事業停止したバイクの元CEOが語る、米国における高速宅配の将来:「小売業者は配達サイクル全体をコントロールしたがっている」

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ロシアがウクライナに侵攻してから2週間後、食品の高速宅配アプリのバイク(Buyk)が破産申請した。スラバ・ボカロフ氏とロディロン・シスコフ氏によって2021年に設立されたバイクは、顧客に15分での配達を提供するという約束で、ニューヨークとシカゴで操業を開始した。

しかし、同社の規模拡大と成長への野望は、CEOのジェイムズ・ウォーカー氏が「不可抗力による異例の状況」と表現した事態によって、終了を余儀なくされた。ロシアがウクライナに侵攻したことによる経済的低迷から、同社の資金調達は3月に突然中止された。バイクはロシアの宅配サービスであるサモカット(Samokat)の米国子会社だった。

同社は10月3日、物的資産、技術、知的財産を清算するための入札者を探していると発表した。プレスリリースによると、冷凍庫やオフィス用備品など、倉庫3棟分の設備を清算しようとしている。

昨年、バイク、ゴリラズ(Gorillas)、ジョーカー(Jokr)、フリッジノーモア(Fridge No More)など食料品を15分以内で顧客に配達する企業は、食料品部門でもっとも手厚い資金調達を受ける新興企業になった。しかし、厳しいマクロ経済環境のため、これらの企業のなかには、野心を縮小するか、完全に廃業する羽目になったところも出てきた。フリッジノーモアは今年操業を停止し、ジョーカーは米国での事業を縮小し、ラテンアメリカに集中することを決定した。

米モダンリテールとの対談において、ウォーカー氏はバイクを倒産に導いた要因、清算プロセスの最終段階、この経験から得られた重要な教訓、および今後数年間に超短時間宅配の将来がどのようなものになるかについて語った。

バイクの清算プロセスの舞台裏について教えてほしい。また、同社が資産をいま売ろうとしている理由は何か?

バイクの内情については、創設者の経歴、米国内のチームの資質、ソフトウェアの品質などから、多くの関心が寄せられていた。合併や買収など、さまざまな形で興味を持たれていた。問題点は結局のところ、ウクライナ侵攻によって、資金繰りが即座に極めて厳しくなったということだ。何カ月もの猶予がなく、文字どおり数日でパートナーを見つける必要があった。そして正直なところ、投資家の一部がロシア人で、創設者がロシア人の企業にとって、何が許可されるのかという部分で、当時は混乱と懸念があった。

我々は、バイクのソフトウェアと会社を獲得し、オンラインとオフライン両方を含め幅広い商品を扱っている大手小売業者の配送手段としてバイクを利用することに興味を抱いている大規模組織と話をした。しかし、当社が十分な資金調達を受けている状態から一夜にして資金を失ったことから、その企業の多くは、時間の猶予が非常に短いことに強い懸念を抱いていた。したがって、最終的に会社を蘇生させることができず、今回の清算に至ったのは、時間の猶予が数週間ではなく数日しかなかったことと、ロシア制裁が意味するものについて、一般的な混乱があったことも事実だと私は考えている。

現在我々の手元に残っているのは、クラスで最高の宅配エコシステムソフトウェアと多数の高品質の食料品貯蔵機器、つまり冷蔵庫、冷凍庫、貯蔵棚だ。バイクは創設からわずか数カ月だったが、我々のソフトウェアは非常に洗練されたもので、堅牢で、単なる消費者向けアプリをはるかに超えたものだ。このソフトウェアは本当に、在庫管理、サプライチェーン、ドライバー管理、顧客の獲得まで、配送エコシステムのすべてを管理することができていた。バイクとそのソフトウェアについて私が気に入っていた点のひとつは、さまざまな配達距離と各種の配達時間に柔軟に対応できることだ。

このすべての経験から得られた最大の教訓は何か?

ウクライナの状況と、それに対応する状況は予測不可能だった。私から新興企業へのアドバイスは、ビジネスや財務の観点から、資金調達が中断しても耐えられる立場を常に維持することだ。私からのアドバイスは以上だ。

小売業者の観点からは、サービスの指標にかかわらず、10分宅配サービスでも、配達するのが食料品でも、耐久消費財でも、カスタマーエクスペリエンスを常に重視することだ。カスタマーエクスペリエンスが最高であることを常に確認してほしい。

これらの資産を誰が購入することを期待しているか?

テクノロジーの買い手は、コンビニエンス分野において、競合他社を追い抜いて、簡単にいえばより速く発展する方法を探し求めているテック新興企業だろう。また、私は従来型の食料品店や従来型のさまざまな商品を扱う小売業者など、おそらくすでにソフトウェアを保有している大手企業も考えている。このような企業は、当社のソフトウェアから、すでに保有しているソフトウェアを拡張する部分を見いだすことができるだろう。

これは街角のコンビニエンスストアから、レストランチェーン、コンビニエンスストア、食料品店、ガソリンスタンドまで多岐にわたる。今日のサプライチェーンは、かつてないほどに難しくなっている。レストラン、食料品店、小売業で、物を買うことができなくなっている。そこで、落ち度はないのに、政治的な事情によって、真新しい冷蔵庫や冷凍庫の資産が売りに出されている。

結局のところ、私にとってこれは良い機会だ。この清算は食料品店や外食産業の人々にとって非常に魅力的なものになるはずだ。

今後数年間に、この業界は米国でどのように成長していくと考えるか?

私は依然として楽観的で、この分野はさらに成熟していくと考えている。基本的に、現在の従来型の小売業者の一部は、オンラインとオフラインのどちらも、自社の配達をさらにコントロールすることを求めるようになるだろう。

問題なのは、米国がさらに多くの宅配サービスを求め、さらに多くの商品とサービスが自宅やオフィスに配達されることを求めるかどうかではない。私が問題だと思うのは、米国が宅配について許容できる時間はどの程度か、ということだ。10分とは思わない。では1時間だろうか。それともその日のうちだろうか。問いを投げかけるとすれば、それは米国における利便性への需要に関するものではない。利便性が米国で何を意味するかだと、私は考える。

どのような種類の企業が高速宅配の分野に参入すると予測するか

現在この分野に存在しているよりも多くの業者が、この分野への参入を希望していると、私は理解している。サービスがさらに特化していく、つまり特定の商品群に極めて特化したさまざまな商品を配達するサービスが生まれるだろう。より多くの耐久消費財の小売業者が、バイクのようなソフトウェアを利用して、自社の配達サイクルを管理するような耐久消費財の小売業者も増えてくるだろう。

ハイエンドの小売業者は、「我々は、配達サイクルの全体を確実にコントロールする必要がある。単にサードパーティーに委託するわけにはいかない」と言ってくるだろう。そこで、サードパーティー企業が増え、その多くは、独自性と品揃えを売りにした提案をするようになるだろう。また、多くの従来型小売業者が、バイクのようなソフトウェアを利用して、宅配と在庫管理のサイクル全体を、顧客との最初の接触から、玄関への配送まで、直接扱えるようにしたいと考えるようになるだろう。

[原文:‘Retailers want more control’: Buyk’s former CEO on the future of rapid delivery in the U.S.]

VIDHI CHOUDHARY(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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