実店舗を活用し、オフラインへと介入する Web3 ブランド:「NFTブランドであるだけでは、もはや差別化要因にはならない」

DIGIDAY

「メタバース」という言葉は何十年にもわたって、「オンラインのなかであらゆるものをつなげた世界」として連想されてきた。しかし現在、一部のWeb3企業は実店舗やリアルイベントを活用することで、物理的な世界との架け橋を築きつつある。

おもちゃとエンターテイメントのスタートアップであるスーパープラスチック(Superplastic)や、ラグジュアリーブランドのカルト・アンド・レイン(Cult & Rain)のような企業たちは、NFTや暗号通貨のプロジェクトで話題を集めたあと、ブロックチェーンに馴染みのあるオーディエンス以外にも、物理的な製品や体験を楽しませ、教育し、販売するための新しい方法を試している。

ある意味、それは多くのD2Cブランドの戦略を見習った形だ。オンラインでスタートしたD2Cブランドたちは、新しい顧客からの注目や、小売店への集客、なにより収益を得るため本格的に実店舗をオープンする前段階として、そうした戦略をとってきた。

店舗が現実と仮想現実の交差の鍵

7月下旬、スーパープラスチックはローワーマンハッタンに店舗をオープンした。この場所は店舗であると同時に、アートインスタレーションなども楽しめる、没入感のあるイベントスペースとしても活用される。来場者は同スタートアップの(デジタルでない)リアルなプロダクトを購入したり、さまざまなコラボレーターのアートを見たり、さらにはコレクションのなかから特定のスーパープラスチックNFTを所有していれば、秘密の部屋にアクセスすることもできる。

スーパープラスチックのファウンダーでCEOのポール・バドニッツ氏は、店舗開店前のツアーにおいてこう説明した。「現実と仮想現実が交差すること、そしてその境界線がぼやけ、最終的には解体される事が重要だ。私たちが作り上げたアプローチは、店舗から出た後も、(体験を)仮想世界で続けることができると言うものだ。私はそれを、すべてのピースが相互接続されている螺旋のようなものだと考えている。そして、この空間がその鍵となる」。

一部のWeb3企業とは異なり、スーパープラスチックは2017年の創業時にはNFTを念頭に置いていなかった。その目標は、さまざまなオンラインプラットフォームやオフライン製品を横断して、コンテンツとコマースの循環を作ることだったが、グッチ(Gucci)を含むNFTコレクション、ボアード・エイプ・ヨット・クラブ(Bored Ape Yacht Club)のようなWeb3の寵児や、そしてさまざまなセレブリティとのNFTコレクションが同スタートアップの人気を牽引することになった

しかし、同社のビジョンはただの店舗オープンをはるかに超えるところにある。同社が持つオンラインキャラクターたちは、インスタグラム、Twitter、Discordのようなさまざまなプラットフォームで何百万人ものフォロワーを獲得している。バドニッツ氏は彼らを活用し、Web3版のディズニー(Disney)のような存在へと会社を構築するという大胆な野心を抱いている。

「実はこの会社を始めて以来、経験の提供こそが(アイデアの)リストの最初にあった」とバドニッツ氏は言う。「リストの最初にあるものの、そこに到達するためにはほかに色んなことをしなければならない、とも理解していた。ミッキーマウスが有名なように、キャラクターを有名にしなければならない。(中略)今、すべてのピースが揃って何が起きるかというと、それら全てがしっかりと噛み合った上でのエコシステムを構築することができる」。

オフラインでの目的は人々の「教育」

物理的なプレゼンスを構築している企業はスーパープラスチックだけではない。より多くのWeb3ブランドが、より多くの一般消費者を引き付ける方法を考えるにつれて、以前から存在する手法が再検討されるようになった。それはオフラインでの実際の生活のなかで外出する人々の注意を集めること、つまりOOHの活用だ。しかし、現在進行中のパンデミックが消費者の生活様式(と時間の使い方)を変え、不安定な経済が消費者の購買行動を脅かしているなか、この戦略がどれだけ効果的かはまだ分からない。

もうひとつの例が、人気のブロックチェーン・プラットフォームであるソラナ(Solana)に関連する小売企業ソラナ・スペース(Solana Spaces)だ。7月下旬にニューヨークのハドソンヤード・ショッピングセンター内にオープンした同店舗では、NFTギャラリーやチュートリアル、そしてソラナ関連の手に持てるプロダクトを揃えている。ファウンダーでCEOのヴィブヌ・ノービー氏によると、その目的は暗号通貨の売買以外のブロックチェーンの使い方を人びとに教育することだと言う。たとえば、訪問者はさまざまなレッスンを完了することでリワードを得ることができる。以前、小売企業ベータ(B8ta)を設立した同氏は、小売のためのエンゲージメントモデルを探求することに興味があると語った。

ノービー氏は、「私たちは暗号通貨やNFTが、人々が購買や来店によって時間を費やしてくれたことに報いるための好例であると感じた。まさしく、小売スペースが強く必要としているものだ」と述べ、ソラナ・スペースがソラナのエコシステムの成長に取り組む非営利団体であるソラナ財団(Solana Foundation)とは別に運用されている点にも言及した。

ソラナ・スペースは最初の2週間で約5000人の訪問者を集め、ノービー氏は最初の月の終わりまでに約1万人を見込んでいる。同氏によると、同スペースはこれまでに、ソラナをテーマにしたTシャツや靴下など、数万ドル相当の商品を販売しているという。同社は今週後半に第2店舗を発表する予定だが、場所はまだ明らかにされていない。「私たちはただ一つの場所を提供するために参入したわけではない」と彼は言う。「わたしたちは大きな帝国を築こうとしている」 。

もはや差別化要因ではなくなったNFT

さまざまなD2Cやラグジュアリーブランドで経験を積んだガートナー(Gartner)のマーケティング・アナリスト、マット・ムーラット氏によると、物理的な店舗を持つことのメリットが大きいカテゴリーがあるという。

Web3の場合、実店舗を持っている企業は、Google検索や情報過多なオンラインフォーラムにおいてほかよりも目立つ事ができるかもしれない。新しい店舗の建設には、不動産費、在庫、ビジュアル、人件費など多くの先行投資が必要だが、D2Cブランドは販売によって店舗を正当化する一方で、認知度を高めることに関心があるブランドもあるという。(スーパープラスチックとソラナ・スペースは、スペースのコストを公表していない)。

「実店舗はWeb3ブランドを正当化する助けともなる」とムーラット氏は言う。「NFTブランドであるだけでは、もはや差別化要因にはならない」。

リアルとデジタル両方のプロジェクト制作

また、カルト・アンド・レインなどは短期的なオフラインでのイベントで実験している。メタバースのなかで新たなスペース「カルト・アンド・レイン」の立ち上げを宣伝するため、同社はロンドンで300人のパーティーを開催し、バーチャルでも参加者を集めた。Web3の多くは、期待の集まるデジタル資産に焦点を当ててきたが、彼らは、同社がNFTと組み合わせた高級スニーカーや大学のジャケットなど、物理的なプロジェクトとデジタルプロジェクトの両方を作成している点を示したいと考えていた(ジャケットには、ほかのNFTコミュニティとのコラボレーションによるパッチが施されている)。

カルト・アンド・レインのマーケティング責任者であるアンドリュー・グリフィス氏は、「一部の人々、そして私が言う一部の人々とは大多数の人々のことだが、彼らは実際に(オフラインで)目にしないと信じる事ができない」と述べる。「それが現実だ。Web3やデジタルの世界にもっと適応している人たちのなかには見たい、手に取りたい、感じたいと思っている人もいる。そのことを私たちは小売業で考えてきた」。

[原文:Why Web3 brands are moving offline to explore physical spaces

Marty Swant(翻訳:塚本 紺、編集:黒田千聖)

Source

タイトルとURLをコピーしました