「アパレルは難しい 」:VCファンドは、なぜ アパレル 新興企業への興味をなくしたか?

DIGIDAY

こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります

従来型のアパレル新興企業への資金は枯渇し、VCは再販やアパレルテックなど、より収益性の高いニッチ市場に移行しつつある。

最初の頃、eコマースのアパレル新興企業はベンチャーキャピタルのお気に入りとなり、投資家から多額の資金がD2C新興企業に流入するようになった。しかし、これらの新興企業のいくつかは、それ以後に時代遅れになった。アパレルブランドのナスティーギャル(Nasty Gal)は2006年から2016年にかけて、VC資金で6500万ドル(約80億円)を調達した。しかし同社はマーケティング、ラグジュアリーオフィス、実店舗に資金を使い尽くしたあとで、2017年に破産を宣告した。ビンテージ小売のモドクロス(Modcloth)は2002年の創設以後に7500万ドル(約92億3000万円)を調達し、さらにウォルマート(Walmart)に買収された。しかしこの大手小売業者も結局は大きな損失のためモドクロスを手放したと報告されており、同社はそのあと、昨年にノギン(Nogin)というテック企業に再度売られることになった。

ウィロウグロースパートナーズ(Willow Growth Partners)の創設者でマネージングパートナーでもあるデボラ・ベントン氏は、VC投資家が「過去10〜15年間に、これらのアパレル企業が実際にどのように規模を拡大するかについて多くのことを学び」、このカテゴリーでの収益性に関する課題のいくつかを理解したと述べている。課題は、季節ごとの在庫のコストが高いことや、オンラインで購入されたアパレルの返品率の高さなど広範囲にわたる。

一方で、多くの投資家は従来型のアパレルブランドから離れ、再販、アパレルテック、医療アパレルなど、より利益の大きいサブカテゴリーに移行した。

再販プラットフォームへの期待

スニーカーのリコマースプラットフォームのキックスクルー(Kicks Crew)は3月、シリーズA資金調達ラウンドで600万ドル(約7億3800万円)を調達した。またファッション用サプライチェーンソフトウェア企業のキャリコ(Calico)も3月、210万ドル(約2億5800万円)のシードラウンドのため、テニスのトップ選手であるセリーナ・ウィリアムズ氏を招き入れた。いずれも、アパレルVC資金調達における、アパレル企業自体ではなく、アパレルテックやプラットフォームに投資するという、新たな動向を示唆している。

小売に特化したベンチャーキャピタル企業のインターレース(Interlace)で投資家向けプラットフォームの責任者を務めるテッサ・バッティスティン氏は、米モダンリテールに「当社の中核では、技術的な優位点を探し求めている」と述べている。その結果、インターレースは実際のアパレル企業には投資していない。

しかし、インターレースは衣料品ビジネスを支えるテック企業には投資してきた。同社のアパレル関連の投資として、中古品マーケットプレイスのトリート・アンド・フリープ(Treet and Flyp)がある。同社は買い物客が自分たちのアイテムを専門的なアパレル再販業者に渡し、業者が手数料をもらうことで買い物客の代わりに商品を高値で販売するための役割を果たす。

バッティスティン氏は次のように述べている。「当社は、アパレル分野の将来を真に左右するのはテクノロジーだと考えている。製造側での、材料のイノベーション、サステイナブルな染料、リサイクル生地のアップサイクリングやリワークなどでなければ、消費者が商品を短時間で入手でき、返品が簡単で、さらにはデジタル試着も可能になるような、消費者側のイノベーションであることは間違いない」。

インターレースは多くのファンドと同様に、再販の分野にも関心を抱いている。キックスクルーもまた、ここ数カ月や数年に大きなVC資金調達ラウンドや買収を発表した、もっとも新しい再販プラットフォームである。サービスとしての再販プラットフォームであるアーカイブ(Archive)は、ブランドが保有する自社のECサイトや店舗での再販作業のバックエンドとなるもので、この1月に800万ドル(約9億8400万円)の追加資金調達を公表した。スニーカーとストリートウェア用プラットフォームのゴート(GOAT)も、6月の後期ステージ資金調達ラウンドで1億9500万ドル(約240億円)を調達している

しかしベントン氏は、再販における投資の多くは、商品よりもプラットフォームに対してのものだと指摘している。

ベントン氏は次のように述べている。「デポップ(Depop)は、昨年秋にエッツィ(Etsy)に買収されたあとで非常に大きな成功を収めた事例だ。しかし私は、このプラットフォームの外観や操作性はテックマーケットプレイスに似ていると思う。これによってアパレルの販売や再販が促進されているが、それはほとんどあと付けだ」。

アパレルには問題が山積み

アパレルには問題が山積みだと、ベントン氏は説明する。全体として、消費者向け商品の企業は多くの場合、SaaS企業と同じ速さで拡大することは考えにくい。しかしソフトウェアに比べて利ざやが少ない消費者向け商品のなかでも、「アパレルは難しい」とベントン氏は説明している。

アパレルの利ざやは多くの場合、ビューティなどのカテゴリーより少ない。またアパレルは返品率が高いことでも知られており、eコマースのオンラインアパレルブランドでは多くの場合さらに高くなる。全米小売業協会(NRF)によれば、アパレルは自動車部品に次いで、小売のうち返品が2番目に多いカテゴリーだ。さらに、このカテゴリーでは、一部はその季節性から、多くのプロモーション活動が行われる。小売業者はシーズンの終わりに、もうすぐ季節外れになる在庫を処分するためセールに頼ることが多く、さらに利益が減少する。

それに加えて、アパレルはほかのカテゴリーよりも見誤るリスクが高いと、ベントン氏は付け加えている。バイヤーは正しいシルエット、色、サイズを選び、シーズンごとにそれを繰り返す必要がある。

「アパレルをビューティやパーソナルケアと比べれば、それらに伴うリスクは雲泥の差だ」とベントン氏は述べている。

VCファンドが実際にアパレルブランドに投資するときは、比較的リスクの小さいサブカテゴリーで操業する新興企業を選択する。

リスクの小さいサブカテゴリー

アスレジャーは、よりフォーマルなカテゴリーと比べれば有利な分野だと、ベントン氏は説明する。この分野は返品率が低く、利ざやが多い。そのため、このカテゴリーの新興企業は近年になって多くのVCファンドの注目を集めるようになった。たとえばアクティブウェアブランドのブオリ(Vuori)は、ソフトバンク(SoftBank)主導の4億ドル(約495億円)の資金調達ラウンドで、アパレルブランドへの単一の投資としては過去最大の金額を昨年10月に受け取った

同様に、医療用スクラブ企業もVCの関心を集めている。ベントン氏のウィロウグロースパートナーズは、医療用衣類企業のジャーヌー(Jaanuu)に投資し、同社は今年1月にフランスの未公開株企業のユーラゼオ(Eurazeo)から7500万ドル(約92億3000万円)の投資を受け取った。さらに、別のスクラブ企業のフィグス(Figs)は、昨年5月に45億7000万ドル(約5620億円)の評価額で株式を公開した。

アクティブウェアと同様に、スクラブは季節性が小さく、それほどぴったり身体に合う必要もなく、シルエットと色も数種類しかないことが多い。看護師や医者がスクラブを毎日業務で着ていることから、消費者が頻繁に購入する必要がある商品でもある。フィグスのS-1によれば、購入の60%はリピーターだという。

「フィグスもジャーヌーも、医療アパレルカテゴリーにより強固なスタイルコンポーネントを持ち込んだと言えるだろう」とベントン氏は述べている。「しかし、これはランウェイ上のオートクチュールとは違う。それよりもう少し身体にぴったりで、もっと綺麗な色で、スリーブやパンツのデザインは多少異なっている。ここにはファッションのリスクはない」。

アパレル企業が成功する余地

しかし、ベントン氏もバッティスティン氏も、従来型のアパレル企業が成功する余地はまだ残っていることを示唆している。

バッティスティン氏は、VCファンドがこれらの種類の企業についてタイムラインを再考することが必要な可能性があると説明する。「アパレルビジネス自体の占める場所は常に存在すると考えている」と同氏は述べる。しかし、これらのアパレルビジネスは投資回収やIPOをそれほど迅速にベンチャーキャピタリストにもたらさないだろうと、同氏は付け加えている。

一方でベントン氏は、アパレル企業に対してソフトウェア企業と同じ期待を持たないようにと投資家に警告している。ソフトウェア企業はより利ざやが多く、迅速な拡大が可能だ。

ベントン氏は次のように述べている。「成功しなかった多くのアパレル企業を見れば、多くの投資家が大損している。このような道を歩まされ、ソフトウェア会社のような業績を強いられなければ、これほど多くの資本を集めなければ、これらの企業に成功する可能性があったと思うし、実際に成功するべきだったと私は考えている」。

[原文:‘Apparel is hard’: Why VC funding has moved on from traditional clothing startups]

Maile McCann(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:黒田千聖)
Image via Figs

Source

タイトルとURLをコピーしました