英インデペンデント、広告収入が占める割合を抑え 収益多角化 に成功。ただし利益は65%減少

DIGIDAY

イギリスを拠点とするデジタルニュース媒体、インデペンデント(The Independent)は、過去数年間多くのメディア企業が追い求めてきた目標を達成した。それは、全体の収益における広告収入の割合が半分以下になるまで収益源を多角化することだ。

インデペンデントは6月中旬、2022年度(9月30日締め)の決算を発表したばかりだ。それによると、全年間収益において、同社の非広告収入は広告収入を57:43で上回った。これは2021年度に広告が全体の収益の60%を占めていたことからも大きな転換点である。昨年の9月末からほぼ9カ月間が経った今、同社の会長ジョン・パトン氏は、同社が広告収入に対する依存度を縮小し続けており、2023年も50%を下回る状態を維持するだろうと語った。

インデペンデントは、新製品、各部門、各リージョンへの大規模な投資を行うと同時に、2022年末からイギリスで52の役職を余剰人員とし、最終的にはその約3分の2を解雇した。これは同社スタッフの約10%の解雇だったと、ブルームバーグの記事が報じている。広報担当者は、そのリストラで具体的にどのくらいの役職が削減されたのかを明らかにしなかったが、当初余剰と指定された仕事の約3分の1が救われたとだけ述べている。しかし、これは同社が広告市場から撤退しようとした結果ではない。むしろ、インデペンデントは、米国への投資を今まで以上に強化している。

「私たちは、次の4年間で1億ポンド(約180億円)収益の企業になると自認しており、それを達成する計画を持っている」とパトン氏は米DIGIDAYに語った。

ポイントとなる数字

  • インデペンデントの2022年度の収益は4630万ポンド(発表時の為替レートで約5940万ドル、約80億円)で、2021年から12%増加した。
  • これは、同社が2016年にデジタル専業に移行して以来、6年連続の利益成長を記録したことを意味する。
  • 広告収入は現在、インデペンデントの年間総収益の半分以下(43%)を占めており、これは2021年の60%から大きく減少した。
  • 同社の利益は、2021年の710万ドル(約550万ポンド、約10億円)から2022年の240万ドル(約190万ポンド、約3億5000万円)に65%減少した。
  • ライセンスとシンジケーションの収益は年間比で17%増加し、同社の総収益の約3分の1を占めた。
  • 一方、読者収入は同社の総収益の約5%だった。

広告の未来

これらは全て、収益源をより意図的に多角化するという3ヵ年計画の結果だが、広告収入はまだ同社の総収益の最大部分(43%)を占めているとパトン氏は述べた。ライセンスとシンジケーションがそれに続き、同社の総収益の約3分の1がそこから得られていると彼は付け加えた。

「多角化しないことの代償は、バズフィードニュース(BuzzFeed News)やバイス(Vice)が体験してきた。そして、イベントのような単一事業に頼るだけではダメだ。本当に人々が対価を支払うような製品を作る必要がある」とパトン氏は語った。

パトン氏は、今後も同社の総収益の半分以下を広告収入が占め続ける計画であると語りつつ、同社は広告の販売から逃げるつもりはない、特に米国ではなおさらだと語った。実際、彼は広告収入の増加を予期しており、最終的には米国で得られる総収益をイギリスで得られる総収益と同等にすることを期待しているという。今年、同社の収益の37%(約2200万ドル、約32億円)がイギリス外から得られ、残りの3740万ドル(約54億円)はイギリスから得られた。

「米国は世界最大の広告市場だ。そのため、私たちは米国への大きな投資を始めた」とパトン氏は語った。「イギリス市場における私たちの広告事業が成熟し、成長が鈍くなることを予期しなければならない。広告は米国で大きく成長し続けるだろう(中略)しかし、私はまた、私たちがそれに過度に依存しないようにしたいと思っている」。

現在の経済状況下でメディア企業のリーダーが広告収入の大幅な成長を予期する発言は驚くほど楽観的に聞こえるかもしれないが、FTIコンサルティング(FTI Consulting)のテレコム、メディア&テクノロジー産業グループのシニア・マネージングディレクターであるジャスティン・アイゼンバンド氏は、米国のデジタル広告市場が「イギリスのそれよりも少し逆境に強い」と述べた。

パトン氏が最も強気な広告部門は、同社のインデペンデントTV(Independent TV)ブランド内のビデオ広告、同社のカスタムコンテンツとブランデッド・コンテンツの制作スタジオであるインデペンデント・イグナイト(Independent Ignite)、そしてPMPとプログラマティックギャランティードの両方で行われるダイレクトプログラマティック取引だ。

オープンプログラマティックマーケットについても、同社は撤退するつもりはない。しかし、CPMが底値へとどんどんと低下する価格競争と、ブランドセーフティに対する懸念が理由でしばしば広告主がニュース・コンテンツのブロックを促すことが、多くのニュースメディア企業にとってオープンプログラマティックを難しいものにすると同氏は予想している。

戦略的投資

「私たちは利益を減らすことを恐れていない。黒字、というのは常に重要だが、2022年には2021年から65%もの利益を減らして収益(多角化)への投資を行った」とパトン氏は述べた。

投資は、グローバル展開、テレビ、読者からの収益、コマース、の4つの異なる領域の拡大に使われた。

インディペンデントは、米国の編集スタッフを50%増やし、総編集人数を45人にした。また、インディペンデントTV向けの長編ドキュメンタリー制作を開始し、2022年にはこの部門が会社の総収入の10%を担った。2022年には登録読者数が500万人に増え、サブスクリプションへの加入意欲が高い人々との繋がりを形成した。

「優れたジャーナリズム製品を持つためには、エディトリアルに、特に人材に大いに投資する必要がある。ウクライナで何が起きているかを理解したいなら、ウクライナにスタッフを常駐させる。これには本当にお金がかかるが、第二次世界大戦以来のヨーロッパで最大の戦争だ。信頼できるニュースソースであるためには、そうする必要がある」。

AIはジャーナリズムへのさらなる投資を可能にする

パトン氏によれば、インディペンデントの過去のジャーナリズム・コンテンツからファクト、トレンド、タイムラインを抽出する支援をするAI言語モデルの構築が、最高技術責任者のクリス・コーダロイ氏のチームで行われているという。パトン氏は、将来的には、ジャーナリストが記事執筆のプロセスで思いつきにくい観点やアングルを生成的AIツールが生み出すのに使えるようになることを望んでいる。

「私たちが信頼を得る唯一の方法は、最高のジャーナリズムを持つことだ。私たちはこの3年間で編集費を2倍にした。私たちは今、編集のための予算がほぼ2倍、ジャーナリストもほぼ2倍になっている」とパトン氏は語った。そして、AIを使ってジャーナリストが自由に使える時間を増やすことで、最終的に彼らがオリジナルのジャーナリズムにさらに多くの時間を投資することができるようになるのが目標だという。

そして、そのジャーナリストへの信頼が、インディペンデントがグローバルな読者収益を増やし、会社内での調査ジャーナリズムの基盤を作るための方法だという。パトン氏が以前創設会長を務めていたガーディアン(Guardian)の慈善部門、TheGuardian.orgと同様に、同社が近い将来(具体的なタイムラインは明かしていない)に、フォード財団などの組織を通じて寄付金を受け入れ始めるという考えも述べた。

[原文: Less than half of The Independent’s revenue came from advertising in 2022

Kayleigh Barber(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)

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