デ・インフルエンシング は過剰消費や偽りへのTikTokの対応策:いまは何を買うべきでないかへ方向転換

DIGIDAY

TikTokのコンテンツクリエイターや一般消費者はこれまで何年ものあいだ、何を買うべきかを伝えてきた。だが、昨今は、何を買うべきでないかを語るように方向転換し、これを「デ・インフルエンシング(de-influencing)」と呼ぶようになった。

#deinfluencing というハッシュタグは2,140万回再生され、この1週間でさらにその人気が高まっている。

美容関連の商品は立て続けにローンチされ、この業界はいまだかつてないほど賑わっており、無駄も多い。そしてインフルエンサーやメイクアップアーティスト、美容エディターは膨大な物量に圧倒されている。このような文化的背景を、「デインフルエンシング」は映し出しているのだ。

それでも、コンテンツ制作のペースの速さと、クリエイターへの要求の高さは、彼らのプレッシャーとなっている。ハウスラボラトリーズ(Haus Laboratories)の新しいファンデーションやフェンティ(Fenty)の最新のリップステインをまだ試していないクリエイターは自分だけ。このような状況に陥らないよう、話題のブランドが何かをローンチするたびに、自分も何か発言せねばならないという圧力を感じているのだ。

それでも、なんとか折り合いをつけなくてはならないようだ。インフルエンサーは製品を試すたびに、その驚異的な素晴らしさにいつも驚いて息をのむことはできない。すべての製品が、すべての肌色や肌質、すべての人に効くわけではないのだから。そしておそらくもっとも重要なのは、消費者側もTikTokで話題になったすべての新製品を購入する経済的余裕があるわけでも、プレッシャーを感じたいわけでもないということだ。

デインフルエンシングを説明するもう一つの要因は、TikTokでの流行のサイクルの早さだと、Z世代のコンサルティングエージェンシー「PRZM」の設立者であるラリー・ミルスタイン氏は語る。「とても早いため、クリエイターはおすすめ情報や専門知識を提供する新しい方法、あるいはクリエイティブな方法を模索している。すでに『私のお気に入りの〇〇』のような伝え方はバリエーションが非常に豊富なため、クリエイターはこれとは逆のアプローチで、避けるべきものについて言及するようになった」。

ニューヨークを拠点とするメイクアップアーティストであり、TikTok で205,000人のフォロワーを持つコンテンツクリエイター、ダラ・レヴィタン氏は、購入したり贈られた製品をレビューする「メイクアップ・マンデー」というシリーズを公開している。

同氏は9月に投稿した動画の冒頭で、アプリから受けるプレッシャーに屈しないようにと「注意事項」を述べており、ある意味では批評コンテンツのトレンドに早くから対応していたといえる。「絶えず発売される新製品に追いつくため、お金を使って分不相応な暮らしをしなくてはというプレッシャーを、私を含む誰からも感じないでほしい。自分にとって効果のある素晴らしい製品があるならば、それを使い続けて」と同氏。この動画にはコメントが550件寄せられ、その多くは同氏の冒頭での注意喚起を称賛するものだった。例えば、ある人は「すぐにフォローしたのは、冒頭での発言があったから」というコメントを書き込んでいる。

レヴィタン氏は最近「二度と買わないメイクアップ」という動画を投稿し、ここではピクシー(Pixi)のスティック型チークを取り上げた。色は素晴らしいがベタベタしていて、髪の毛が頬にくっついてしまうのだという。

製品を称賛するだけのインフルエンサーは、すぐに信頼を失う可能性がある。インフルエンサーによる推薦や広告の信憑性や、フィルターを使用しているか否かというのは、よく議論が沸騰するテーマだ。

TikTokで @basicofcourse というユーザー名で知られるコンテンツクリエイターのエル・グレイ氏(フォロワー数8,000人)は、インフルエンサーが薦める製品に対する消費者の支出や購買力(あるいはその低下)は、経済の影響を受けると指摘する。「過去12か月間で、私たちは世界経済が大幅に減速するのを目の当たりにしてきた。景気が後退するにつれ、人々はその影響を感じ始め、支出や消費を吟味するようになった」と同氏はGlossyに語る。「多くの人々は、特に自身の銀行口座の残額を詳しく把握するにつれ、マイクロトレンドやマストハブ(買うべきな)アイテムの、絶え間ない集中砲火にうんざりするようになった」。グレイ氏は今週だけでも数々のデインフルエンシング動画や、この傾向が意識の高い消費全体とどのような関係があるかを語った動画を投稿している。先日は、シャーロット・ティルブリー(Charlotte Tilbury)のメイクアップ、オンランニング(On Running)のスニーカー、スタンレー(Stanley)のカップ、そして「アリックス・アール氏のようになるための新しいメイクアップ」といった話題のアイテム(多くはTikTokでクチコミが広まったもの)を動画で取り上げ、これらのアイテムは不要だとフォロワーに伝えた。

ブランドとしてはデインフルエンシングを、正直なフィードバックを得る機会として活用できる。製品を気に入っていると言うクリエイターが、実はパッケージにしか魅了されていないといった動画を、レヴィタン氏は数多く見てきたという。これに対してブランド側がコメントして応答することもあれば、パッケージや配合を変えて再度発売することもあるのだとか。

「ブランドが守りに入ったリアクションでなく、コミュニティに対してオープンで正直なりリアクションを返すことで、効果的なコミュニティエンゲージメントにつなげる機会になり得る」とミルステイン氏。「何が足りなかったのか? フィードバックでの対応や、今後改善点について告知する上で、何か方法はあるだろうか? オーディエンスはTikTokで動画を見ているだけでなく、コメントも読んでいる。したがって、建設的な批判への対処方法について、計画を立てておくことが重要だ」。

マディ・ウェルズ氏(フォロワー数300,000人)も、デインフルエンシングが知られるようになる以前から始めていた。同氏は美容の小売業で働きながらコンテンツを制作し、よく返品されることに気付いたアイテムについてコメントするシリーズを開始した。最近ではマリオバデスク(Mario Badescu)のクリーム、E.l.f.のプライマー、アーバンディケイ(Urban Decay)のファンデーションを取り上げている。動画へのコメント欄は、これらの製品について議論をたたかわせる人、あるいは擁護しようと割って入る人などで盛り上がっている。

「誰かがその製品を良いと言っただけで、それを見た人たちが熱狂的に買い求める様子を見ていた」と語る同氏は、オーディエンスは自身の肌質を考慮していないことが多いと指摘する。「そして、製品が合わなかったり、インフルエンサーにお金を払って薦めてもらったマーケティング戦術が優れていただけだったと分かると、彼らはがっかりするのだ」。

ウェルズ氏はデインフルエンシングの流行によって、製品がすべての人に平等に役立つわけではないという事実を、顧客とインフルエンサーが受け入れる機会になり得ると考えている。「肌の質や抱えている悩み、年齢を重ねた肌、シミ、シェードの色展開、敏感肌……。製品がどのような人に適しているのか、ブランドやインフルエンサーが考え始めるきっかけになればと願っている」と同氏。「このトレンドによって、ニッチな層に支持されるマイクロインフルエンサーが輝ける可能性がある」。

昨今TikTokでは、インフルエンサーマーケティング自体のコンテンツと同じくらいに、インフルエンサーマーケティングに関するコンテンツが数多く存在する。美容業界やマーケティング業界とは何の関係もない人々でも、これらの業界に精通しているのは明らかだ。「インフルエンサーの意見にブランドがお金を払っているという事実に、人々が気付き始めている。彼らが望んでいるのは、誠実で信頼できるレビューだ」とウェルズ氏は語る。

インフルエンサーマーケティングハブ(Influencer Marketing Hub)によると、2022年のインフルエンサーマーケティング業界には160億ドル(約2兆800億円)以上の価値があり、今後も成長し続ける見通しだという。「Z世代がTikTokを検索エンジンとしてますます活用するにつれ、何を避けるべきかを知ることは、何を買うべきかを調べるのと同等に重要になることがある。将来的に潜在的なペイドコンテンツとどのように集約されていくのか、興味深い」とミルステイン氏は話す。

デインフルエンシングによって、ブランドは衝動買いによって得られる収入がいくらか失うかもしれない。だが、建設的な批判に耳を傾けるブランドは「より強固な信頼関係を築き、カスタマーリテンション(顧客維持)が向上する」と同氏は述べる。

[原文:Glossy Pop Newsletter: De-influencing is TikTok’s response to overconsumption and inauthenticity

SARA SPRUCH-FEINER(翻訳:田崎亮子/編集:山岸祐加子)

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