カニエ・ウエスト、ビヨンセとの契約も苦戦:アディダスがそれでもセレブリティとのコラボを続ける理由

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アディダス(Adidas)は、依然としてセレブリティとの提携に望みを託している。最近もっとも注目を集めたパートナーシップのいくつかが不本意な結果に終わったにもかかわらず、だ。

同社は2月1日、Netflixの「ウェンズデー(Wednesday)」で主役を務めた俳優ジェナ・オルテガ氏が、50年ぶりに更新される同社の新レーベルに登場すると発表した。同社はまだこのレーベルの名前やパートナーシップの期間を公表していないが、オルテガ氏の「進歩的な性格と、創造性のあくなき追及により、同氏はこの世代におけるもっとも刺激的な先駆者のひとりであり、新レーベルの顔としてファミリーに加わる理想的なパートナーとなる」と述べている。

このニュースは、同社がカニエ・ウェスト氏との決別により今年の収益に13億ドル(約1740億円)の損失が出る可能性があると警告したのと同じ月に発表された。同社は昨年10月、いくつかの反ユダヤ的な発言や、虚偽の陰謀論を広めたラッパーのウェスト氏(現在はイェ氏と呼ばれている)との9年間にわたるパートナーシップを終了した。一方で、同社と歌手ビヨンセ氏とのパートナーシップも問題を抱えており、同氏による「アイビーパーク(Ivy Park)」の商品ラインは2022年に売上が50%低下したと伝えられている。同社とビヨンセ氏との契約は2023年で満了するが、経営幹部は、契約を更新すべきかどうか会議で検討していると、関係者がウォールストリートジャーナル(The Wall Street Journal)に語っている

コラボレーションの長い歴史

アディダスのほかの部門が短期的にこの損失をカバーできれば理想的だ。しかし、同社全体の財務状況は落ち込みつつあり、6カ月以内に4回も業績を下方修正した。イージー(Yeezy)の契約による悪影響に加えて、2023年に約2億1400万ドル(約287億円)の一時的なコストを予測している。プーマ(Puma)から移籍してきた新CEOのジョーン・グルデン氏は、同社が「あるべき姿のパフォーマンスを発揮できていない」と認め、「消費者、自社のアスリート、小売パートナー、従業員に全力を注ぐ必要がある」としている。今後、失った収益の一部を埋め合わせるため、特に商品のイノベーションに関して広範囲に及ぶ改革を行う必要がありそうだ。

フットウェア分野の他社と同様、同社にも注目度の高いパートナーシップに関して長い歴史がある。過去数年間にわたり、同社はリオネル・メッシ氏、デイミアン・リラード氏、ジェームズ・ハーデン氏、ビリー・ジーン・キング氏、キャンデース・パーカー氏などのアスリートと協力してきた。近年では、音楽や映画などほかの分野での協業相手を探し求め、ファレル・ウィリアムス氏、バッド・バニー氏、リタ・オラ氏などとのコラボレーションを実現した。また、グッチ(Gucci)やバレンシアガ(Balenciaga)などのようなラグジュアリーブランドとのパートナーシップにも手を広げている。

フットウェアの大手企業がアスリート以外の人物と協力するのは不思議に思えるかもしれないが、このようなブランドは増えてきている。たとえばナイキ(Nike)はケンドリック・ラマー氏、ビリー・アイリッシュ氏、J・バルビン氏などのミュージシャンや、ヴァージル・アブロー氏などのファッションデザイナーとも協業した。プーマはソランジュ・ノウルズ氏、アレキサンダー・マックイーン氏、ジェイ・Z氏とコラボレーションしてきた。また同社は、ニューヨーク市のチャイナタウンの宝石商であるトミージュエルズ(Tommy Jewels)や、ニューヨーク市のレストランであるラス・アンド・ドーターズ(Russ & Daughters)など、よりニッチなパートナーシップも結んできた。各ブランドはZ世代のインフルエンサーやセレブリティとの提携を増やしている。DSWはTikTokクリエイターのエリー・ツァイラー氏と提携し、コンバース(Converse)はミリー・ボビー・ブラウン氏とタッグを組んだ。

全体を見据えて、「あらゆるブランドにとって、スポーツとカルチャーの交差点に成長する層が存在すると信じている」と、スポーツマーケティング代理店レボリューション(Revolution)の最高クリエイティブ責任者を務めるブライアン・クォールズ氏は米モダンリテールに語った。

イェ氏との契約終了の余波

このような種類の話題性の高いパートナーシップは、リスクもリターンも大きい勝負になる可能性がある。成功すればブランドが注目され、価値が大幅に高まる。ナイキのジョーダンブランド(Jordan Brand)は「優に100億ドル(約1兆3400億円)を超える価値がある」とフォーブス(Forbes)は述べており、プーマは2015年にリアーナ氏を同社の女性クリエイティブディレクターに任命してから数百万ドルを稼ぎ出した。アディダスのイェ氏との契約は2013年に締結されたものだが、年間20億ドル(約2680億円)の売上をもたらし、歴史上もっとも成功したパートナーシップのひとつになった。

イージーの成功には多くの要因が関係していると、ウェドブッシュセキュリティーズ(Wedbush Securities)のイクイティ調査担当シニアバイスプレジデントを務めるトム・ニキック氏は米モダンリテールに語った。要因のひとつは、イェ氏が世界最高のラッパーのひとりであったこと、もうひとつは、同氏のシューズが、アディダスの「精密に設計された快適性を足下に感じられる」ブースト(Boost)テクノロジーを初めて採用したものだったことだ。しかし、同社がビヨンセ氏とのパートナーシップで見たように、「簡単に再現できるものではない」と、ニキック氏は述べる。「単に別のアーティストを招き入れても、望んだようなパートナーシップが実現するとは限らない」。

このような種類のパートナーシップは非常に高価になる場合があり、望んだ結果が得られない場合の損失も大きくなる。たとえばビヨンセ氏はアディダスとの契約で年に2000万ドル(約26億8000万円)を受け取っていると報じられており、同氏とのパートナーシップは「高予算の映画のようなもの」だと、インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)のイーマーケター(eMarketer)プリンシパルアナリストを務めるアンドリュー・リプスマン氏は語る。「最高級のセレブリティにこのような報酬を支払って、その映画の興行が失敗すれば、大きな損失だ」。さらに、映画スタジオは何本かの映画でリスクを軽減できるが、「セレブリティとアパレルのパートナーシップに関しては、リスクを分散させることができないかもしれない」と、リプスマン氏は述べる。「ほとんどの場合は、1つか2つ、せいぜい3つのことにすべてを賭けることになる」。

リスクがあってもコラボレーションする理由

それでも、このようなパートナーシップを削減したり避けたりするのは正解ではないと、専門家は米モダンリテールに語る。アディダスとビヨンセ氏とのパートナーシップについて、「アディダスは今後、アイビーパークをどのようにデザインするか、どのようなカテゴリーに属するかを考えるかもしれない」と、クォールズ氏は述べる。「それとも、ビヨンセ氏に代わる誰かをアイビーパークというブランドに引き入れて、注目を集めるか、タイトルの意味するものを多様化するかもしれない」。

最終的に、「アスリート、エンターテイナー、アーティスト、ミュージシャンと、どのようなセレブリティとのパートナーシップでも、綿密な調査は必要だ」と、同氏は付け加える。「そして、このようなパートナーシップにはリスクがある。しかし、それによって得られる価値、ビヨンセ氏のような名前から得られるリーチの範囲は驚異的なものだ」。

[原文:Does Adidas need to rethink its celebrity partnership playbook? ]

Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Adidas

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