コワーキングスペース業界に、コロナがもたらした変化とは? : 曖昧になる「生活、仕事、休暇の境界線」

DIGIDAY

リモートワークが広がりを見せるなか、エリー・ホールズ氏は本来の拠点であるロンドン南西部のクラパムを離れ、1カ月のあいだフランス南部に滞在し、そこで仕事を進めることにした。

現在、ホールズ氏は41歳。イベントマネージャーを務めている。同氏は新しい人たちと出会う機会を増やしたいと考え、エアービーアンドビー(Airbnb)でなく、以前リスボンとニューヨークで同じような施設に泊まったことのある友人のつてで、モンペリエの共同生活スペースを予約した。

その滞在先では、多くの出会いがあった。「到着した瞬間から、みんなとてもフレンドリーだった。一緒にビーチに遊びにいったり、施設のワッツアップ(WhatsApp)グループに加わってコミュニケーションを取っていた。いつも、何かしらすることがあった」。

なおホールズ氏は、施設が用意するさまざまな会議室を使うと余分な費用がかかるため、自分だけのプライベート寝室のみを予約した。ただ仕事は、自分の部屋だけでなく、レストランや共用のリビングルームやキッチンでこなしていたという。

シェアハウスでの体験がとても充実していたため、ホールズ氏は結局、6カ月のあいだ滞在していた。ただ、気になる点もあったという。「私はそもそも、長期的な滞在を予定していなかったので良いのだが、ほかの滞在者がみんなとても若かったのは気になった。40歳よりも25歳くらいの方に合っているのではないか」。

世界にどれだけのデジタルノマドがいるのか、正確に知るのは難しい。ただ、人材マーケットプレイスを提供するMBOパートナーズ(MBO Partners)のレポートによると、米国では2019年から2020年のわずか1年間のあいだに、デジタルノマドは50%近く急増し、1090万人に達しているという。

リモートワークがある程度定着し、SlackやZoomといったツールでのコミュニケーションが受け入れられるようになったことで、海外からでも以前よりスムーズに仕事ができるようになり、こうした働き方はますます人気を集めるようになっている。

ジェットコースターのような1年

スペイン、コスタリカ、メキシコなど、世界に27の拠点を持つ共同生活スペースプロバイダー、アウトサイト(Outsite)の創設者エマニュエル・ギセット氏は、同社にとってこの1年はまるでジェットコースターのようだったという。

アウトサイトは現在、ポルトガルやバリにある同社施設に関しては、現地の規制もあり閉鎖しているが、米国内での営業は継続している。ただ、施設の利用率は米国内でも地域によって大きく異なるという。たとえば、ハワイやサンディエゴといった地域の施設は、2020年の春と夏のあいだは満員だった。9月ころまでは「人里離れたアウトドアなロケーションの需要が急増していた」と、ギセット氏。一方、ニューヨークやサンフランシスコのような都市部の施設は、「最近になって、ようやく通常の利用状況に戻った」のだという。

またギセット氏は、施設のレイアウトやルールを変更するといった対応にも苦労した。「我々の施設には相部屋もいくつかあったので、それを解消する必要があった。また、施設内で感染者が出た場合に備えて、対応方針を策定した」。

なおアウトサイトは、検査やマスク使用を強制するルールは設けていないが、利用者のほとんどは、共用スペースにいるときは自発的にマスクを使用しているという。「基本的には、各物件を管理しているメンバーに、どのような対策を取るのがベストなのかを決めてもらっている」。

多様なオプションの用意が大切

ギセット氏によると、アウトサイトでは、これまでデジタルノマド的な働き方ができなかった人たちの需要が増えているという。「また、カップルやファミリーの利用も増えている」とギセット氏は付け加える。こうした背景もありアウトサイトは、同社が運営する施設の位置付けを、共同生活から「リモートワークで働く人々と、そのコミュニティのための宿泊施設」に変更する計画だ。

「新しい利用者の多くはプライベートな空間だけでなく、コミュニティも望んでいる。しかし、彼らは生活空間まで共有したいとは考えていないだろう」とギゼット氏は述べる。そこでアウトサイトは、コスタリカのような場所で、プライベート・アパートやバンガローを実験的に提供している。利用者は、プライベートは担保しつつもコミュニティ活動に参加したり、コワーキングスペースを使うことができるという。加えて同社は、家族の利用者に何を提供できるかについても検討している。

パンデミックを受けて、個人用スペースの需要が高まっていることは明らかだと、ヨン・リビング(Yon Living)の共同創設者であるアント・スティール氏は述べた。同社は、フランス、シチリア島、グランカナリア島などの都市において10から20の部屋を備えたスペースを抱えており、25歳から45歳を中心とする年齢層が若干高めの利用者向けに施設を展開している。

スティール氏は、「ひとりで過ごすこともできるが、グループ参加もできるというオプション提供が大切だ」と強調する。実際、ヨン・リビングの施設には、小さなコワーキングスペースがある一方、自分だけの仕事スペースも用意されているという。「幸いなことに、我々は以前からこの形態を念頭に置いていた。というのも、我々がターゲットとしているのは若年層ではない。プライベートなスペースは、年齢を重ねるにつれてより大きな価値を持つようになる」。

曖昧になる境界線

『デジタル・ノマズ(Digital Nomads)』の共著者で、ペンシルベニア州のワシントン・アンド・ジェファーソン大学の准教授、ロバート・リッチフィールド氏も同じ意見を持っている。「私たちは皆、より個人的な空間を持つことに慣れてきている。これは人々が、密接度の高いホステルのような施設から離れていくことを意味する」と同氏。

「共同生活スペースを運営する企業は、彼らが集めようとしている顧客は、一体誰なのかを考えなければならない」。こうした企業が、ターゲットとする顧客層にリーチするためには、コストや個人的なスペース、求められる社会的交流の量など、さまざまな要素を考慮する必要があるという。遠隔地で働くサラリーマンのなかには、単に新たな体験を求めているだけの人もいるかもしれないと、リッチフィールド氏は強調する。

前出のスティール氏も、最近になってリモートワークを開始した。また同氏は、「これまで都市で働いてきた人々」は、以前から共同生活を求めていた層とは考え方が異なると述べる。「彼らが求めているのは、ある程度の規則性を保ったうえで、1週間か2週間にわたる『非日常』な体験だ」と同氏は述べる。こうした関心に応えるため、ヨン・リビングはライトなプランの提供も行っている。これは、個人用の仕事デスクや家庭用トレーニング器具など、日常生活の要素をこれまではなかった場所に取り入れた、「体験型の休暇」に近いのだという。

「生活、仕事、休暇の境界は、非常に曖昧になりつつある」。

[原文:Work-life boundaries continue to blur: How the pandemic has changed co-living

SUZANNE BEARNE(翻訳:塚本 紺、編集:村上莞)

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