アドフラウド は世界の2倍、いま求められる広告の考え方:JAAセミナーレポート

DIGIDAY

日本のインターネット広告市場において、「アドフラウド」の被害が止まらない。

日本経済新聞(3月5日付)の報道によると、昨年の国内被害は1300億円にも上るという。この状況を改めて認識するため、公益社団法人日本アドバタイザーズ協会(以下、JAA)は4月24日に緊急セミナーを開催し、デジタル広告関係者にこの問題の深刻度を広く呼びかけた。

セミナーはトークセッション形式で行われ、アドフラウド対策などを提案する立場からIntegral Ad Science Japan(以下IAS)のカスタマーサクセスディレクターである竹井伸仁氏、日本におけるデジタル広告の歴史を知る立場からコンテンツメディアコンソーシアムの事務局長を務める長澤秀行氏、パブリッシャーの立場からメディアジーンCEOの今田素子氏が登壇。モデレーターは、パナソニックコネクトの執行役員常務CMOであり、同協会デジタルメディア委員会の委員長でもある山口有希子氏が務めた。

豊富な資金を守る堅牢さは日本企業にはない

IASの調査によると、2022年のデスクトップディスプレイでの日本のアドフラウド値は3.3%と、過去最高クラスになったという。世界平均である1.4%に比べて、2倍以上という結果だ。

竹井氏はこの結果について、「日本から発生する広告費は世界トップクラスであるのに対して、日本におけるデジタル広告の効果検証あるいはアドフラウドに対する対策が成熟していない」と指摘した。

つまり、資金が豊富にあるにもかかわらず監視の目が弱いため、反社会的な勢力からターゲットにされやすいというわけだ。

「効率>リスク」という構図

一方で今田氏は、「広告主は4マスを使用する際に、自社広告がどのようなパブリッシャーのどういった枠に出ているのかを強く気にしていたはず。しかし、デジタル広告になると、その感覚が乏しくなっている」と言及し、「どこにどのように自社の広告が出ているのかを知らなくても、広告量だけ把握すればいいというような風潮だ」と嘆く。

そこで長澤氏は、直近とくに問題視されている漫画の違法ダウンロードサイトを引き合いに出し、「不正なサイトが運営できているのは広告費のおかげ。また、それらのサイトにはアドフラウドの仕組みを取り入れた運用型広告が導入され、当たり前のように一般広告主の広告が掲載されている」と問題点を提示した。

そのうえで、「これはマーケティングの視点だけでは解決できない」とし、「社会問題である」と強く訴えた。

インターネット広告が短期間で急成長し、4マスを凌ぐ広告費が使われるようになったのは、豊富な在庫の存在とターゲティングが可能なためだ。大量の枠を使って広告主が任意のターゲットに広告を配信できる仕組みは効率がよい。しかし、ターゲティングできるゆえに極論、広告が載るメディアはどこでもよいと考えてしまう。こういった仕組み自体が、監視の目を弱らせる要因といえる。効率重視で、そこに潜むリスクまで考えられていないのだ。

(一般社団法人デジタル広告品質認証機構[JICDAQ] 2022年12月 デジタル広告課題意識調査より)

一般社団法人デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)が昨年発表した、広告関連会社を対象に行ったデジタル広告課題意識調査では、広告代理店やパブリッシャー、ベンダーなどと比べて、広告主側ではアドフラウドの認知や対策が圧倒的に低いというデータが出ている。山口氏はこの結果に鑑み、「この問題を広告主が改めて考えなければいけない」とした。

現場レベルではなく、経営課題

リスクがあると分かっていながら、なぜ広告主の認知や対策が少ないのか。

不正に広告費を取られる可能性や、ブランドイメージを損なう可能性を考えれば、徹底的な対策が大前提に思われるが、これにはヒューマンリソースやコストがかかることが前提だ。

さらに、対策を導入することによって、インプレッションを含めたKPIの達成や目標の向上が困難になる可能性もある。現場の最前線に立つマーケターたちにとっては、リスク対策が足枷のようになってしまっているのだ。

山口氏は広告主の立場から、「もともとデジタル広告は、効率重視という優位性が強かった。この根本的な考えと対策の必然性にギャップがある」と話す。そして「この問題は現場レベルではなく、経営課題といえる」とまとめた。

広告に寄り添う質のよいコンテンツが消失する可能性

デジタル広告の出稿先を精査しないことで、問題はさらに生まれている。

日本市場では、信頼のあるパブリッシャーのサイトであろうが不正なサイトであろうが、CPMは同じなのだ。また、日本のCPMは現状、海外諸国と比べてすこぶる低いという。これは、サイトの質の良し悪しが加味されていないため、在庫が豊富にあるためだ。

「パブリッシャーは広告掲載を資金源にしており、これでは信頼できるパブリッシャーが先細っていく」と今田氏は言い、「パブリッシャーの視点のみで話している訳ではない。これを解決しなければ、コンテンツの信頼性を社会的に担保できなくなる可能性もあり得る」と訴えた。

米国ではデジタル広告市場の50%ほどはPMP(プライベート・マーケット・プレイス)が占めるが、日本市場ではPMPがさほど活発ではない。「メディア特性を重視したターゲティングはほとんど行われていないため、日本ではメディアごとの広告の価値づけができていない」と長澤氏は語る。

出稿先を精査しないということは、パブリッシャーの存命、ひいては広告に寄り添うコンテンツの質にも関わってくる話なのだ。日本と世界のデジタル広告市場のかたちは、大きく違うのかもしれない。

いま、マーケターができることとは

アドベリフィケーションの導入やPMPの活用といった具体的な解決方法が示されるなかで、竹井氏は「一番重要なのは、広告への考え方。質より量という考えから脱却しなければ、日本の広告市場やコンテンツ市場は、どんどん世界の基準から離れてしまう」と話し、広告主サイドに「まずは何が起きているのか正しく認識し、現状を把握したうえで対策を講じてほしい」と要請した。

一方で長澤氏は、日本インタラクティブ広告協会(JIAA)が実施したインターネット広告における信頼度調査を紹介。

(一般社団法人日本インタラクティブ広告協会[JIAA] 2021年 インターネット広告に関するユーザー意識調査より)

「ユーザーによるインターネット広告の信頼度は、4マス広告の半分ほど」という調査結果を提示し、「信頼度が低いまま、広告費が伸びている事実を不健全だ」としたうえで、「TVが台頭したときはエージェンシーが先頭に立って信頼できる仕組みを作っていった。インターネット広告においても、健全な広告を作るというエージェンシーの志が必要だ」とエージェンシー各社に向けて呼びかけた。

また、「適切なメディアやコンテンツに広告が掲載されると、広告の理解度と視認度が非常に大きくなる」と広告の出し先を精査することのメリットも述べ、「メディアが広告に与える影響をしっかりと意識してプランニングしていくことが必要だ」とも話した。

なお、セミナーでは日本では数少ないPMPであるコンテンツ・メディア・コンソーシアムや、デジタル広告の品質を第三者認証する機構「JICDAQ」の取り組みや詳細についても紹介された。

「意識」を変え、「構造」を変える

広告主、パブリッシャー、エージェンシー、それぞれの視点は異なるが、広告を流通するという立場は変わらない。

パブリッシャーの立場から今田氏は、「改めて、ユーザーがコンテンツに接している時のモーメントはとても貴重であることを認識したい。ここを上手く使って、広告主とエージェンシーとともに、デジタル広告の正しい道筋を示したい」と協力を仰いだ。

一方で山口氏は、瑕疵のあるメディアが含まれるような提案の仕組みは許されることではないとしつつも、「お金を払っている広告主がそれをしっかりと把握して、対策を行うという意識を上げていかなければ構造は変わっていかない」とまとめた。

広告はユーザーにとってノイズとなり得るものだ。しかし、それをクリエイティブの力で、そしてメディアの包み紙で受け取りやすく包み、ユーザーに受け取ってもらう。これはデジタルでも変わらないだろう。「原点に帰って、もう一度考えてほしい」と、長澤氏は広告を扱う人それぞれに訴えかけた。

Written by 島田涼平

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