スマートテレビ メーカー間でTV画面の奪い合いが勃発:「自社ブランドのTVがイノベーションの速度を上げる」

DIGIDAY

ストリーミング企業のRoku(ロク)が、独自のスマートTV製造に着手すると発表したが、この決断は、CTVハードウェア市場で現在起きている2つのシフトを反映している。

ひとつは、TVをストリーミングサービスにつなげる手段として、スマートTVがCTVデバイス(ドングルやスティック、パックなど)を採用していること、そしてもうひとつは、TVメーカーがCTVプラットフォーム市場全体で力をつけていることだ。

「Rokuはおそらく、『TVを生産した方がいい。少なくともリスクが回避できるし、今後競争がどのように変わっても、自分たちを守ることができるだろうから』と考えているのではないか」。そう話すのは投資銀行マッコーリー(Macquarie)のシニアメディアITアナリスト、ティム・ノレン氏だ。

米国では圧倒的な存在感だが

Rokuは、米国のCTV市場を席巻する勢いでマーケットシェアを獲得している。マーケットリサーチ・コンサルティング企業のパークス・アソシエイツ(Parks Associates)によると、2022年第3四半期、米国で設置されたCTVデバイスの40%がRokuのデバイスだという。さらに動画測定分析会社コンビバ(Conviva)の調査では、2022年第2四半期、デバイスの種類にかかわらず(TV、スマートフォン、コンピュータなど)、北米の人々がストリーミングビデオに費やした時間の33%がRokuのプラットフォームを使ったTVであり、その数字はAmazonのFire TVやサムスン(Samsung)のスマートTV、AppleのiOSなど、ほかのどのプラットフォームよりも多い。

しかしながら、米国以外の国ではそれほど優位ではなく、コンビバの報告では、アフリカ、アジア、欧州、ラテンアメリカ、オセアニアで、視聴時間によるデバイス上位5位の壁をこじ開けられていない。

Rokuは2023年1月5日、アクティブアカウントが7000万件に達したと発表しているが(2022年第3四半期末で6540万アカウント)、コンサルティング会社TVRevの共同創業者でリードアナリストのアラン・ウォルク氏は「Rokuの事業は、依然としてほぼ米国国内にとどまっている。国外ではそれほど成功していない」と話す。

スマートTVはCTVハードウェアより人気

はっきりさせておくと、今のところRokuは、独自のスマートTVを米国で販売する計画を発表しただけだ。そのため、スマートTVハードウェア事業への参入が必ずしもすぐ同社の海外戦略に役立つとは限らない。とはいえ、米国内の事業を守るのには役立つのではないか。

スマートTV全般の人気は、すでにCTVデバイスを上回り、コンビバによると、2022年第2四半期の視聴時間は、ストリーミング動画が35.3%で、CTVデバイスは34.6%だったという。そのスマートTVの成功を受けて、CTVデバイスメーカー各社がインターネット接続テレビ自社生産の動きを加速したようだ。たとえば2021年9月には、AmazonがスマートTVの独自ラインを発表している。

その後、同年10月にはコムキャスト(Comcast)がその動きに追従、同業の有料TVプロバイダーのチャーター(Charter)とジョイントベンチャー、ズーモー(Xumo)を創設し、2023年にはスマートTVを量産する計画を立てている。

スマートTV市場には続々と企業が参入しているだけではない。その顔触れも変化があり、TVスクリーンとそれを支えるCTVプラットフォームの両方を所有している企業が増えている。その結果、今後の米国CTV市場の状況は、米国ではそれほどシェアを占めていないサムスンやLGなどのスマートTVメーカーが活躍する国際市場の状況に近づいていくかもしれない。

米国とそれ以外の地域の違い

CTVプラットフォームグローバル市場の状況が米国とは違う証拠として、まずはS&Pグローバル・マーケット・インテリジェンス(S&P Global Market Intelligence)のメディアリサーチグループ、ケイガン(Kagan)が米国市場の内訳を記したグラフを見てみよう。


グローバル市場の内訳はこちら。

図を見るとわかるように、CTVプラットフォームのグローバル市場の状況は、米国とは明らかに違いがあり、スマートTVメーカーのサムスンやLGは米国市場よりも国際市場でマーケットシェアが高い。その米国で市場を制しているのはRokuとAmazonで、主に独自のCTVデバイスの販売と、サードパーティのTVメーカーに対する自社CTVプラットフォームのライセンス供与を展開している。

「LGとサムスンはグローバルブランドで、世界各地の市場をほぼ席巻している。世界中で両社が展開していない国はまずない」とTVRevのウォルク氏は話す。

Rokuが独自のスマートTVを販売するのは、同社のCTVプラットフォームを守り、スマートTVメーカーのCTVプラットフォームから締め出されないようにするための動きかもしれない。また、CTV広告事業を促進し、激しさを増すスマートTVの競争から事業を守る取組みの一環である可能性もある。

自社ブランドのTVがあるという強み

独自ブランドのスマートTVハードウェアを所有することは、TV用CTVプラットフォームを単に提供するよりもメリットが大きい。Roku米国ブランド営業責任者クリスティーナ・シェパード氏が業界情報メディアのアドエクスチェンジャー(AdExchanger)に話したところによると、まず、独自のスマートTVを所有しているときのほうが、ほかの企業が製造したスマートTVにプラットフォームを提供しているときよりも、Rokuは自社プラットフォームの自社広告出稿を自由に操作できるようになるという。

また、自社のスマートTVなら、視聴者が見ているデータをより多く収集できる可能性もある。これは、従来のTVセットトップボックス(STB)から流れるプログラムなのか、それとも、独自のCTVデバイス経由でアクセスできるものなのかによってデータの収集に違いが生じるということだ。さらに、その増加したデータは、自社プラットフォーム上の広告を売るときに役立つだろう。

ケイガンのシニアリサーチアナリスト、セス・シェイファー氏は、「広告主と仕事をしているとき、『ドングルまみれの世界にあって、成功に必要なダイレクトデータがいつも手元にあるとは限らない』という共通認識を広告主に与えられることは有益だ」と話す。

さらにRokuなら、AmazonやGoogleのようなライセンス取引を模索する競合企業に負けないために、独自のスマートTVを利用すれば、サードパーティTVメーカーにライセンスを供与したプラットフォームの開発状況を知らせることができるだろう。

「Rokuには自社ブランドのTVがあるので、イノベーションのスピードが劇的に上がるだろう。Rokuがさらに魅了的な機能を開発し、その機能を本格的なRokuTV(プラットフォームライセンス)プログラムで利用できるようなるための実証実験の場が、自社ブランドのTVなのだ。つまり、RokuTVはTVライセンスプログラムを補完する役割も担っている。その結果、ライセンス契約企業に対してより早く新しい技術を提供できるようになる」。

米国外での認知の低さこそがチャンス

とはいえ、大きな戦いに発展しそうな「ビッグスクリーンバトル」の主戦場は、世界各地だ。米国以外の市場ではすでにLGとサムスンという二強が存在し、RokuがCTVプラットフォームの競合相手と考えるAmazonとGoogleは、海外進出を始めている。一方のRokuはといえば、北米と欧州の一部がビジネスの中心だ。

TVRevのウォルク氏は「AmazonとGoogleは、欧州のさまざまなTVメーカー企業と取引があり、そうした地域ではすでにFire TVやAndroid TVが導入されており、新しいスマートTVの製造準備は整っている」と話す。

Googleは事業を米国国外にも広げ、すでにCTVプラットフォーム市場のシェアをかなり握っているようだ。「数カ月前、シンガポールとオーストラリアを視察したが、顧客から直接話を聞いて、現地の市場は事実上Android TVが席巻していることがわかった」と投資銀行マッコーリーのノレン氏は話す。1月第1週のGoogleの発表によると、同社の2つのCTVプラットフォーム、Android TVとGoogle TVは(そう、どういうわけか、Googleには2種類のCTVプラットフォームがある)、両方あわせて月間アクティブベースが1億5000万台だという。

要するに、Rokuは後れを取り戻さなければならない。「Rokuの米国以外のブランド認知は低く、実際のところ、市場での存在感は低いと思う」とノレン氏。「それはおそらく、最大のビジネスチャンスがそこにあることを意味している。ただ、取り残されている感が歪めない。その一方、いろいろな意味で、米国国内の変化をもたらしたのはRokuである」。

[原文:Future of TV Briefing: Smart TV makers seek to steal the screen

Tim Peterson(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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