「 界隈 」を知るためにリアルな体験と生の声は欠かせない:貝印 株式会社 マーケティング本部 広報宣伝部 次長 齊藤淳一氏

DIGIDAY

ブランドやパブリッシャーで活躍中のDIGIDAY+会員に、どのようなメディアに触れ、情報を活用しているのかを聞くプレミアムインタビュー「ビジネスパーソンの情報活用術」。第2回は貝印株式会社 マーケティング本部 広報宣伝部 次長 齊藤淳一氏をゲストに迎える。

創業114年を誇る老舗で、世界100ヵ国に展開するグローバル企業でもある総合刃物メーカー・貝印。ここ数年、「ムダかどうかは、自分で決める。」というキャッチコピーで話題になった「#剃るに自由を®」キャンペーン(2020年)や折り紙のように組み立てて使う世界初の「紙カミソリ®」(2021年)など、次々と斬新な試みや商品を世に送り出している。人の心を動かすために、齊藤氏はどのように情報を集め、活用しているのだろうか。
  

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ーーいま担当している業務内容や事業領域は?

 
貝印は包丁からカミソリ、ツメキリ、理美容師向けや縫製用のハサミ、それに医療用のメスまで、1万ものアイテムを展開している。さまざまなカテゴリーに横断するので事業領域として捉えづらい部分があり、各カテゴリーには競合が存在するが、会社全体としての競合がいないという特徴がある。
 
そんな貝印をはじめとするKAIグループ全体のコミュニケーションを担当するのが広報宣伝部で、ノンペイドの〈広報・PR〉とペイドの〈広告・イベント・タイアップ・オウンドメディア〉という2チーム体制をとっている。前者はコーポレート、カミソリ・美粧(ツメキリなどのビューティーツール)、キッチン周りの3部門に分けているが、後者は事業領域ではなく、イベント担当、SNS運用担当というように業態で分担している。


 

 ーー現在、広報宣伝部として掲げている目標は?

 
ここ3年くらい一貫して「貝印ブランドの認知度を上げること」を目標に取り組んできた。その背景には4年前に実施した消費者調査が大きく影響している。ファンの平均年齢は50歳。「貝印を知っていますか?」という問いに対し、60歳以上は90%以上が「知っている」と答えたけれど、今後経済を牽引し、ブームやカルチャーを作っていく10代20代は3割を切っていた。
 
また男性600人を対象にしたカミソリ認知度調査で、「知っている」と答えた人は20%しかいなかったが、「知らない」と答えた人にパッケージを見せると、「知っている」の合計は45%に。その差分は25%、4人に1人は貝印とは知らずに見たり使ったりしていることが判明した。
 
若者の認知度が低いのは、職人気質のメーカーゆえにブランディングや宣伝活動をあまりしてこなかったから。ユーザーに気づいてもらうため、2018年にTwitterで「『#隠れKAI』を探せ!キャンペーン」を開催したら、大いに盛り上がった。まずは知ってもらうこと。そしてカテゴリーを横断して貝印の刃物全般のファンになってもらうことをゴールとして、現在デザインやPRなどマーケティングコミュニケーションに力を入れている。
  

ーー目標達成のために、日々どのような情報を収集し、活用しているか。

 
マーケティング情報はWebメディアを中心に、『宣伝会議』『デザインノート』などの雑誌にも目を通す。顧客情報に関しては毎年実施している調査や消費者との対面リサーチを参考にするほか、Twitterのキーワード検索も活用する。あとマーケティングに直接関係するわけではないが、Spotifyで歴史コンテンツの「コテンラジオ」や、叶姉妹が一般人の悩みに答える番組はよく聴いている。相談者は総じて同調圧力や世間の目に悩んでいるのだが、叶さんが一刀両断するさまが面白く、多様性の時代に気づかされることがある。
 
ふだんから空気を吸うように情報収集しているので、とくに意識しているわけではないが、WebやSNSなど鮮度の高い情報と、雑誌のような精度の高い情報を掛けあわせて取り入れていると思う。唯一、意識的にしているのはキーワードをメモすることくらい。以前は手書きだったが、テキストデータにして保存するようになってから、検索してヒットすれば重要だとすぐわかるし、複数回出てくるキーワードを深堀りするようにしている。
 

ーー情報の社内共有はどうしているのか。

 
「週報」という社内Twitterのような仕組みがあり、週に1回それぞれ決められた曜日にアップすれば全社員に情報共有できる。「いいね」機能はないものの、気づきやアイデア、トレンド情報からクレームまで、部署・年齢・性別・住む地域も違う国内約1,000人の社員がつぶやくので、まさにTwitterを見ている感覚。週報委員会に選ばれると社長がコメントをくれるし、思いが直接上層部に届くので、みんな積極的に投稿しているようだ。週報がきっかけでコミュニケーションが始まることもあり、大切な情報収集の場にもなっている。
 
またマーケティング本部ではコロナ前からSlackを導入している。統計を見ると、Slack上でいちばん会話しているのは僕で、2位以下をダブルスコア以上に大きく引き離し、ダントツの1位だった。
  

ーー認知度が低かった若者に関する情報収集は?

 
週1回は情報の宝庫である渋谷へ足を運んでいる。まず交差点に立ってOOHなど駅周辺の広告を見まわし、どんな人がいて、どんなファッションが流行っているかを見る。その後TSUTAYAで音楽と本をチェックしてから、ミヤシタパークに行くのが最近の定番ルートだ。
 
ほかに各種トレンドランキングはチェックして、大きな流れをつかむようにしている。先日、「SHIBUYA109 lab.(シブヤイチマルキューラボ)トレンド大賞2022」にZ世代の特徴として、深く狭いコミュニティ内で楽しめるものを重視するため、“界隈”ごとに異なるトレンドが存在すると紹介されていたが、今年立ち上げたグルーミングツールの新ブランド「AUGER®(オーガー)」は、まさにそういう戦略を立てていた。


 

ーーAUGER®のターゲットは、どの界隈?

 
「身だしなみを整えつつ、心を整える」というメッセージを発信しているAUGER®は、スポーツ、ファッション、アート、eスポーツ界隈と親和性が高いと考えている。なかでもスポーツとeスポーツは身だしなみを整えることが精神集中につながるだけでなく、爪の長さが1ミリ違うだけでパフォーマンスに影響することから、サッカーの大迫勇也選手、バスケットボールの富樫勇樹選手をアンバサダーに迎え、eスポーツでは格闘ゲームの忍ism Gaming(シノビズム ゲーミング)をスポンサードしている。
 
界隈の人にアプローチする際、上っ面の情報だけではニワカだとバレてしまう。いかに深く入っていくかが重要になるが、そのためにリアルイベントへの参加など、界隈の真ん中にいる人たちに直接会って話を聞くことが不可欠だ。ローンチ時にb8ta(ベータ)へ出展したのも、生の声を収集できるから。黒一色展開の男性向けブランドとして立ち上げたが、b8taで女性評価が意外に高いことを知り、その後、性別セグメントをやめることにつながった。
 

ーーいま会員であるDIGIDAY+のサービスは?

 
日本語版だけでなく、英語版も読んでいるが、海外の話はたいていDIGIDAY+から仕入れている。AUGER®の戦略を考えるときもeスポーツやb8taの記事を参考にしたし、弊社もクリエイティブエージェンシーを傘下に持っていることから、ニューヨークのクリエイティブエージェンシー事情など、関心のある情報を得られることが多い。
 
先ほど界隈の話をしたが、eスポーツのほかにもスポーツやファッション、ビューティ、映画、アニメなど、「各カルチャー×DX」というテーマに注目しているので、今後も積極的に取り上げてほしい。
 
■齊藤淳一(さいとう・じゅんいち)
映画配給会社の20世紀FOX映画(現・20世紀スタジオ)でインターネットマーケティングを担当後、デジタル制作会社を経て、スウェーデン発のクリエイティブエージェンシー、グレートワークス上海支社でCOOに就任。同社が貝印傘下に入ったことから2016年より貝印の広報宣伝部に移籍し、「#剃るに自由を®」キャンペーン(2020年)や「紙カミソリ®」(2021年)、グルーミングツールの新ブランド「AUGER®」(2022年)など、話題性の高いキャンペーンや施策を次々に展開している。
 
Written by 山本千尋
Photos by 高村瑞穂

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