サードパーティCookie 完全廃止を前に、Googleに向けられる疑念

DIGIDAY

出だしからつまずいたが、Googleはついに、2度延期したプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)の導入について、より具体的なタイムラインを発表した。とはいえ、この大きな変化が同社のアドテク王国に関わる企業およびユーザーに及ぼす影響への懸念は、依然として残っている。

Googleは5月第3週、世界のChromeユーザーの1%について、サードパーティCookieを2024年第1四半期に無効にすると発表した。さらに、サンドボックスが具現化するなか、その前の早くも今夏にはいくつか新たな試みも計画している。また、7月には世界の全ユーザーに適応される新たなAPIをChromeの新バージョンに組み入れる。2023年後半には、オプトインテストの第4クォーターでの開始をめざしており、同社は2024年末までのサードパーティCookie完全廃止を見据えている。

最大規模の変化に潜む懸念

このタイムラインに関する質問に対し、Googleプロジェクトマネジメント部門シニアディレクターであるヴィクター・ウォン氏は、同時に取り組むべき重要課題が2つ存在していると答える。それは、「新たなインフラストラクチャーの導入」と、それと同時進行で行なう「古い技術の排除」だという。

「これはWeb界に導入しうる最大規模の変化だということが、理解されていない」とウォン氏は嘆く。「言うなれば、インターネットの大規模な配管工事のようなものだ。これと同等のものは、そうはないと思う。ただひとつ言えるのは、Chromeは概して、Web界の土台に影響を与えるものについては何であれ、常に慎重な姿勢で臨むようにしている、ということだ」。

当初から、サンドボックスに対する反応は称賛、混乱、懐疑の入り交じるものだった。2度にわたる延期を受けて、これほど大きな変化にどう備えればよいのかと頭を悩ませる者も少なくなく、関係者の懸念は深まるばかりだった。実際、サンドボックスはユーザーのプライバシーを、あるいは広告主の業績を向上すると、Googleはいまだ証明もしていない、との指摘も聞かれる。また、この変化は結局、ウォールドガーデンの壁をますます高くし、サンドボックス内におけるGoogleの力をさらに強大化するだけだという見方もある。

「Googleは実質、スーパーマーケットを営んでいるようなもので、そこにはたとえば、デザートコーナーと手作りケーキ/クッキー用品コーナーがある」と指摘するのは、匿名の企業および業界関係団体からなる連合、ムーヴメント・フォー・アン・オープンウェブ(Movement for an Open Web、MOW)の創設者であるジェームズ・ローズウェル氏だ。「彼らはようするに、チェリーパイがお望みなら、デザートコーナーに来てうちのチェリーパイを買え、と言っている。それで7月には、手作りケーキ/クッキー用品コーナーを閉めるという。つまり、小麦粉も卵もくらんぼももはや買えなくなる、ということだ」。

前向きな姿勢と懐疑が入り交じるマーケターたち

マーケターのなかには、不確かであること自体が有害であるため、今回のアップデートで先が見えたことはありがたい、と言う者もいる。とはいえ、Googleの変更がそのアドテクエコシステム内の他社にどんな影響を与えるのかは、いまだ不確かだ。

たとえばアップラビン(AppLovin)は5月第2週、四半期財務報告書のなかで、プライバシーサンドボックスは「我々の事業、財務状況、業績に著しいマイナス影響を及ぼしかねない」と指摘している。

「これまでそうしたデータプライバシーに関する変更は、それらプラットフォームにおけるアプリの発見性に多少の影響を与えてきたが、我々の業績全体に対する総合的影響でいえば、ごく小さなものだった」とアップラビンは書いている。

一部観測筋は、「Google自身のテストは依然として信用しきれない」と指摘する。その理由としては、エコシステムの一部はGoogleの新APIを異なるかたちで利用することになる点と、一部の初期テストが依然、サードパーティCookieを完全には排除していなかった点が挙げられる。またその一方で、少なくとも、すべてが施行される前にCookieの無効化をシミュレートできるという理由で、今回のアップデートを朗報と受け止めるマーケターもいる。

「我々はいま、広告業界の自主再創造の最中にいる」

「1%のユーザーのサードパーティCookie無効化が、この大配管工事の評価の鍵となるだろう」と、エプシロン(Epsilon)のチーフアナリティクスオフィサーであるロック・ローズ氏は指摘する。サードパーティCookieを無効化せずに新APIを全ユーザーに適応するのは朗報だが、これまでのところ、スケールの欠如がネックとなり、「適切なテストが実施できていない」と同氏は言い添える。また、サードパーティ識別子の無効化は、ターゲティング側よりもメジャーメント(効果測定)側への影響が大きいだろう、とも話す。

「というのも、キャンペーンコンバートに晒されているのはそのごく一部に過ぎないからだ。つまりそれは比較的小さな信号/合図でしかない」と同氏は言い、「トラッキングの観点で言えば、誰がコンバートしたのかが知りたいわけではない。私が知りたいのは、何%がコンバートしたのかだ」と続ける。

「アドテク界は、いったん築かれたら、破壊と再構築は常に困難である」と指摘するのは、米州ワシントンDCのIAPPマネージングディレクターであるコーブン・ズワイフェル=キーガン氏だ。州内でさえ規制の線引きが曖昧ななか、全米および国際レベルの話となると、Googleや他社が新技術の構築と新法または未来の法令遵守をどう考えているのかを巡り、法的グレーゾーンがさらに濃くなるだろうと、同氏は言い添える。

また同氏は、「カリフォルニア州当局が同州新法の一部に新たな法解釈を加えたのは、わずか数カ月前のことでしかない」とも指摘する。Googleは実際、反トラスト法違反をはじめ、米司法省との大きな訴訟をほかにも複数抱えてもいる。

「我々はいま現在、広告業界の自主再創造の最中にいるのだが、それは遅々として進まない、大きな痛みを伴う過程であり、この向こう側にどんな世界が広がっているのかは、誰にもわからない」と同氏はぼやく。

疑念は2020年から

サードパーティCookieの没落、オンライン広告真冬の時代が始まったのは2017年、Appleが自社WebプラウザSafariにおいてターゲティングおよびトラッキング目的でのサードパーティCookieの有効性縮小を始めたときのことであり、同社はこの方針を一方的に導入した。

だが、Googleはオンライン広告業界の支配者(そして同社の解体を積極的に訴える当局の攻撃の的)であり、それゆえ2020年1月にChromeもSafariをまねると断言して以降、同社はその姿勢において、Apple以上の責任を負っていると言わざるをえない。

当時、Googleはプライバシーサンドボックスを公式に発表し、その時は意味不明な頭文字を並べただけのものだったが、初期テストが始まるや、サードパーティ関係者のあいだで異議が広がった。

そうした不満にはたとえば、Googleが提案する新たな標準的ターゲティング手法の効果に対する懸念や、Googleはプライバシーサンドボックスをいわばトロイの木馬的に利用し、広大なオンライン広告業界の支配のさらなる強化に乗り出すのでは、との疑念も含まれていた。

業界に漂う苦痛

プライバシーサンドボックスがWeb業界標準団体から最も辛辣な批判を受けたのは、ほぼ間違いなく、2023年前半のW3C主催による委員会でのことで、同団体は同社のトピックスAPI(Topics API)を却下し、その前にはそれらを「有害」と切り捨てていた。事実、そうした懸念は極めて大きく膨らみ、プライバシーサンドボックス開発への監視を英当局が求めたほどだった

こうした異議のせいで、Googleは自社WebブラウザChromeにおけるサードパーティCookieの縮小を2度延期し、同プロジェクトの完全施行のタイムラインを2022年から現在の予定である2024年にずらした。そしてこの過程がまた、業界内に大いなる苦痛を生んでいる。

ある情報筋はクライアントの気持ちをおもんばかり、匿名を条件に米DIGIDAYにこう語る。「この優柔不断のせいで、多くの大手は重要な決断を下しにくくなっている。これは間違いなく、業界における最も重要な大転換のひとつだ」。

[原文:Google’s Privacy Sandbox updates are met with both skepticism and a little more optimism

Marty Swant and Ronan Shields(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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