マーティン・ソレル 氏が支援するVCのテクノロジースタートアップ探索法

DIGIDAY

サンジャ・パルタロ氏にとって、エージェンシーのために取引したり、投資の裏をかいたりするのはお手のものだ。パルタロ氏は2021年11月まで、WPPの戦略開発、パートナーシップ責任者として、サー・マーティン・ソレルと現CEOのマーク・リード氏の両氏と共に働き、2022年1月、自身のベンチャーキャピタル(VC)会社であるS4Sベンチャーズ(S4S Ventures)を立ち上げた。

創業からしばらくたったソレル氏のエージェンシー持株会社S4と少し似ているだろうか? パルタロ氏は間接的な関係を認めている。ソレル氏はスタンホープ・キャピタル(Stanhope Capital)のダニエル・ピント氏とともに、1億ドル(約143億円)を超えるVCの投資ファンドを構成する主要パートナー2人の一角を成す。パルタロ氏によれば、S4SはS4の傘下にあるわけではないが、S4の多くの幹部と連携しているという。ただし、提携先はS4だけではない。パルタロ氏はテクノロジープラットフォームやエージェンシー持株会社とも仕事をしたいと考えている。

パルタロ氏はWPP時代の提携先探しでアドテクやマーテクへの投資に慣れ親しんでおり、その経験を生かしてチャンスを探ってきた。名前こそ伏せているものの、最初の投資先として、応用人工知能とマーテクの分野で、1件の取引がすでにまとまり、さらに2件が成立間近だという。メディアの世界が徹底的に最適化された今、人工知能(AI)のような技術にアクセスしやすくなったことを考えると、次に来るのはコンテンツの世界だとパルタロ氏は考えている。

それでは、パルタロ氏とのインタビューをお届けしよう。なお、読みやすさを考慮し、内容に編集を加えている。

◆ ◆ ◆

――S4Sベンチャーズはどのようにして誕生したのか?

WPP時代はベンチャー投資を数多く手掛けた。一番好きな仕事だった(中略)私たちの業界ではどのような破壊的変化が起きるのだろうかと、未来について考える立場にあった。小さな企業の方がエネルギーと活気に満ちている傾向があった。私たちと異なる世界で生まれた企業は、この世界の古い考え方にとらわれることがないため、非常に説得力のあるビジョンを持っていることがあった。

数字で見ると、女性が率いるVCファンドはわずか2%だ。簡単に成功できるなどという幻想を抱いたことはない。そのため、マーティン、ダニエルと手を組むチャンスが巡ってきたとき、専門知識や経験という面でも、そして明らかに、S4キャピタルとの連携という面でも、完璧な条件だと思った。

――S4キャピタルとはどのように連携しているのか?

サー・マーティンは投資委員のひとりであり、S4キャピタルの多くの幹部と同様、個人的にファンドに投資しているため、私たちはS4キャピタルと業務提携している。S4SとS4キャピタルが協力しているセクターもある。スタートアップが求めているのは、自分たちの技術を用いて扱うことができる人、その技術が正しくつくられているかどうか、価格設定が適切かどうかについてのインサイトを与えてくれる人だ。彼ら(S4の幹部)は、その製品が競合製品に対してどのような位置付けにあると考えているのだろう? 広範なマーケティング、広告エコシステム向けの製品開発を検討している初期段階の企業にとって、(S4Sは)とても有益な現実のシグナルを豊富に提供できる。

――投資や買収の対象にしているのはどのような企業か?

私たちはマーテク、アドテク全体で次世代のリーダーを支援したいと考えている。サービス業やエージェンシーではなく、テクノロジーを活用している企業を探している。ただし、もうひとつの柱がある。これまで支援してきたコンテンツ企業だ。メディアのエコシステムは絶えず変化している。特にZ世代は、新しいエンターテインメントやメディアプラットフォームとはどのようなものかを定義するうえで、重要な役割を果たす年齢に差し掛かっている。そのため、どのような企業が彼らの注目を集めるのかを見極めるのは、まだ初期の段階にある。

――YouTubeのスターであるミスタービーストがレストランをオープンし、初日に1万人のファンが押し寄せたのを見る限り、Z世代にとって、コンテンツはこれまでと異なるものに見えるのだろう。この点についての考えを聞かせてほしい。

あれは素晴らしい例だ。そこで起こっていることを業界はどのように分類するのだろうか? 業界用語で言えば、彼はクリエイターだが、個人的には、それだけでは足りないと思う。この事実は、クリエイターエコノミーが健在であることを意味している。彼は自分の製品を生み出し、製品全体を収益化し、自らブランドとなり、広告チャネルとなっている。私たちが慣れ親しんできたバケツをひっくり返すようなものだ。

これこそが今の時代の非常に刺激的な部分だと思う。Z世代や新種の企業、クリエイターがブランドとして存在し、彼らが集めている注目そのものが、この10年間に見られたあらゆる構造を覆すビジネスモデルになっているからだ。コミュニティーを構築できる人や企業がすべての土台になっている。

――つまり、コンテンツやテクノロジーの民主化が起きているのだろうか?

クリエイターのためのテクノロジーツールが刻々と改良されているため、コンテンツ開発と影響力構築の民主化は、これまでより簡単に次の段階を迎えるだろう。オープンAIであれ、ジェネレーティブアートであれ、ジェネレーティブテキストであれ、合成人間であれ、私たちはまだすべてにおいて初期段階にある。コンテンツ開発のコストを大幅に削減し、技術やスキルの面でも負担を大幅に軽減するテクノロジーがすでに登場している。つまり、普通の人がコンテンツを開発する機会が増え、これまで以上に創造性を発揮できるということだ。コンテンツ開発業界のあらゆる部分で、破壊的変化の機が熟しているように見える。

[原文:Media Buying Briefing: How a VC vet hunts for tech startups with Martin Sorrell’s backing

Michael Bürgi(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:分島翔平)

Source

タイトルとURLをコピーしました