ロシアの軍事侵攻により欧州宇宙機関の火星探査ミッション「エクソマーズ」が停止、ロシアに代わるパートナーの検討も

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ウクライナへの軍事侵攻を行うロシアに対して各国は協調して制裁を行っており、ロシアもそれに対抗してロケットエンジンの販売停止特許保護の撤廃といった報復措置を執っています。そんな中、欧州宇宙機関(ESA)はロシア国有の宇宙開発企業・ロスコスモスとの協力を続けることは不可能だとして、火星探査ミッション「ExoMars(エクソマーズ)」の停止を決断しました。

ESA – ExoMars suspended
https://www.esa.int/Newsroom/Press_Releases/ExoMars_suspended

ESA suspends work with Russia on ExoMars mission – SpaceNews
https://spacenews.com/esa-suspends-work-with-russia-on-exomars-mission/

Mars mission on hold indefinitely after European Space Agency cuts ties with Russia | Live Science
https://www.livescience.com/esa-exomars-cuts-ties-russia

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は宇宙開発にも影響を及ぼすことが懸念されており、実際にロスコスモスのドミトリー・ロゴージンCEOはロケットエンジンの販売停止を発表したほか、国際宇宙ステーション(ISS)への協力停止もほのめかしています。アメリカ航空宇宙局(NASA)は2022年3月14日に、「3月末にアメリカ人宇宙飛行士がロシアのソユーズ宇宙船で地球へ帰還する計画に変更はない」と述べるなど、記事作成時点では宇宙ではロシアとの協力体制が続いているとのことですが、今後はISSの脱ロシア化が求められるとの見方もされています。

ロシアが西側諸国の制裁への報復でロケットエンジンを販売停止、「ISSがアメリカやヨーロッパに墜落する危機を誰が止めるのか」とも発言 – GIGAZINE

by NASA’s Marshall Space Flight Center

火星探査ミッションのエクソマーズをロスコスモスと共同で進めていたESAも、ロシアの軍事侵攻によって方針の転換を迫られています。エクソマーズで使用される火星探査ローバーの「ロザリンド・フランクリン」は2022年に打ち上げ予定でしたが、ESA評議会は3月16日~17日にパリで開催した会合において、満場一致で「2022年のエクソマーズローバーミッションでロスコスモスと継続的に協力することは不可能」と決定し、打ち上げを停止することを発表しました。

ESAは声明の中で、「欧州の価値観を完全に尊重した宇宙開発プログラムを開発・実施することを使命とした政府間組織として、私たちはウクライナへの侵略による人的被害と悲劇的な結末を深く憂慮しています」と述べ、宇宙開発に影響が出ることは認識しているものの、ESA加盟国がロシアに科す制裁措置と連携するとしています。

ESAのジョゼフ・アッシュバッハー長官は3月17日の会見で、「現在の状況を考えると、(2022年の)打ち上げは起こりえないとの決定が下されました」とコメント。一方でエクソマーズに尽力してきた研究者は無念の声を漏らしており、ESAで人間およびロボット探査ディレクターを務めるデヴィッド・パーカー氏は、「このプロジェクトに関わった人にとっては残念です」「評議会にとっても苦渋の決断でした」と述べています。


ロスコスモスはロザリンド・フランクリンの打ち上げに使うプロトンロケットや着陸機のカザチョクの開発だけでなく、ローバーに搭載する一部の機器や放射性同位元素加熱ユニットも開発しています。ESAがロスコスモスとの関係を絶つ以上、エクソマーズのミッションを続けるにはこれらを非ロシア製のものに置き換えなくてはなりません。

ESA評議会はアッシュバッハー氏に対し、ロザリンド・フランクリンを火星に送り込むミッションを実現するための代替案を検討するため、「迅速な産業研究」を開始するように指示したとのこと。アッシュバッハー氏は「私たちが本当に行うべきはこれらの選択肢を検討することです。オプションはヨーロッパ内部でも外部でもかまいません」とコメント。また、かつて資金的な問題からエクソマーズから撤退したNASAと再び協力する可能性もあるそうです。アッシュバッハー氏は「NASAとの協力は私たちが検討する選択肢の1つです。NASAは私たちを支援する非常に強い意欲を見せています」と述べています。

パーカー氏はロスコスモスとの関係が回復すれば2024年の打ち上げが可能かもしれないと述べていますが、アッシュバッハー氏は2026年より前にロスコスモスと協力した打ち上げが実現する可能性は低いと指摘。「このプロジェクトに何十年も取り組んできた人々にはとても同情しています。エンジニアリング、科学者、コミュニティの抱えるフラストレーションも理解できます」「しかし、たとえ私たちの打ち上げが遅れたとしても、このローバーによって生み出される科学は依然として傑出しており、世界で最高のものです」と、アッシュバッハー氏は述べました。

by THE EUROPEAN SPACE AGENCY

なお、ロシアが2月26日にフランス領のギアナ宇宙センターから技術者を撤退させることを決定したことにより、EUが構築する測位システムのガリレオ・宇宙望遠鏡のユークリッド・日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)も開発に関わる地球観測衛星のEarthCAREなどのミッションも保留されているとのことです。

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