「広告品質の新たなスタートライン」とは?:インターネット広告を取り巻く現状とヤフーの取り組み

DIGIDAY

マス媒体の広告市場を横目に、飛躍的な成長を続けるインターネット広告市場。しかしこの成長は同時に、業界関係者を悩ませるリスクも抱えている。アドフラウド、ブランド毀損などの不適切な広告掲載の増加がもたらす広告品質の低下だ。このような課題は、コスト面での損失となるばかりでなく、企業そのものの信頼を揺るがしかねず、広告主にとって看過できるものではない。

こういった状況下だが、マーケット全体を通して広告品質を担保する環境は着実に整備されつつある。インターネット広告の品質についての認証機関、デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)が設立されたのが大きな動きと言っていいだろう。

インターネット広告のプラットフォーマーのなかでも、ヤフーはかねてから広告の品質を重視しており、アドフラウドやブランドセーフティなどが大きな問題となる10年以上前から、これらへの対策のためのガイドラインを策定。海外の業界団体に参加して情報収集に努めるなどの活動に取り組んできた。

「2022年は、広告品質の新たなスタートラインとも言える」とヤフーの執行役員で、メディア統括本部長も務める片岡裕氏は語る。同社はどのような取り組みをおこなっていくのか。今後、健全なマーケットをどう醸成し、どのように広告主へのメリットを創出していくのか。片岡氏と、トラスト&セーフティ本部ポリシー室の室長である中村茜氏に話を聞いた。

◆ ◆ ◆

DIGIDAY(以下、DD) 現在、インターネット広告の品質への注目はかつてないほどに高まっているように思われますが、実状はどうでしょうか。

片岡裕氏(以下、片岡) ここ数年、インターネット業界全体で、以前にも増して広告品質への関心が高まってきています。特に、より意識の高い海外市場の動向を受け、アドフラウドやブランドセーフティなどが注目されていますね。

DD ご指摘の通り、広告品質の問題は海外が先行しています。国内企業にとって、現実問題として「自分ごと化」されているのでしょうか。

中村茜氏(以下、中村) ヤフーでは2021年に、約1000人の広告主に対して不正広告に関するアンケートを実施しました。そのなかで、7割の方が「(アドフラウドとブランドセーフティは)現在もしくは将来、広告出稿に重大な影響のある問題である」という回答をされていたのです。

ただ7割のうち半数程度は「将来的に課題になるだろう」という回答なので、現状で大きな課題と考えているというより、「そろそろ対応しなくてはいけない問題」と捉えられているように感じます。その意味では、日本でも関心が持たれ始めているのは確かですが、その対策や広告主の意識といった点においては、海外が先行しているように思います。

企業規模による「意識の差」とヤフーならではの取り組み

DD なるほど。そのような結果であれば、日本ではまだ「自分ごと化」している、とまでは言えなそうですね。

中村 実は先に紹介したアンケート結果を企業規模で比較すると、規模によって意識の差があることが見えてきました。これらの課題への関心は、大企業と比較すると、中小企業のほうが低い傾向にあるのです。

不正を放置したままでいいと考えている広告主は、いないと思います。ただ、特に中小企業の広告主の場合、課題に対してどのようなアクションを起こせばいいのか、考えあぐねている方も多いのではないでしょうか。

そのような広告主に対して、プラットフォーマーやメディア側が、ストレスなく安心して広告を出稿いただける環境を整えることが、意識向上に向けたひとつの取り組みにもなると考えています。

DD 2019年にヤフーが宣言した「広告品質のダイヤモンド」は、そうした啓発の一環ですね。社内外でどのような効果がありましたか?

片岡 「広告品質のダイヤモンド」は、広告品質向上のための我々の取り組みを「ビューアビリティ」「アドフラウド対策」「ブランドセーフティ」「プライバシーへの配慮」「最適な広告フォーマット」「アドクラッター対策」といった6つの観点からお伝えしたものです。これによって、社内では広告品質についての意識改革が進み、外部の方々に対してはヤフーの決意と姿勢をご理解いただくきっかけになりました。

「第三者から見て信頼できるか」が重要

DD 2021年には業界全体の動きとして、デジタル広告の品質を第三者認証する組織であるJICDAQが設立され、ヤフーはいち早く認証を受けています。

片岡 ヤフーでは広告品質向上に向けた課題感を持って、10年以上前から自社でブランドセーフティやアドフラウドのガイドラインを策定していました。ただ、このような取り組みは、第三者から見た場合に信頼できるかどうかが重要です。JICDAQ設立後、第1号グループとして認証を得たことは、クライアントからの大きな信頼につながるものと考えています。

片岡 裕/ヤフー株式会社 執行役員、メディア統括本部長。2005年、ヤフー株式会社入社。メディア系ユニットマネージャー、マーケティングソリューション事業における事業推進本部長、メディアサービスカンパニー ニュース本部長などを経て、2016年より執行役員 メディアカンパニー長、2019年より現職。2022年3月現在、JIAAにおいて理事を務める。

中村 私自身はJIAA(一般社団法人日本インタラクティブ広告協会)で、業界の自主ガイドライン策定にも参画しました。そのガイドラインがJICDAQ認証の基準の下地になっています。ヤフ―が目指してきた世界観が、業界全体で共通のものとしても実現され、非常にうれしく思っています。

また、ヤフーは2016年から、グローバルなデジタル広告業界標準の確立および各社への導入支援を目的とした、米国の独立系研究開発コンソーシアム「IAB Technology Laboratory(以下、IAB Tech Lab)」に参画していますが、JIAAでのガイドライン策定の議論の際には、IAB Tech Labから得た海外の情報も参考にしました。

先を行く海外の取り組み状況

DD  IAB Tech Labに参画しているというお話もありましたが、先行している海外では、広告品質向上の取り組みや認証制度はどのような形で進行しているのでしょうか。

中村 IAB Tech Labでは、ヤフーは理事として活動しており、グローバルで発生している広告品質に関する事案や取り組みなどの情報も相互に連携しています。インターネット広告を取り巻く海外の状況についてはIAB Tech LabのCEO、Anthony Katsur氏にコメントをいただきましたので、ご紹介させていただきます。

Anthony Katsur氏
IAB Technology Laboratory
CEO

米国では、デジタル広告におけるブランドセーフティとアドフラウドが引き続き重要な課題となっています。市場調査会社のイーマーケター(eMarketer)によると、2023年には広告不正によって広告主はおよそ1000億ドル(約11兆円)の広告費を失うと推計されています。

アドフラウドの横行は、パブリッシャーの収益減や広告主のブランド価値の低下という悪循環を生み出します。フラウド防止を重点施策とするIAB Tech Labは、2022年第2四半期にアドフラウド対策ツールであるads.txtとsellers.jsonのアップデートをリリースする予定です。

広告不正に対し厳しい目が向けられるなか、日本においてデジタル広告の品質を第三者認証するJICDAQが設立されたことは喜ばしいかぎりであり、業界をあげて取り組む認証制度が世界中で増えつつあることを歓迎します。グローバルにおいてはすでに多くのメディア企業が各種認証を取得しており、広告主側も広告出稿の意思決定に際し、認証を取得した企業をパートナーに選ぶ傾向が強くなっています。

たとえば英国では、IAB UKが実施するゴールドスタンダード認証を取得した企業の成長率は2019年、21%を記録したのに対し、認証未取得企業は9%にとどまったことが明らかになっています。

IAB Tech Labは2021年から、広告主が業界標準に準拠しベストプラクティスを実践する企業とのみ取引できる環境を整えるため、Transparency Center(透明性センター)という施策を開始しました。透明性センターが運営するデータベースには、アドフラウドを防止し、サプライチェーンの透明性を確保し、消費者のプライバシーを保護するために企業が遵守している基準や認証制度の情報とともに、認証取得企業のリストが掲載されています。これらのデータはAPI経由で入手できるため、業界標準の遵守をサプライチェーン全体に徹底させるのに役立ちます。必要な認証の取得を条件に広告主がパートナー企業を選ぶというトレンドは、世界で今後ますます加速していくものと思われます。

こうした状況下で、ヤフーによる「広告品質のダイヤモンド」とJICDAQの認証制度は、日本のデジタル広告業界の発展に大きく貢献する、素晴らしい取り組みとなるでしょう。

中村 海外では、認証を取得した企業を選んで広告掲載をするといった流れがさらに加速しそうとのことで、今後は日本も、メディアや広告取引中間事業者等が、広くこの認証を取得し、広告主はその認証された事業者との取引を推進していっていただくことが、業界健全化の第一歩と言えそうです。

ブランドセーフティでも大きなメリットを提供

DD 日本国内ではJICDAQが広告品質の業界標準として確立されていくなか、ヤフー独自のプレゼンスはどのように示していくのでしょうか。

片岡 引き続きさまざまな取り組みを進めていますが、直近では世界有数のアドベリフィケーションベンダーであるDoubleVerify(ダブルベリファイ)と提携し、先日、無効トラフィック(アドフラウド)とブランドセーフティ検知に必要な機能の実装が完了しました。

もちろん、ヤフーでも独自のフィルターや検知システムによってこれらを防いできましたが、プラットフォーマーが単独ですべてに対応するのは難しいのが実情です。高い技術力を持つDoubleVerifyとの提携によって、我々のトラフィックはすべてDoubleVerifyのシステムを通じて不正判定されるようになります。

中村 また、この提携では、特にブランドセーフティの領域で大きなメリットを提供できるようにもなります。DoubleVerifyのシステムを導入したことで、ユーザー書き込み型のサイトなどを、よりリアルタイム性をもって内容分析することができるようになり、問題があった場合は広告掲載を即時に停止することができるようになりました。

中村 茜/ヤフー株式会社 トラスト&セーフティ本部ポリシー室 室長。2007年にヤフー株式会社入社。法務・コンプライアンス部門を経て、広告審査部門に異動。2018年にメディア統括本部トラスト&セーフティ本部ポリシー室室長に就任し現職。広告審査、ブランドセーフティ、広告トラフィッククオリティなど、ヤフーの広告ビジネスの品質に関連する各ガイドラインの制定・管理の責任者を務める。

認証取得後も磨き続ける努力を

DD JICDAQの設立をひとつの契機として、これから日本でも、クライアント、プラットフォーマー、メディアを問わず、広告品質への関心がさらに高まっていくと思います。そのなかでヤフーが目指すデジタル広告のあり方を教えてください。

片岡 今まではヤフー独自でも対策を進めてきましたが、2021年にJICDAQからの認証を取得でき、2022年は広告品質の「新たなスタートライン」とも言えると思います。第三者機関の認証をとって終わりではなく、そこから磨き続けることが重要だと考えています。

そして、ヤフーだけではなく、インターネット業界全体として、広告主が安心・安全に出稿できて、ユーザーもその広告を信頼できるような世界を目指していきたいですね。

中村 インターネット広告の信頼性を高めることが我々のミッションですが、そのためには、広告主にも不適切なサイトには広告を出さないという意思決定や、逆に、どのようなサイトに広告を出したいといった意志を持っていただくことも重要かなと思います。ブランドセーフティと言っても、その基準は広告主によって違いがあります。ヤフーは、広告主が満足できる形で、ユーザーに広告が届くよう、啓発活動を続けていきたいと思います。

Sponsored by ヤフー

Written by DIGIDAY Brand STUDIO(滝口雅志)
Photo by 渡部幸和

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