2020年半ばに創業したニューヨークの美容ブランド、ピンクムーン(Pink Moon)は、創業者のリン・チェン氏を中心に、わずか6名の契約社員で運営されている。2022年の総売上は40万ドル(約5390万円)以上、2023年の売上の予測は100万ドル(約1.3億円)以上となっている。2022年後半、チェン氏は各星座の典型的な性格に基づき、星座のエレメント別にスキンケアのニーズに対応するよう設計されたサブブランド、ワンス・イン・ア・ピンクムーン(Once in a Pink Moon)をローンチした。
中国の伝統や古代のホリスティックな儀式、そして彼女自身のセルフラブの旅にインスパイアされ、リン・チェン氏は美容業界で10年間働いた後にピンクムーンというブランドを作り出した。不健康な人間関係に終止符を打った後、彼女は伝統中国医学(TCM)と占星術にはまって逃避したが、それが再び自分自身を見つける力を与えてくれたのだという。
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ピンクムーンは、伝統中国医学、レイキ、占星術といった古来の実践を、親しみやすく入手しやすい実際の製品に落とし込み、癒しを促進することを目指している。
製品にはカッサストーン、香水、ボタニカルバスソルトなどがあり、ブランドのウェブサイトや、米国、カナダ、香港の独立系ブティックで購入できる。さらに、ナチュラルヘルスやウェルネスの食料品店、ウェルネススタジオやスパ、一部の高級ブティックホテルでも販売されている。価格帯は、竹製の歯ブラシの6ドル(約808円)から、パフュームオイルセットの120ドル(約1万6170円)までとなっている。
かたや占星術に特化したワンス・イン・ア・ピンクムーンは、「私のヘリテージと何世代にもわたって受け継がれてきた伝統を讃えるべく、セルフケア製品と古代のホリスティックな実践を融合させた」とチェン氏は述べている。
ミレニアル世代の女性を中心に占星術が再び流行
ワンス・イン・ア・ピンクムーンは、ソーシャルメディアで占星術の世界をうまく活用して成長している複数の美容ブランドのひとつだ。そうしたほかのブランドには、スペクトラムコレクションズ(Spectrum Collections、フォロワー数51万5000人)、ミルクメイクアップ(Milk Makeup、フォロワー数220万人)、セフォラ(Sephora、フォロワー数2130万人)などがある。人間関係から金運まで、人生の状況を判断する際に占星術を利用するミレニアル世代を中心とした女性のおかげで、占星術が再び流行している。2021年の推定では、占星術のサービス産業は世界で120億ドル(約1.6兆円)以上の価値があるとされており、2031年には228億ドル(約3.7兆円)に跳ね上がると予想されている。
占星術は、マレン・アルトマン氏(フォロワー数140万人)やニック・グリゴリア氏(フォロワー数290万人)といった人々によるTikTokでのライブのリーディングなど、さまざまな形でソーシャルメディアに現れている。ソーシャルメディア時代の自然な流れとして、参入障壁が低く、幅広い層に関連する占星術の情報が数多く簡単に入手できるようになった。2022年のユーガブ(YouGov)の調査では、米国の成人の27%が占星術を信じていると回答しており、そのうち30歳未満は37%となっている。
2017年以降に占星術をテーマにしたコレクションをローンチしている美容ブランドには、ウェットアンドワイルド(Wet N Wild)、ミルクメイクアップ、バイトビューティ(Bite Beauty)、スペクトラムコレクションズなどがある。2021年にはセフォラが、占星術のエレメントにインスパイアされた4種類のカスタムの香りを特徴とする、星座のリップコレクションを発売した。
スキンケアと占星術を融合させるという、賢く楽しい方法
フェイシャルオイルや4in1オイルなど、ワンス・イン・ア・ピンクムーンの製品には、塗布方法の代わりに儀式の説明書が付属している。これは、使用する人が占星術とセルフケアの融合を完全に体現した体験を楽しめるように意図している。
「ワンス・イン・ア・ピンクムーンは、構想から開発、処方まで4年の歳月を費やした」とチェン氏は語る。すべての面で占星術とスピリチュアリティに忠実であるべく、ブランドの処方は専門の占星術師と共同で開発され、意図的に選択した成分や色彩理論に基づいた色を用いているのだという。
ローンチにいたるまでの間、チェン氏はアプリと「宇宙への日々のガイド」と表現される有名な占星術のインスタグラムアカウント@sanctuarywrld(フォロワー数160万人)と提携した。同社は総ダウンロード数の共有については回答を避けたが、AppleのApp Storeでは1600件以上のレビューの星の数が平均4.8と表示されている。
「サンクチュアリ(Sanctuary)との提携は(そのリーチ力を)考えれば当然のことだった」とチェン氏は言う。「さらに、サンクチュアリのブランディングは、私たちのように楽しくて活気にあふれ、気まぐれであり、オーディエンスは私たちのターゲット市場(Z世代とミレニアル世代)に合致している」。サンクチュアリのユーザー層は90%が女性だ。
このパートナーシップでは、ふたつのインフィード投稿、3つのインスタグラムのストーリー、ひとつのカスタムメール機能で構成されている。ふたつのインフィード投稿では、サンクチュアリのチームが各12星座ごとに3ステップのリチュアルを組み立てる共同プレゼントの詳細を説明した。また、ワンス・イン・ア・ピンクムーンの商品を75ドル(約1万円)以上注文してカスタムコードを入力すると、購入時に無料のプレゼントがもらえる。今回の提携の全体的な目標は、すべてにおいて専門的な知識に裏付けられた両社の本格的な融合を実現することだった。「スキンケアと占星術を融合させるという、賢く楽しい方法だった」とチェン氏は述べている。
占星術アプリとのコラボレーション
サンクチュアリのアプリはユーザーを100人以上のプロの占星術師やタロット占い師とつなげ、テキストベースの1対1の占いを受けることができる。また、各星座の毎日の運勢や週の運勢、一年間のホロスコープ、さらにインタラクティブな出生占星図など、動的な占星術のコンテンツも特徴となっている。各ユーザーの出生占星図は、各惑星、サイン、ハウスがチャートの中でどのように作用するかといった説明とともに、その人独自の占星術に合わせて作られている。同ブランドは5分間の最初の占星術、タロット、サイキックリーディングを5ドル(約670円)、その後のタロットと占星術のリーディングを1分あたり2.99ドル(約400円)、サイキックリーディングを1分あたり4.99ドル(約670円)で提供する。アプリのサブスクリプションは、月額19.99ドル(約2690円)、年額199.99ドル(約2万6900円)となっている。
サンクチュアリの創業者でCEOのロス・クラーク氏によると、今回の提携はソーシャルフォロワーという点で成果を発揮したという。サンクチュアリとのコラボレーションの翌週、ワンス・イン・ア・ピンクムーンはインスタグラムで2000人以上のフォロワーを獲得、ブランドのウェブサイトにあるカスタマーアンケートのクリック数は1670回となった。ブランドの1週間のインスタグラムのセッションは6500%、TikTokのセッションは260%増加し、ソーシャル・トラフィックからのウェブサイト訪問総数は、平均的な週と比較して1300%増加している。
今回の提携はすぐに売上に結びついたが、チェン氏は「注文の正確な出所を追跡するのは難しい」と話す。だが、顧客はサンクチュアリ経由でこのブランドを知ったと報告している。チェン氏は提携に対する投資額については明言を避けた。
星占いのインスタグラムのリール経由でのプロモーション
2022年12月、ワンス・イン・ア・ピンクムーンはアストロツインズ(AstroTwins、フォロワー数12万2000人)とも提携した。双子のタリ・エドゥット氏とオフィラ・エドゥット氏が運営するこのアカウントは、インスタグラムで毎日占星術のコンテンツを提供している。このパートナーシップでは、ワンス・イン・ア・ピンクムーンのアンケートに基づいた製品バンドルが中心となった。アンケートは顧客が肌の目標と4つの占星術のエレメントに基づいて最適なコレクションを選ぶことができというもので、ピンクムーンの社内占星術師であるイヴリン・ズール氏とともに制作された。顧客はワンス・イン・ア・ピンクムーンのオーバーザムーン・カッサ(Over the Moon Gua Sha)とフェイシャルオイル、そしてアストロツインズの2023年ホロスコープガイドなどを目玉とするセルフラブ・バンドル(Self-Love Bundle)を合計で17%割引の価格で購入できた。
このパートナーシップは、アストロツインズがカスタムメール機能とインスタグラムのリール経由でプロモーションし、提携の翌週にはワンス・イン・ア・ピンクムーンのオンラインアンケートに457人が回答したが、これは前週から87%増となっている。全体では、同ブランドのサイトのユニーク訪問者数は前週比24%増の5200人となり、合計4500ドル(約61万円)の売上を獲得した。
占星術以外のSNSでも認知度アップを図る
パンデミック後、セルフケア効果や総合的な健康志向が望まれたことで、占星術関連製品の需要が高まっている。占星術アプリはパンデミック前のレベルと比較して、すべての地域で予想を上回る需要が発生している。占星術アプリ市場は予測期間中に25%の年平均成長率を示し、2027年には79億ドル(約1.06兆円)規模になるとされている。
人々はよりオープンマインドになっており、「なぜ」を理解したいと思い、答えをさらに求めるようになった。チェン氏いわく、彼女のブランドの製品は、美容業界に浸透しているアンチエイジングやニキビ、「欠点」にまつわるネガティブなメッセージとは異なっており、顧客が大切にされていると感じ、自分自身を輝かせるものに集中できるようになるという。
ワンス・イン・ア・ピンクムーンは、占星術に特化していないインスタグラムのアカウントでも、有料パートナーシップで紹介されることで利益を得ている。そのなかには、3万7000人以上のフォロワーがいる@torileesbeautymixや、8万人のフォロワーを抱える@dirtyboysgetcleanがいる。昨年12月8日には、TikTokに56万5000人以上のフォロワーがいるジョシュア・ピングレー氏が、フォロワーにオンラインクイズで説明する動画を投稿、ブランドの独特なポジショニングを賞賛した。「占星術とスキンケアという、自分の好きなものがふたつある」と彼は述べている。
現在、ワンス・イン・ア・ピンクムーンは、インフルエンサー、ブランドアンバサダー、PRにマーケティング予算を費やし、認知度の向上と売上の増加を図っている。チェン氏によれば、同社はブランドのポップアップなど、米国での小売流通を成長させることにも取り組んでいる。ニューヨークの顧客は、まもなくウェストビレッジのポップアップ・グローサー(Popup Grocer)でこのブランドを購入できるようになる。また香港では、オーガニックビューティ専門店のデリビューティ(Deli Beauty)、スキンケアに特化したゲットグラマラスラボ(Get Glamorous Lab)、ライフスタイル専門店のジャパンザッカ(Japanzakka)の3店舗で最近同ブランドをローンチしている。
[原文:How Once In A Pink Moon is using astrology Instagram to grow a skin-care brand]
MOLLIE DAVIES(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)