「基本的に SSP のビジネスには魅力がなく、成長もない」:閉鎖が相次いだアドテクの落とし穴

DIGIDAY

ある者にとってこれは、過去10年間、広告業界で最もダイナミックな部門とうたわれてきたデジタル社会の清算の時だ。

しかし、同じタイミングで2つのSSPの閉鎖が迫っていることについて、利益率が低下し、サステナビリティなどの優先事項によって数を減少させざるを得ない業界の、必要な合理化としてみなす者もいる。

ヤフー(Yahoo!)は2023年2月、全体の20%の人員削減のなかでSSPを閉鎖することを発表した。バイサイドのオペレーションは残すが、ネイティブ広告の提供については、最近結んだタブーラ(Taboola)との関係に依存することになるという。これは、ビッグ・ビレッジ・メディア(Big Village Media)とそのSSPであるEMXデジタル(EMX Digital)が破産を申請し、その負債が最大1億ドル(約134億円)に上ると裁判所に報告されたのとちょうど同じ日に明らかになった。

セルサイドが直面する問題

マーケテクチャー(Marketecture)の創設者、アリ・パパロ氏は、米DIGIDAYの取材に対し、業界のバイサイドが協業するプレイヤーの数を減らそうとするなか、市場のセルサイドが直面している課題を考えると、ヤフーの人員削減は予想されたことだと話す。

「SSPビジネスは、基本的にあまり魅力的ではないと思う(中略)成長していないし、パブリッシャーはSSPを商品のように扱うので、非常に競争が激しい。パブリッシャーはすべてのページにSSPを10または20を実装しているのだ」とパパロ氏は付け加える。

「また、SPO(サプライパス最適化)を用いて、購入経路の数を減らそうというバイサイドからの圧力がかかるため、魅力はさらに失われている。そして、広告主やエージェンシーがサプライサイドに競争をたきつけて、自分たちに好ましい関係を作ろうとすることもあり、統合されたビジネスのなかでは最大規模のSSPが好まれる」。

パパロ氏はまた、ヤフーがアドテク製品(複数の経営陣による買収によって構築された複数の異なるテクノロジーの集合体)の提供を減らすことは、現在の親会社であるアポロ・グローバル(Apollo Global)にとっても意味があると述べる。「レガシーな契約や技術を多く抱えている場合、その管理は難しい。それらを切り捨てることで財政改善のために多くのことができる」とパパロ氏は言う。

「サステナビリティ」がテック企業の数を減らす

一方、複数の情報筋は、ブランドの環境、社会、ガバナンスへのコミットメント、つまり(理論的には)より少ないパートナーとの協働を促す誓約など、これまで予想もしなかった方面からの課題にSSPが直面し始めていることを指摘する。

インデックス・エクスチェンジ(Index Exchange)の北南米およびグローバル・パブリッシング担当シニアバイスプレジデントを務めるマット・バラシュ氏はDIGIDAYに対して、アドテクノロジーのサプライチェーンの浄化が求められており、エコシステムのいずれの層でもリスクを抑えることが主要課題になっていると語る。たとえば、今週初めに提出されたビッグ・ビレッジ・メディアとEMXデジタルの連邦破産法第11条の申し立てには、100万ドル(約1億3400万円)を超える無担保債権を持つ複数の債権者が記載されており、どの会社と与信契約を結ぶかについて安全策を講じることと、細部まで注意を払うことが助言されている。

「エージェンシーやメディア企業が、より少ないリソースでより多くのことをやりたがっていることは明らかだ。かつてのように多くのパートナーを必要としていない」とバラシュ氏は言う。

「収益性が最重要視される世界では、バイサイドに投資の機会を提供してくれるのは誰なのか、そのつながりがどの程度利益をもたらすのかを選別する必要がある」。

バラシュ氏は、現在、優位に立ち始めているのは、より収益性の高い統合経路を推進するために、必要なインフラに投資している企業だと述べている。

債権者は損失を被る可能性が高い

情報筋は、この展開が2019年のサイズミック(Sizmek)──後に断片的に売却される前にフルスタックのアドテクを提供──の破綻の再現であることを指摘している。EMXデジタルの場合、数十の債権者が損失を被る可能性があるためだ。

DIGIDAYが確認した文書によると、EMXデジタルが破産申請に至るまでの数週間、同アドテク企業の代理人である銀行家は、「リスクベースの価格設定」の機会であると称して、売却先候補の潜在的関心を引こうとしていたことが分かっている。しかし, 別の情報筋は、2月8日の破産申請により、そのような取引の可能性は低くなったと指摘する。

「もしあなたが(潜在的な)買い手の1人だったら、SSP側の事業を手に入れるために破産前に取引をしただろう」と、この法的紛争を直接知る関係者は匿名を条件に語った。

「同じことが新たに繰り返されれば、DSP(デマンドサイドプラットフォーム)やエージェンシーから「共に仕事をしたくない」という多くの反発を受けることになると思う(中略)プルートTV(Pluto TV)──EMXの破産申請によると、最大の無担保債権者のひとつ──のインベントリにはさまざまなソースが大量にあるからだ」。

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複数の関係者がDIGIDAYに語ったところによると、最近の情勢では、信用管理部門の責任者が、どの関係者が彼らのプラットフォームで支出できるかということに制限をかけることになりそうだが、EMXの崩壊が、この分野でより広範囲に波及することになるとはとても思えないという。

ファクタリング企業オーレックス(OAREX)のエグゼクティブバイスプレジデント、ニック・カラビア氏は、この度の破産申請を受けてドミノ倒産を予測するのは「憶測に過ぎない」とDIGIDAYに語る。オーレックスは、請求書の所有権を得る代わりに、パブリッシャーなどのクライアントのキャッシュフローを支援する企業だが、セルサイドのアドテク企業の支払期間が緩さを増していることに気づいているという。

「最近の支払い調査では、EMXの支払いは遅くなっている」とカラビア氏は言う。「(2022年)上半期には、ポートフォリオ全体のプログラマティック支払いは、2日ほど早く入ってきていた。それが遅くなってきているものの、近く出される(下半期)リポートでは、期限通りに入ってきているようだ」。

[原文:‘Fundamentally, the SSP business is not very attractive’: The fall out of ad tech’s latest round of closures

Ronan Shields(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:分島翔平)

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