2年以上前にパンデミックが始まって以来、eコマースの世界はある種のむち打ちに苦しんでいる。
消費者が家に閉じこもってオンラインでのショッピングを増加させたため、eコマース分野は急成長した。しかし、人々が再び店で買い物をしても安全だと感じるようになると、翌年にはオンラインでの買い物に急ブレーキをかけた。現在、この分野に参加しているエージェンシーのいくつかは同じ現象に注意しながら業務を再開するなかで、一部の独立系企業はより広範なコマースメディア分野に進出するチャンスを掴んでいる。
エージェンシーメディアやクリエイティブ、ソーシャル、コンサルティング、デジタル開発を手掛けるコートアベニュー(CourtAvenue)は、2020年初めの設立以来水面下でeコマース部門を密かに立ち上げ運営していた。一方、新たに生まれ変わった、シンシナティを拠点とするアイコン・コマース(Icon Commerce:旧アイコンマーケティング・アンド・コミュニケーションズ:Icon Marketing & Communications)は、地元に拠点を置く3つのスタートアップ企業と協力して、Amazonやショッピファイ(Shopify)との関係を利用することで、eコマースや小売メディア事業を成長させようとしている。これによって自社のみでは持っていない幅広いアクセスを得ることができるわけだ。
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(偶然にも、コートアベニューのサービス部門のゼネラルパートナー兼CEOであるマイケル・スティッチ氏と、アイコン・コマースの最高体験責任者であるジェイソン・ベンダー氏は、2011年にWPPに売却されたデジタルエージェンシーのロックフィッシュ[Rockfish]で一緒に働いていた)。
動画がeコマースにおけるコンテンツに拍車をかける
コートアベニューにとって、コマースメディアで成功する秘訣は、コンテンツと消費者調査の強化にある。イーライリリー(Eli Lilly)、バイエル(Bayer)、ファイザー(Pfizer)が支援するペット医薬品企業イランコ(Elanco)や、エプソン(Epson)などに起用される同社だが、スティッチ氏とコマース戦略責任者のバーク・ケリー氏は、とくに企業間(B2B)マーケティングにおいて、技術の発展のおかげで現在それらのクライントに提供しているサービスが可能になったと述べている。
スティッチ氏は、「このような未来の(技術)に賭けている。これまで高価で難しかったことを実行するために、費用対効果が高く、自動化できる方法を見つけようとしている」と述べた。「ほとんどの分野でEコマース料金の上昇が続くという流れが見えている。我々のこの能力は計り知れない価値があると私は考えている。そしてそれは、私たち自身のメディア・ミックスという観点から、どのようなマーケティングをするか、についてポジティブな意味を持っている」。
スティッチ氏によると、消費者は短くて気軽に消費できるコンテンツ、とくに動画を常に渇望しており、それがeコマースにおけるコンテンツへの同社の動きに拍車をかけているという。「誰もがこれまでに経験したことのないほど、注意力が短くなっている。ティックトック(TikTok)の影響だ。(すべてのプラットフォーム)が動画を増やしたり、アニメーションを追加したりするための大幅な刷新が行っている」。
イランコでeコマースの成長とイノベーションのグローバル・デジタルマーケティング担当シニアディレクターを務めるローラ・ガスタフソン氏は、コートアベニューのコンテンツ集約型アプローチには一定の可能性があると述べる。
「以前ならこの業界では、単にブランドのクリエイティブを使って、それを切り取り、デジタル掲載先用にスペックを対応し、それをただ配置して、完了、とするだけだった」とグスタフソン氏はいう。「今回、コートアベニューはSEOの最適化だけでなく、アルゴリズムに基づいた、小売店のラストワンマイルのためのカスタマイズと、動的な深き分析テストと学習を行っている。このアプローチは、我々が持つデジタル・メディア群におけるコンテンツの進化に非常に役立っている」。
しかし、同社はまた、コンテンツに飛び込む前に多くの宿題を(主に消費者調査の形で)している、とケリー氏は付け加えた。彼らが構築しているものが確実に、実際にクライアントの顧客にとって魅力的なものにするためだ。
「私たちは顧客のところに行き、どんなものが必要かを尋ねる。それがどのようなものかを指示するのではなく。そこで私たちは、何を作るかという点で、顧客調査をコマース実践の中心に据えた」とケリー氏は説明した。「そして、これらの学習のいくつかを抽出し、それらを統合して、ほかのB2Bクライアントの計画に使用することで「視覚化の方法を確実に増やしていく必要がある」と促している。
地元企業のデジタル化を支援し、ファネル全体で消費者とつながる
一方、ブランド名を変更したばかりのアイコンコマースは、過去三年間で約750万ドル(約10億2298万円)を投じて、コマースメディア事業を業界水準まで高めるための技術、人員、そのほかのニーズを構築してきた、とCEOで創設者のショーン・マードック氏は述べた。その一環として、ブランディ・アレクサンダー=ウィンバリー氏が経営するスペースショップ(SpaceShop)を買収した(アレクサンダー=ウィンバリー氏は現在はアイコンコマースの戦略シニアディレクターに就いている)。
「コマースやマーケティング、テクノロジーが急速に進歩するのと同じように、エージェンシーもスピードを速く保ち、次の新しいものに挑戦して常に先を行こうとする必要がある。それをしないエージェンシーは死んでしまう」とマードック氏。「この方向に進むために、非常に意図的で大きな投資を行った」。
そして今、アイコンコマースは地元シンシナティの3つの地元企業が、成長のためにAmazonとショッピファイを活用するのを支援するビジネスインキュベーターを開始した。この支援を行うことで、同社がほかのクライアントを引き付けるのに役立つと考えられる。地元で生産される醤油の会社であるシンソイ(CinSoy)、3Dプリント技術を用いたアクセサリーを製造するメトロモント(Metromont)、そして黒人経営のろうそく製造業者であるディストリクト78(District 78)がその3社だ。
「Amazon広告クリエイティブ・サービシス・マーケットプレイス(Amazon Ads Creative Services Marketplace)のメンバーシップを通じて、我々は新しいデータにアクセスすることができている。それを活用して、新しいツールを開発しており、それはAmazonセリングパートナー・アプリストア(Amazon Selling Partner Appstore)で利用できるようになるだろう」とアレクサンダー=ウィンバリーは述べた。「現在開発中のこのツールを使って、これらのマイクロブランドがAmazonストアで、クリエイティブと広告ターゲティングを立ち上げるのを支援している」。
「売上のノルマを達成していたとしても、長期的にブランドにとってよくない場合はどうすればいいのか」とベンダー氏は付け加えた。「取引の完了とブランドの構築を同時に考える必要がある」。つまり、ファネル全体を常に考慮する必要がある。
アイコンコマースのクライアントたちは、ほかの方法では得られなかったこのアクセスを歓迎しているようだ。シンソイ・フーズ(CinSoy Foods)のCEOで創業者のサム・ペレリート氏は、「Amazonを自分たちでやろうとしたときは、非常に混乱した」と語っている。「合理化されたオンボーディング・プロセス(初めての業務のやり方を教えるプロセス)がなければ、必要なすべての要素を理解できなかった。以前は半年間Amazonに在庫があり、ほとんど何も販売していなかった。現在、インキュベーターのフェーズ2にあり、すでに完売している」。
Michael Bürgi(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)