見れば、単独のビジネスより、小売ブランドの総合的な事業の一部として行われるほうが有効かもしれない」とエーリッヒ氏は述べる。「このモデル全体について、最終的な評価はまだ決定していないと私は考える。そして、投資家がこのモデルに現在興味を引かれていないとしても、将来的に関心を抱かないという保証はない。しかし、このモデルからは、ほかの大手ブランドも多くの学びを得られるだろう」。

[原文:‘They’re just very discretionary’: Why customers may be turning away from clothing rental subscriptions like Rent the Runway]

JULIA WALDOW(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Rent the Runway

Source

タイトルとURLをコピーしました