7カ月前に立ち上がったNFTプロジェクトおよびファッションブランドのAzuki(アズキ)は、7月下旬、トークンのホルダーに対してトラの刺繍が施されたリバーシブルジャケットという初の物理的アイテムをリリースした。2月以降、Azukiはユーザーに向けてNFTの取引をする際の手数料を削減する方法を密かに提供してきた。NFTプロジェクトは、一般的に物理的なアイテムやイベントへのアクセスに重点を置く。だが、Azukiでは、スマートコントラクト(ブロックチェーン上で一定のルールに従って自動的に契約を実行するプログラム)を介してユーザー側のコストを削減できるようにすることが、これまででもっとも革新的なサービスであると証明されている。これはアディダス(Adidas)やRTFKT(アーティファクト)も採用している。
ベストセラーNFTをローンチしたAzuki
AzukiはWeb3ブランドとデジタル会員制クラブで、会員パスを兼ねたアニメ風のアバター1万点を販売している。4人の創業者は匿名で(この分野では珍しいことではない)、2021年8月からこのプロジェクトに取り組んでおり、1月にアバターをローンチした。それ以降、それらはベストセラーのNFTコレクションのひとつとなっている。
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7月19日、Azukiはリミテッドエディションのツインタイガージャケットを発表した。これは、配布されたさまざまなトークンの中で対応するトークンを持つNFTホルダーだけが入手できるというものだ。これらのトークンは5月にAzukiの全ホルダーにエアドロップされた。「NFTの空間ではまさによい製品が愛される。すぐれたアートであるだけでなく、技術面でもイノベーションを起こさなくてはならない」と、匿名の創設者(ユーザーネームZagabond)は述べている。
NFTを複数購入する際のコスト削減サービス
しかし1月にNFTを鋳造するための取引手数料、つまりガス料金が1回の取引につき平均40ドル(約5360円)と高額に達したことを受けて、Azukiの創業者たちはユーザーに対し、NFTを複数購入する際の手数料を、1点だけ購入する場合の価格に引き下げる方法を提示すると決定した。
「我々は、複数のNFTを鋳造する際のガス代が安くなる、ERC721Aという新たなコントラクトを発表した。そのイノベーションは、鋳造する新規プロジェクトの多くで利用されており、コミュニティ全体のガスを節約している」とZagabond氏は説明する。「より広いコミュニティを援助する、これこそまさしくweb3の精神だ」。このコントラクトは、50以上のプロジェクトで使用されており、Discordを含む口コミを通じて有機的に採用されている。
メタバース戦略エージェンシーのジャーニー(Journey)の創業者でチーフメタバースオフィサーを務めるキャシー・ハックル氏は、メタバース空間が希薄になるにつれて複数のNFTの購入を促すケースが増えているが、その際にブランドはこうしたコスト削減サービスを検討すべきだと述べている。
「イーサリアム(Ethereum)のようなブロックチェーンの場合、ガスの価格はネットワークの混雑状況に基づいて変動する。つまり、ネットワークを利用する人が多ければ多いほど、ガス代は高くなる」と彼女は指摘した。「ガスはネットワークを動かすためのコストだが、すべてのブロックチェーンが同じように作られているわけではない。ほかのブロックチェーンよりも運営に多くのガスを必要とするブロックチェーンもあれば、あまりエネルギーを必要としないブロックチェーンもある」。多くの人気のあるNFTプロジェクトと同様に、Azukiはイーサリアム上で動作している。
より洗練されたサービスが求められている
イーサリアムやビットコイン(Bitcoin)のように、プルーフ・オブ・ワーク、つまり数学的パズルによって検証されるなブロックチェーンは取引がより高価で、1回平均3ドル(約402円)である。一方、ポリゴン(Polygon)やフロー(Flow)のように、コンセンサス・メカニズムによって検証されるプルーフ・オブ・ステークの場合、取引手数料が安く、1回あたり0.1ドル(約13円)となっている。これらのコストは単にひとつのNFTを鋳造する分には少ないが、大量に取引する際にはかなりの額となる。イーサリアムは9月までプルーフ・オブ・ワークのコンセプトで動作しているため、現在のガス料金はより高くなっている。
ハックル氏は、ほかの代替手段があるにもかかわらず、人気のあるNFTプロジェクトはいまだに主にイーサリアムで実行されていると話す。「プロジェクトやNFTをドロップすることによる環境への影響に注目しているコミュニティやブランドは、高いガス料金を削減する方法を探している。イーサリアムが進化するにつれて、こうした懸念はおそらく減少するだろう。少なくともそれはコミュニティの多くの人が願っていることだ」。
Azukiのコントラクトはオープンソースプロジェクトとして公開されており、ドゥードゥルズ(Doodles)のエアドロップや、RTFKTやアディダスによるプロジェクトなど、いくつかのNFTで最大のプロジェクトにも現在活用されている。
このコントラクトが示唆しているのは、NFTのゴールドラッシュから人々が去り、忠実な会員だけが残るにつれて、この分野での競争がさらに激しくなるため、ブランドは会員に提供するものをさらに洗練させる必要が出てくるということだ。「ユーティリティは進化しており、サービスはNFTのロードマップに含まれる特典になり始めている」とハックル氏は言う。「結局のところ私たちが目にしているのは、これらのプロジェクトとそのパートナーであるブランドが、新たなオーディエンスを開拓しており、新しいエンゲージメントの方法を探しているということだ。そしてエンゲージメントとファンダムの未来に向かっているなかで、おそらくサービスもそうしたことの一部なのだろう」。
[原文:Why reduced gas prices could accelerate NFTs’ traction among brands]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)