消費者が新しい嗜好を見つけ、コンテンツや広告を消費する古い方法を捨てていくなかで、メディアの世界が劇的に変化してきたことはよく知られた事実だ。エージェンシーは、インフルエンサーやクリエイターの台頭、コネクテッドTVやストリーミングサービスの継続的な普及、リテールメディアネットワークの爆発的な拡大などの変化に適応するために、あらゆる手段を講じている。
こうした変化は、筆者が「ローファイ・リバンドリング」と呼ぶものをもたらした。これは、エージェンシーの世界において、メディア、クリエイティブ、データが、クライアントのために効果的なソリューションを見つけるため、最初の段階から協力する必要があることを、あらためて認識させた。
5年前にWPPがエージェンシーを合併し、VMLY&Rやワンダーマン・トンプソン(Wunderman Thompson)のようなハイブリッド・ショップを作ったときと比べると、今回はそれがより有機的かつ分散的な方法で起こっている。このような統合は、収益性を高めるためのものであり、クライアントの利益は二次的なもののように思われた。しかしいまはクライアント・ファーストになっている。
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エージェンシーがよりよく統合されるべきか
「今、フルファネル、オムニチャネル、顧客中心主義についてあらゆるブランドが話している。そして、それを妨げる最大の要因のひとつは、互いに話をしない様々なパートナーがいて、単独で物事を構築し、相乗効果を測らないという事実だ」と、コンサルタント企業メディアセンス(MediaSense)の戦略担当マネージングパートナー、ライアン・カンギサー氏は述べる。
「リテールメディアについて考えるとき、そのコンテンツを作っているのは誰だろう? メディアエージェンシーなのか、クリエイティブエージェンシーなのか、ショッパーエージェンシーなのか、それとも社内のデザインスタジオなのか? これらがすべて統合されている体験にしたいのだ。我々は、チャネルではなく、消費者を中心にビジネスを再構成しようとするブランドを目の当たりにしてきた。それに伴い、エージェンシーがより良く統合されるようになるという期待もあると思う」。
おそらく、ローファイ・リバンドリングの最も良い例は、ワールドワイド・パートナーズ(Worldwide Partners)から生まれたものだろう。ワールドワイド・パートナーズは、メンバーシップではあるが、利益には関係しない独立系エージェンシーのネットワークだ。メディアエージェンシーのR&Rパートナーズ(R&R Partners)は、クリエイティブショップのオッディセウス・アームズ(Odysseus Arms)と組み、過去15カ月間にザ・ボディショップ(The Body Shop)、ファーマーズ・インシュランス(Farmers Insurance)のトグル(Toggle)、セルフ・フィナンシャル(SELF Financial)、ビル・ドットコム(BILL.com)などのクライアントを獲得して仕事をしてきた。
「結果で証明できなければ、いまのようなピッチはできない」と、オデュッセウス・アームズの共同設立者兼クリエイティブ・ディレクター、リビー・ブロックホフ氏は言い、クリエイティブショップが、こうしたインサイトをもたらすデータや技術ツールに投資することは困難だとも付け加える。「メディア戦略がうまくいかないと、消費者にも伝わるし、クライアントにも伝わると思う。だからこそチームワークが重要なのだ」。
重要性を増す簡素化・合理化
クライアントによっては、「ストーリーとデリバリーが一体となる必要性が必然的に生じる」と、ワールドワイド・パートナーズのCEO、ジョン・ハリス氏は話す。
「統合という発想が新しいとは思わないが、それが復活し、重要性を増していることは確かだ」とハリス氏は言う。「プランニングであれ、測定であれ、アトリビューションであれ、メディア環境が複雑化するにつれ、大規模なコンテンツ開発は非常に困難で、より複雑になっている。そして、クライアントは、それを簡素化・合理化して統合を実現することを強く求めている」。
しかし、リバンドリングは独立系エージェンシーレベルだけでなく、持株会社レベルでも行われており、それはローファイ以上のものとなる。6月のカンヌライオンズで電通が発表した最大のニュースは、Dentsu Creativeの設立だった。この会社は、電通のすべてのクリエイティブショップとデジタルショップの360i、データ集約型のアイソバー(Isobar)をまとめたものだ。デンツー・クリエイティブは、「社会を変え、新たな文化や未来を創造する」という理念のもとで活動しているが、これは大したことではない。
それはWPP内部でも起きている。WPPは、前述のエージェンシーの合併によって、リバンドリングについて世界中に考えさせた。具体的には、グループエム(GroupM)が所有するメディアコム(Mediacom)は、この4年間、戦略の派生物としてクリエイティブユニットを成長させてきたと、グローバル最高戦略責任者(CSO)でクリエイティブ・トランスフォーメーションおよび米国CSOを兼務するヌシュ・プラブー氏は説明する。
2018年に最高クリエイティブおよびコンテンツ責任者としてメディアコムに入社し、グローバルなミッションを担っているベンジャミン・ヴェンドラミン氏と密接に協力しながら、プラブー氏は2021年、メディアコム・クリエイティブ・システム(Mediacom Creative Systems)の展開に携わった。メディコムのクリエイティブ・トランスフォーメーション担当グローバルCEO、ステフ・カルクラフト氏が率いるこのユニットは、まもなくリブランディングを行うことになっており、統一したメッセージを世界に広めることを使命としている。ただし、1960年代にマーシャル・マクルーハンが発した「メディアはメッセージである」という主張とあまり変わりはない。
「人々にリーチするのが難しい、メディアが断片化しているという話題で持ちきりだ。しかし、実際のところ、人々はリーチしにくい存在ではなく、広告でリーチしにくいというだけだ」とプラブー氏は言う。
より大きなインサイトを売り込めるように
クリエイティブシステムを通じて、「メディアだけでなく、文化に関するより大きなストーリー、より大きなインサイトを売り込めるようになった」とプラブー氏は説明する。「また、アイデアも提供するようになった。その結果、我々のウィンレートに大きな違いが生まれた。以前は勝率30%だったのが、勝率80%以上になった。クライアントからは、『クリエイティブエージェンシーにはない発想で、総合的エージェンシーのような売り込み方をしている』と言われるようになった。そのときから、この大きな変化が起きていることを認識し始めた」。
ヴェンドラミン氏は、「メディアエージェンシーはインサイトを持ち、データを持っている。私はプラットフォームを理解し、ゲームをより理解し、Reddit(レディット)やインスタグラム(Instagram)のツールを理解する必要がある」と言い、ゼールズ(Zales)やジャレッド(Jared)といったジュエリーブランドやコカ・コーラ(Coca-Cola)との仕事を例に挙げた。「クリエイティブチームの核が変わったのだ」と、同氏は語った。
[原文:Media Buying Briefing: Rebundling takes on differing forms, driven by consumer and media changes]
Michael Bürgi(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:分島翔平)