トレードデスク はメディアエージェンシーの友ではなくなったのか?:「クライアントにより直接的にアプローチするようになってきた」

DIGIDAY

インベントリをプログラマティックで購入するとき、強大な力を持つGoogleの代わりになってくれるような、フレンドリーで協力的な存在。エージェンシー各社はかつて、トレードデスク(The Trade Desk:以下、TTD)をそんなふうに見ていた。どうやら、そんな幸せな日々は過ぎ去ってしまったようだ。透明性の低下、使用料の高額化、恐怖すら感じさせるほどの巨大化。一部のメディアエージェンシーはTTDに対して、このような不平をもらしている。

いったいなぜ、彼らはTTDに恐怖すら感じるようになったのか? それはTTDがこの1年間、ブランド、つまりメディアエージェンシーのクライアントとの、より密で直接的な関係の構築に取り組んできたからだ。しかし同時に、交渉の場での影響力を自身に求める以外に、メディアエージェンシーにできることはほとんどないからでもある。TTDはいまや、それだけインベントリーのプログラマティック売買の要になっているのだ。

TTDの権力集中は諸刃の剣

今回の記事のために、米DIGIDAYが取材したメディアエージェンシー関係者やアナリストは、TTDとの関係が現在も継続中であることを理由に、全員が匿名を希望した。

TTDの担当者は、昨年もこれまで同様、エージェンシー各社の怒りを買うようなことは何もしていないと述べ、彼らの不平に反論している。そして、これらの問題に関する不満の声をあげているエージェンシー関係者もいないという。

「メディアビジネスが、信頼と透明性、客観性に基づいてオープンインターネットに築かれた、よりデータドリブンなエコシステムへと転換しつつあるいま、TTDにとってエージェンシーパートナーは仲間のような存在だ」と、同担当者は語る。

多くのエージェンシートレーダーにとって、TTDの権力集中は、ビジネスの観点からは諸刃の剣だ。そのほかのベンダーと比べると、TTDは一貫して業績を上げ、着実な成長を遂げている。それだけではない。アンチGoogleとして(Googleの「DV360」はTTDのライバル)、またオープンウェブの擁護者としての自らのポジションも早くに確立している。

そしていま、状況はほぼ一変した。エージェンシーが指摘するように、TTDのカスタマーサービスの質が低下しただけでなく、Googleのカスタマーサービスが向上したからだ。後者に関しては、2022年にGoogleの売上がはじめて落ち込んだことが関係しているかもしれない。その結果、エージェンシーやクライアントに対する、より親切でフレンドリーなアプローチの採用を余儀なくされた可能性はある。しかしそれでも、メディアエージェンシーにしてみれば、TTDがかつてほど協力的ではなくなってしまったというという事実は変わらない。

いったいそれは、どのような不満なのだろうか?

クライアントへの直接的なアプローチ

今回取材したエージェンシー関係者は、「TTDはクライアントにより直接的にアプローチするようになってきた」と、口をそろえる。ある関係者は、直接的な脅威として、TTDがウォルマート(Walmart)との関係をさらに深めていることを挙げている。

TTDが2022年2月、オープンパス(OpenPath)をローンチすると、インベントリーへの直接的なアクセスを広告主に提供する手段として、多くのパブリッシャーがこれを利用した。その影響で「売買の方程式から実質的に外されてしまった」と、エージェンシー側は不満をもらしている(これについて、あるエージェンシー幹部は、エージェンシーよりもプログラマティックベンダーの方が打撃をこうむっていると指摘している)。

対するTTD側の見方はかなり違っている。「デジタル広告の客観的価値を高めたいエージェンシークライアントをサポートするため、TTDは以前から透明性向上のための改良をサプライチェーンに加えてきた。その直近の例が、オープンパスだ」と、TTDの担当者は語る。「その結果、TTDがエージェンシークライアントと共有するバイサイドの関係や連携は、かつてないほどに強くなっている」。

料金の高騰

あるエージェンシー幹部は、「TTDはデータ料金の請求の仕方を完全に変更し、CPM料金からメディア料金のパーセンテージへ切り替えた」と話す。別のエージェンシー関係者も、これを裏付ける発言をしている。データは投資の価値と効果の向上に欠かせないものだが、TTDの料金はかつてに比べて大幅に跳ね上がり、いまやほかの(非Google系)DSP(デマンドサイドプラットフォーム)のコストの倍ほどもするという。

また別の幹部も、TTDは「UID 2.0」(同社が推すポストCookieの識別子ソリューション)の使用に「多額の料金」を請求してくるとフラストレーションを口にする。しかも、そこに交渉の余地などなく、「この条件を飲むか否か」の二者択一を迫られるという(これに対してTTDの担当者は、UID 2.0はオープンソースであり、その利用に料金は発生しないと回答している)。

TTDによれば、料金のテイクレートは過去8年間、約20%で横ばいを続けており、2014年の21.1%から始まり、その後は若干の上下を繰り返して、2022年は19.4%だったという。

強まるプロダクト/サービスの不透明感

あるエージェンシーのプログラマティックの専門家は、DSPプロセスの透明性の向上を目的に主導するGoogleによるプログラム「コンファーミング・グロス・レベニュー(Confirming Gross Revenue)」に参加していないようだと話す。GoogleとTTDはDSP市場で真っ向から競合する間柄であることは確かだが、「そこに参加しないのは、隠し事があるといっているようなものなのでは」と、同氏はいう。「デジタル広告の購入を正確かつ透明なものにしてくれるデータをクライアントが活用できるようにするため、自社のプラットフォームを構築してきた」と、TTDの担当者は語る。

結局のところ、行き着く先は規模と交渉ということなのだろう。もしそのエージェンシーが十分な規模を誇っていれば、料金の交渉は可能だろう。反対に、そのエージェンシーが小さければ、それだけ交渉の余地の幅も狭くなる。「プログラマティックのそもそものコンセプトは非保証型であり、価格設定の固定はその目的にそぐわない」と、あるエージェンシー幹部は話す。

両陣営間の緊張を観察してきたあるアナリストは、「そのほかのDSPやプログラマティックベンダーが、ここに陣地を確保するチャンスを手にする可能性はある」と話す。なかには、プログラマティックワークフローを中心として機能するようにデザインされているエージェンシーもある。このようなエージェンシーは、TTDのサービスを受け入れるか、ほかを探すかの二者択一を迫られることになる。

プログラマティックに特化したエージェンシーのある幹部は、ほかのエージェンシー関係者の意見に異議を唱え、それを力に対する憤りと結論付けた。「それがザ・トレード・デスクであれ、Googleであれ、Amazonであれ、プラットフォームが大きな力を持つことを好まない傾向が、我々のなかにはある」と、同氏は語る。「レバレッジを失って喜ぶ者など、誰もいない」。

その一方で同氏は、TTDだけではなくすべてのDSPが、大規模な保証型キャンペーンがリターゲティングやフリークエンシーキャップといったDSPサービスを含まない場合、そこに適用する料金を見直すべきであることも認めている。

「リターゲティングキャンペーンにDSPを介してメディア予算の20%を支払うのはかまわないが、単なるワークフローツールであるDSPにTV予算の20%を支払うとなると、話は別だ」と、同氏は語った。

[原文:How The Trade Desk went from media agency BFF to frenemy

Michael Bürgi(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)

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