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景気後退の懸念が高まるなか、専門家たちはAmazonが出品者にとって強靭なチャネルであることを証明する可能性が高いと指摘するが、Amazonの出品者たちは、消費者行動がどのように変化していくかを注意深く追い続けている。
連邦準備制度(Federal Reserve)の議長を務めるジェローム・パウエル氏によれば、米国の景気後退は「間違いなくあり得る」と、フィナンシャルタイムズ(Financial Times reported)が6月22日に報じた。
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目前に控えている景気後退の影響に備えるため、Amazonの出品者はコンバージョン率を監視している。人々が必需品でない出費を切り詰めれば、特定のカテゴリーでコンバージョン率が低下すると考えられているためだ。また出品者はフルフィルメントセンターとの強い結びつきを活用するか、商品の調達先の多様化と国内生産によって、物流コストの上昇を抑えようと試みている。Amazonは米国で最大のeコマース企業であり、経済の沈滞時における消費者の出費を示す主要な要素となるため、出品者がインフレの影響をどのように受け続けるか、または影響を受けないかは重要である。
コンバージョン率停滞に見る、景気後退の兆候
Amazonの出品者の売上を最適化する企業であるサプライキック(SupplyKick)の最高経営責任者を務めるクリス・パーマー氏は、「Amazonの出品者は、インフレとサプライチェーンの問題を十分に認識しており、消費者の行動の変化を非常に注視している。これらはすべて、パンデミックがはじまったころから、出品者が継続的に注目し、継続的に変化する要因となっている」と述べている。サプライキックはマデリン・カーター(Madelyn Carter)、パドルテック(Paddletek)、ジョンソンハードウェア(Johnson Hardware)などAmazonの出品者と協力している。
「Amazonでは、特にこの数カ月において、消費者の行動が不規則で、コンバージョン率が前年比で低下しているケースも見られる」とパーマー氏は語る。
マーケットプレイスは依然として活発だが、同氏はこう述べている。「一部のカテゴリーにおいて、顧客が以前ほどの割合でコンバージョンを行わないことはすでに確認されている。その前提から、出品者はこれが今年以降の自分たちの収益目標に影響を及ぼし得ることを認識している」。
Amazonが4月に、1〜3月の四半期決算において、同社の中核であるeコマース部門の成長率が3%低下したと報告したことも、驚くにあたらない。オンラインショッピングの減少とサプライチェーンの問題の結果として、同社は7年ぶりに四半期損失を計上した。
出品者が販売を行っているカテゴリーによって大きく異なるものの、Amazonの出品者の心に景気後退が大きくのしかかっているのは間違いないと、ウェルネスに焦点を当てたCPGブランドを創出するホールディング企業のイノベーションデパートメント(Innovation Department)の共同創設者で最高経営責任者を務めるコリン・ダレッタ氏は語る。
同氏は次のように述べている。「これまで、当社が直接関与してきた多くのカテゴリーにわたって、消費者支出は底堅さを維持してきた。出費の抑制が起きたときでも、ペットフードや栄養食品はまっさきに影響を受けるカテゴリーではなかった」。イノベーションデパートメントは、フィン(Finn)という犬用のサプリメントブランドを保有しており、Amazonで重要な存在感を示している。同氏によれば、フィンの収益の約3分の1はAmazonからのものだ。
景気後退時は不要不急の支出が減少
米国商務省経済分析局(U.S. Bureau of Economic Analysis)のデータによれば、米国の家庭からの支出は4月に0.9%増加した。4月の消費者支出は1523億ドル(約20兆6000億円)増加し、物品への消費は486億ドル(約6兆5600億円)、サービスへの支出は1037億ドル(約14兆円)増加した。
一般に、経済の沈滞時には、消費者は必需品への出費は続けるが、必須ではない品物への出費は減らすか、少なくとも慎重さを示す。プレミアムカテゴリーで高額商品の販売を行っているAmazonの出品者は、このような場合に影響を受けやすい。
パーマー氏は次のように述べている。「景気後退が起きた場合、消費者はエンターテイメント、趣味、住居改善、アクティビティ、アパレルなど必需品ではないものの購入を控えることがあり、これらのカテゴリーの出品者に大きな影響が及ぶ。2020年にも起きたように、景気後退が起きた場合は定番のアイテムが優先され、贅沢品や、裁量所得から支出するようなアイテムが危険な立場に置かれる可能性がある」。
スターデイフーズ(Starday Foods)の共同創設者で成長担当バイスプレジデントを務めるキャロライン・マッカーシー氏も合意する。スターデイフーズは1年前に創業した食料品新興ポートフォリオ企業だ。同社のブランドのうち、グーイー・スナックス(Gooey Snacks)という健康志向のチョコレート・ヘーゼルナッツ・スプレッドと、オールデイ(All Day)という調味料ラインは、ここ数カ月のあいだにAmazonで発売された。
マッカーシー氏は、Amazonについて次のように述べている。「当社の各カテゴリーについて、これから確保できる未開拓の市場が大量に存在すると確信している。当社は食料品を販売しているため、当社のブランドは比較的低価格で、ラグジュアリー商品とは見なされず、今後の数四半期に消費者から避けられることはないだろう」。
同氏は、スターデイの売上の大部分は小売チャネルにより推進されるものだが、Amazonでの販売数は、「Amazonでのコンテンツとプレゼンスを拡大し続けるにつれ、着実に成長していく」ことを期待していると語っている。
「景気後退が起きた場合、消費者の支出は、再度レストランから自宅での調理に移行するかもしれない。これはパンデミックの最中に起きたのと同様のトレンドだ。当社の商品は、家庭のキッチンの環境で楽しみ、共有し、消費するためのものなので、このような状況になった場合でも当社は有利な位置にいる」と同氏は付け加えている。
パーマー氏は各ブランドに対して、今後数カ月、購入の行動に突然の変化が発生する前に、在庫の予測戦略を固めておくことを勧めている。「各ブランドは、今後数カ月または数年間のために、行動やトレンドを定期的に追いかけるための時間とリソースを確保し、転向と変化を迅速に行えるよう準備しておくべきだ」と同氏は付け加えている。
値上げを余儀なく出品者たち
輸送、配達、原材料のコストの上昇も、出品者の頭を痛める理由となってきた。Amazonは4月に、フルフィルメントby Amazonサービスを使用している出品者に、5%の燃料およびインフレの追加料金を課した。
「一部の出品者は、サプライチェーンとインフレの継続的な懸念に関して板挟みの状態にある」とパーマー氏は述べている。一部のベンダーは、自社のAmazon商品のコストを引き上げざるを得ず、それによって商品を購入する顧客が減少し、その出品者は利益を上げるのが難しくなる可能性があると、同氏は語る。
「一部の出品者はこれらのコストを自分たちで吸収しているが、そうでない出品者もいる。これらのコストを2年以上にわたって吸収してきた出品者は、商品の値上げしか選択肢がないのがつらいところだ。たとえば、当社のブランドパートナーの一部は10年以上にわたって商品を値上げしなかったが、現在では別の場所でコストが上昇したことから、商品の値上げを余儀なくされている」と同氏は述べている。
消費者心理の代弁者としてのAmazon
今後数カ月に景気後退が起きるかどうかにかかわらず、「Amazonが近い将来に衰退することはあり得ない」と、パターン(Pattern)の最高収益責任者を務めるジョン・レバロン氏は述べる。
Amazonの地位は、カスタマーエクスペリエンス、フルフィルメントとロジスティクス、データ主導型広告に投資している結果、特にひっ迫している市場において、その地位は向上し続けるだろうと、レバロン氏は付け加えている。
ただし、Amazonといえども価格の上昇に無縁ではない。Amazonは2月に米国でのプライム(Prime)会員の年間のサブスクリプション価格を値上げした。高速配達とストリーミングサービスの月額は12.99ドル(約1750円)から14.99ドル(約2020円)に値上げされ、年間メンバーシップは119ドル(約1万6100円)から139ドル(約1万8800円)に値上げされた。今のところ、それによってユーザーが大挙してプライム会員を解約したという兆候はほとんどない。
Amazonに強く依存している出品者が直面している最大のリスクは、Amazonに全てを集中させることによるリスクの高さからくるものだと、レバロン氏は言及している。「しかし、そのリスクの多くは、プラットフォームのマーケットプレイス側、つまりAmazonがブランドに対してそれほど直接的なコントロールを行っていない部分で軽減できる」と、レバロン氏は述べている。
Amazonはその規模から、経済全体の代理人として機能している。サードパーティの出品者は、ほかの経済と比べて良くも悪くもならないだろうと、ダレッタ氏は語る。「Amazonがラグジュアリー商品よりも必需品を多く販売する傾向があるため、これらの出品者は多少良い結果を得られるかもしれない」と同氏は付け加えている。
Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)