【山田祥平のRe:config.sys】いつまで続くノートパソコンの時代

PC Watch

 ノートPCはPCに必要な要素を集約したオールインワンボディだ。キーボードとポインティングデバイス、そしてディスプレイを好きなものにもすげ変えられない。だから、愛機を選ぶときには、キーボードの叩き心地とポインティングデバイスの使いやすさ、そして、画面のサイズや美しさが製品選びの重要な要素となる。そして、これらの要素はPC本体の処理性能より優先される。

PCのアイデンティティとしてのKVM(キーボード、ビデオ、マウス)

 ノートPC選択のポイントは、HIDとモニターだ。HIDはヒューマンインターフェースデバイスのことで、マウスやキーボードが相当する。モニターはいわゆるスクリーンだ。

 それがPC選択の拠り所になるというのは真でもあり偽でもある。なぜなら、これらのデバイスは、別途調達したものを追加で外付け接続すれば、何の問題もなく使えるからだ。一体化されたHIDとモニターは緊急用のものと見なし、ノートPCを使う拠点ごとにこの3点セットを用意しておくというのはどうだろう。出張に出かけるにしても、その期間や滞在スタイルに応じて、異なる3点セットの組み合わせを携行する。

 個人的には持ち運びに容易なコンパクトなNUCとモバイルバッテリやUSB PD電源とを組み合わせ、その日の行動に応じたサイズのモニターをつなぎ、ポインティングデバイスつきのモバイルキーボードで操作するというスタイルもいいなと思う。

 少なくとも、誰もが15.6型以上のモニターつきのキーボード一体型ノートPCがないと困るといったことはなくなりつつある。

 もちろん、そんな装備ではとても仕事にならない現場もある。電車の中で使ったりするのに不便だし、カメラととっかえひっかえで取材のメモをとるといった使い方にも向いていない。人それぞれ、求めるフォームファクタは異なるのは当たり前だ。

 昨年秋にPC Watchが配信した「PCメーカー企画生会議」では、今風VAIO Type-Pを望む声がとても多かった。あのくらいのサイズ感のオールインワンデバイスを大画面モニターに接続すれば、ある程度の処理性能さえ確保できていれば、いつでもどこでも即戦力になるモバイルノートになるはずだ。確かに欲しい。

拡張で変わるノートPCの世界観

 PCのフォームファクタは多様化する兆しもある。クラシックなスタイルのクラムシェルノートが連綿と使われ続ける一方で、誰もが自分の仕事や勉強のスタイルに応じてバリエーションに富んだ選択肢からもっとも気に入ったフォームファクタを選ぶことができる。これはこれで歓迎したい。

 その一方で、IntelのNUCのようなフォームファクタは、モニターの裏側に取り付けてしまえるくらいのサイズ感だ。それもありだと思う。そして、パワフルなゲーミングPCもあれば、昔ながらのフルタワーなどは、ストレージ満載のためではなく、高性能グラボの物理的な装着や余裕のある空間での熱処理、そしてきらびやかなイルミネーションに役にたつ。

 いずれにしても、14型前後のモニターを持った典型的なノートPCの全盛期というのは、そろそろ終焉を迎えるのではないかと思っている。だからといってNUCにバッテリを実装して、それをモバイルモニターと一緒に持ち歩く時代がやってくるというわけではない。それなりに実用性の高いHIDとモニターがついているノートPC的なデバイスは、このままメインストリームとして使われ続けるだろう。

 けれども、ノートPCの拡張という使い方のスタイルが新しい当たり前になる。今、多くのエンドユーザーは、ノートにモニターを外付けすると便利だということを実感的知識として身につけたからだ。コロナで在宅勤務を余儀なくされ、本来は仕事をする場所ではない自宅のリビングルームなどで作業しなければならなくなって、組織から与えられるもの、組織に要求すべきもの、自前で調達してもモトがとれるものとは何なのかを理解した。それが外付けモニターであり、各種のHIDだ。場合によっては外付けカメラやノイズキャンセル機能つきのスピーカーフォン、完全ワイヤレスイヤフォンなども欲しいと思うようになる。

 家庭用のTにPCをつなぐのはHDMIケーブルさえあればカンタンだし、PC用のモニターはコンパクトなものから大画面のものまで、USB Type-Cケーブル1本で、電源と映像伝送をまかなうことができるようになっている。

 HIDについても同様だ。より使いやすいキーボードやマウスの存在が、PCのことなど商用ライトバンくらいのイメージでしかとらえてこなかったエンドユーザーに、自分の道具として認識されるようになった。何もかもが人と同じである必要はなく、自分が自分のテリトリーで仕事をするにあたって、快適に、そして、自分のペースで負担無くできる道具があれば、仕事が楽しくできるということに気がついたのだ。まるで、Windows 3.1が登場した当時の「笑ってお仕事」的ではないか。30年も前の話だ。

汎用性と拡張性

 PCの最たる特徴は、その汎用性だ。汎用的であることから、何でもできる存在として、わからない人にはどう使っていいのか皆目見当もつかない。でも、そのことを直感で理解した人は、コンピュータの専門家も驚くような使い方で役立てる。

 PCのもう1つの特徴は、その拡張性だ。ないものはつなげばいい。あっても、よりよいものを接続すればもっとよくなる。そのために汎用ポートが用意されている。今は、USB Type-C形状のポートさえあればたいていのものがつながる。

 困ったことに、目の前の愛機としてのノートPCが、古びて役にたたないと感じるようになるのは、これら外付けできるデバイスの劣化による結末であることが多いことだ。キーボードのキートップが欠けてしまったり、ツルツルになってみすぼらしくなったスライドパッドが誤動作したり、バックライトに少し黄ばみが目立つようになり表面に傷もついたディスプレイなどなどだ。内蔵バッテリの劣化もある。これらを交換するとなるとかなり高くつく。だったら本体ごと買い換えようという決断となるわけだ。

 以前、年の暮れに、古い友人から連絡があって、年賀状発送のシーズンなのに、ノートPCのキーボードが壊れたようで文字が入力できなくなってしまったという相談を受けた。量販店でキーボードを購入してつなげばいいと伝えたら、それで事なきを得たようで、あとで報告を受けた時の話では、PCの買い換えは先延ばしにされてしまったようだった。まさか、ノートPCに接続できるキーボードが品物を選ばなければ数千円で手に入り、カンタンに外部接続できるとは思わなかったようだ。

 オールインワンPCとしてのクラムシェルノートは、ずいぶん長年にわたってぼくらの意識を拡張してきた。きっとこれからもそうだとは思うのだが、少し方向性をシフトした方がいい時期にきているように思う。オールインワンではあっても、外部にいろいろつないで便利が得られるハブという位置づけへのシフトだ。きっとそれがPCを使う意識のシフトにつながる。

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