Snapchat はプラットフォームとして再起できるのか?:ショッピング、クリエイター、AIをそろえた総合プラットフォームへ

DIGIDAY

スナップ・パートナー・サミット(Snap Partner Summit:以下SPS)が4月19日、米カリフォルニア州サンタモニカで開催された。広告主獲得で苦戦が続くSnapchatにとってこのイベントは、これまでのイメージを払拭し、関係者の認識を変えさせるきっかけとなった。

広告事業の観点からみたSnapchatは、ほかプラットフォームに比べてやや出遅れた感がある。マーケターからはユーザー基盤が小さすぎると評され、AppleのATT(アプリのトラッキング透明性:App Tracking Transparency)導入によるユーザープライバシー機能強化では大きな打撃を受けた。

Snapchatの運営会社スナップ(Snap Inc.)は第5回となる今回のSPSで、AR(拡張現実)とAI(人工知能)分野における最先端イノベーションの取り組みを示し、クリエイター向けの新たなツールを発表した。

会場のバーカーハンガー(The Barker Hanger)にはパートナー、クリエイター、マーケターなど多くが集まり、対面で参加できない関係者向けにはライブ配信がおこなわれた。経営トップが次々と登壇して聴衆に語りかけ、自信に満ちたトークと気のきいた演出で最新のアイデアや事例を紹介するセッションは会場を大いに沸かせた。

祝祭的な雰囲気のうちに終了したSPSだが、クリエイターや業界各社にとって重要な意味を持つ発表もいくつかあった。以下、主な発表内容とその重要性の根拠を紹介しする。

「ストーリー」収益分配プログラムへのクリエイター参加

Snapchatはいま、世界各国で活躍する一部のクリエイター(Snapスター)を対象とした実証実験中で、パブリックストーリーの動画中に挿入するミッドロール広告の成果に応じてクリエイターに収益を分配している(分配比率は非開示)。

スナップの人材開発部門を率いるブルック・ベリー氏はSPSにプレゼンターとして登壇し、今後はより多くのクリエイターに収益分配プログラムの門戸を開くと述べた。プログラムの参加資格はSnapchatのフォロワー数5万人以上、月間閲覧数2500万以上、ストーリー動画投稿件数月間10本以上が基本となる。

ベリー氏によるとこのプログラムは、参加資格を得たクリエイターが投稿したストーリー動画に挿入された広告からの収益を分配するもので、クリエイターにしてみれば、「舞台裏のコンテンツ」の成果いかんで、継続的に収入が得られるプログラムだ。

スナップにとって広告収益分配プログラムは初めての試みになる。この種のプログラムには堅牢なインフラの構築が必要なため、導入しているのは一部のプラットフォームのみだ

参加クリエイターが増えれば増えるほど効果を発揮する

パートナー・ウィズ・クリエイターズ(Partner with Creators)創業者のアヴィ・ガンディ氏はスナップの取り組みを高く評価する。「Snapchatのストーリー収益化の機会を広げるこのプログラムは、参加クリエイターが増えれば増えるほど効果を発揮するため、来年はさらなる拡大が期待できる」。

評判はおおむね上々の収益分配プログラムだが、フォロワー数が少ない中堅以下のクリエイターにとってはかならずしも好材料とはいえない。また6カ月前、一部のクリエイターが米DIGIDAYに語ったところでは、「ほかのアプリのほうが機能豊富でビジネスチャンスも多く、報酬が高い場合もあるため、Snapchatの優先順位は高くない」という。スナップとしてはこの課題に向き合う必要があるだろう。

一般ユーザーもパブリックストーリー投稿が可能に

業界の先例としてTikTokは、プラットフォームのアルゴリズムによりどんなユーザーでもクリエイターとして情報を発信し、話題づくりに関われるチャンスを提供している。Snapchatも同様の方向性を示し、これまでトップクリエイターとブランドに限られていたパブリックストーリーの投稿資格要件を緩和し、今後は18歳以上のユーザーであれば誰でも、自身のパブリックストーリーを投稿できるようにするという。

デジタルエンターテインメント専門であるフューアル・インジェクター(The Fuel Injector)のデヴェイン・ドゥーララマ二CEOもSPSに参加したが、スナップのクリエイター施策を歓迎。DIGIDAYの取材には、「すべてのユーザーに、ブランドを成長させ、オーディエンス基盤を築くチャンスが与えられることになる」と述べた。

AR施策の強化

Snapchatは以前からAR技術の活用で知られ、それゆえに多くのファンを獲得してきた。3月23日には、法人向けのARエンタープライズサービス(AR Enterprise Services:以下ARES)を発表。ARES第一弾としてリリースされたのがショッピングスイート(shopping Suite)のサービスで、今後の展開の詳細がSPSで紹介された。

同社のARエンタープライズソリューション責任者であるジル・ポペルカ氏はSPSに登壇し、ショッピングスイートについて「スナップのAR/AI技術を融合させたソリューションで、企業のブランドロイヤルティを向上させ、商品の返品率を減らし、競合との差別化を図る一助となるサービスだ」と語った。

ショッピングスイートはバーチャル試着、3D Viewer、Fit FinderなどのSnapchatの機能を、顧客企業が自社サイトを介して提供できる商用サービスで、試験運用した企業では返品率が24%低下したデータもあるという(統計データの詳細は非開示)。

新機能のARミラー(AR Mirrors)により、ユーザーは実店舗に設置されたデバイスの画面で商品のバーチャル試着ができる。「迅速で効率のよい買い物を楽しめるツールだ。この機能は、消費者のショッピング体験におけるオンラインと実店舗のギャップを埋めるのに一役買うだろう」とポペルカ氏は述べた。

Snapchatの成功を裏づけるデータ

スナップのエヴァン・シュピーゲルCEOとそのチームはSPSのプレゼンで、Snapchatの成功事例を語り、新機能の概要はもちろん、学生向けにコンテンツを楽しく使いやすくする工夫などを披露した。また、AIチャットボット「My AI」の機能強化、アバター作成アプリ「Bitmoj」と位置共有アプリ「Snap Map」のパーソナライズについてもデモによる説明があった。

プレゼンを聞いたドゥーララマ二氏はこう述べている。「Snapchatが、ショッピング、クリエイター、AIといった各分野のソリューションを取り揃えた総合的なプラットフォームになりつつあるという印象を受けた」。

シュピーゲルCEOは、「Snapchatの月間アクティブユーザー数は7億5000万人に達し、20以上の国と地域の13歳から34歳の年齢層の大半が利用している」と誇らしげに語った。一方、製品担当バイスプレジデントのジャック・ブロディ氏からは、すでに300万人超のSnapchatユーザーが加入する有料プランのSnapchat+がまもなく、ベライゾン(Verizon)のサブスクリプション管理プラットフォーム「+Play」のサービスに追加されるという発表があった。

2022年8月に導入されたSnapchat+は、月額3ドル99セント(約520円)でアプリの強化版を先行して利用できるサブスクリプションサービスだ。現時点で20を超えるリリース前の実験的機能が提供されている。

Snapchatが抱える課題

しかし、シュピーゲル氏とそのチームによるプレゼンは、相対的に小さいユーザー基盤をめぐるSnapchatの課題に関し、広告主の懸念を払拭できたとはいえない。また、AppleのATT導入の影響で、以前に比べて広告媒体としてのSnapchatの効果が薄れたという事情もある。

スナップの広告事業を取り巻く環境は厳しくなり、マーケターからの信頼を失う結果を招いた。

たしかに、2022年第4四半期の決算発表によれば、Snapchatのユーザー基盤は拡大しており、1日のアクティブユーザー数は22年末時点で3億7500万人と、前年の3億1900万人から増加傾向にある。しかし、そのユーザー数もソーシャルメディアプラットフォームのなかでは常に2番手であり、広告主の予算が厳しい場合、Snapchatは真っ先に切られる傾向にある媒体だ。

マーケティングエージェンシーのザ・カルチャークラブ(The Culture Club)創業者兼CEOであるアレックス・ロア氏は、Snapchatについて懐疑的な見方をしている。ロア氏は、LinkedIn(リンクトイン)への最近の投稿で、「Snapchatは総合的メディアプラットフォームとしてはまだ物足りない」と述べた。

「Snapchatはコミュニケーションプラットフォームとして使われる場合が多く、メディア機能は補足的なものだ」と同氏は言い、「Snapchatがメディア/エンターテインメント情報目当ての新規ユーザーを大量に獲得してシェアを伸ばせるとは思えない。それらの分野ではYouTubeやTikTokとの競争になるからだ」と続けた。また、「クリエイターがSnapchatに投稿した動画を、ユーザーが両親に共有するというような状況も想像しがたい」と言い添えた。

[原文:The rundown: How Snapchat laid the groundwork for a reset to users and advertisers

Krystal Scanlon(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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