旅行需要の回復で、存在感を増す「観光地域作り法人」:トラベルメディアは実質的にDMO御用達のマーケティングショップに

DIGIDAY

アトラスオブスキュラ(Atlas Obscura)のウォーレン・ウェブスターCEOは、顧客の半数以上が旅行業であることを考えれば、景気の減速が同社の広告事業に与える影響は限定的だろうと楽観している。一方で、旅行需要の急激な回復を背景に、多くの州や都市が観光客の誘致に注力しており、各地の観光局との連携については見直しをはじめている。

「経済情勢がいささか不透明なため、今年の下半期から来年にかけての動向に注意を傾けてきた。しかし、旅行業界は相変わらず好調に推移している。我々の業界では広告事業は非常に好調で、陰りは見えない」と、ウェブスター氏は述べている。

地図やパンフを記念品として再定義

DMO(Destination Management Organization:観光地域作り法人)とも呼ばれる観光局の主要な業績評価指標といえば、かつては地図やガイドブックやパンフレットの配布数だった。しかし現在では、そのような資産の多くがオンライン上に移され、ページビューやダウンロード数でその成果が測定されている。アトラスオブスキュラはこれら物理的な印刷物を、コレクションとしての価値を持つ地図ポスターや130ページにおよぶビジターズガイドという記念品として再定義し、新たな存在意義を付与することにした。

「ロサンゼルスの観光局から引き合いが来た。『従来的な地図やパンフは使い捨てにされがちなので、何かもっと出版物に近い、大きな価値のあるものをいっしょに作れないものかと考えた』ということだった」と、アトラスオブスキュラの共同創業者であるディラン・サーラス氏は振り返る。

アトラスオブスキュラには、自社のオーディエンス向けにシティガイドや旅程を作成してきた経験がある。そこでサーラス氏はこのキャンペーンを記事作成や出版物の企画と同じように扱い、いくつかのガイドと地図を作成することにしたという(ただし、ガイドの内容はすべて好意的な視点で作成)。この企画にアトラスオブスキュラの編集部は関与していない。しかし、同社のサイトに掲載された編集部作成のシティガイドと、DMO向けに制作したガイドには重なる部分があった。この企画を担当したブランドパートナーシップ部門が、自社のデータベースに納められたロサンゼルスの人気観光スポット、レストラン、アクティビティに関する情報を活用したからだ。

この企画でロサンゼルスの観光局が支払った費用は約100万ドル(約1億円)だった。ただし、その大半は印刷代に使われたとサーラス氏は述べている。印刷代を支払った後にアトラスが手元に残した利益は明かされなかった。同社の説明では、構想から印刷までに9ヶ月を要し、最終的に20万枚超の公式ビジターマップ、6万5000冊の公式ビジターガイド、4300冊のミーティングプランナーガイド(企業の会議・イベント担当者向けのガイド)、約2600冊の豪華旅行ガイドを制作した。これらの地図やガイドブックは現在、ロサンゼルス各地の観光案内所で配布されている。

ピンポイント解説:DMOとは

  • DMOは「Destination Management Organization(観光地域作り法人)」の略。
  • 各地域の観光局を含む。
  • 以前は紙の地図、ガイドブック、パンフレットなどの配布数を成功指標としていたが、現在はページビューやダウンロード数で実績を評価している。
  • アトラスオブスキュラの着眼点:旧来の印刷物をコレクションや記念品としての価値を持つものに転換し、マーケティングキャンペーンに活用する。

2023年度の予算増は大いに期待

「いまや我々は実質的にDMO御用達のマーケティングショップだ」とウェブスター氏は話す。実際、同社は数年前から、印刷物以外にも旅行業界向けの動画、デジタル資産、さらにはより伝統的なメディアキャンペーンなどを手がけてきた。

その結果、DMOや旅行関係のクライアントは、アトラスオブスキュラのブランドパートナーシップ収入の半分以上を占めるようになった。同社は2022年のこの部門の売上を、年初に予想した1000万ドル(約13億円)より400万ドル(約5億円)多い1400万ドル(約18億円)と推定している。売上総額は前年のほぼ3倍に相当する2200万ドル(約29億円)を見込んでいるという。

旅行がアトラスオブスキュラの広告事業の中核であることや、旅行業界が2020年と2021年に受けたコロナ禍の影響からいままさに回復しつつあることを考えれば、この好調ぶりはそれほど意外なことではない。メディアレーダー(MediaRadar)の調べによると、2022年上半期における旅行業界の広告支出は前年同期比で82%増加している。また、米国各地の観光局による2022年の広告支出も前年比19%増で、年初来総額2億8200万ドル(約375億円)となっている。カリフォルニア州のDMOは特に意欲的で、前年比22%増の3500万ドル(約46億円)を広告活動に投じている。

アトラスオブスキュラは、ほかのDMOクライアントにも、ロサンゼルスで実施されたこの新機軸のキャンペーンを試してみてほしいと期待している。

メディアトゥインタラクティブ(Media Two Interactive)のメディアバイヤーで、バージニア州シャーロッツビルのDMOを担当するケリー・ハシモト氏によると、夏のピーク時の週末は地元ホテルがすでに満室となっているため、同地域のDMOには平日や秋冬のオフシーズンに観光客を呼び込みたい思惑があり、クリエイティブキャンペーンにかける彼らの期待は小さくないという。

とはいえ、こうしたキャンペーンの大半は予算次第だ。ハシモト氏によると、シャーロッツビルのDMOの場合、観光客向けの印刷物は基本的にインハウスで作成しており、予算は前年度の実績を基準に決められるという。そのため、こうした手のかかるキャンペーンの多くは、2023年度の予算で計上されることになる。今年の「満室」傾向が成功の兆しであるならば、2023年度の予算増は大いに期待できそうだ。

[原文:Atlas Obscura thinks local with creative print campaigns to keep ad revenue flowing amid travel spike

Kayleigh Barber(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)

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