狙うオーディエンスは エシカル 消費者とストリートウェアのリーダー:変革を遂げようとしている老舗スペリーの戦略事例

DIGIDAY

トップサイダー(Top-Sider)をはじめとするデッキシューズの製造・販売で90年近くの歴史を誇るスペリー(Sperry)は、米ニューイングランド地方発のプレッピースタイルのイメージが強いブランドとして知られ、ボートをかたどった昔ながらのロゴで親しまれてきた。しかし、同社は現在、大きな変革を遂げようとしている。チーフ・マーケティング・オフィサーのエリザベス・ドローリ氏のもと、各種プロジェクトやパートナーシップを通じて市場におけるポジショニングを変え、これまでとは違うタイプの顧客を獲得する取り組みを始めている。新たにターゲットとするふたつのオーディエンスセグメントは、サステナブルで目的意識の高いブランドを求めるエシカル消費者(人、社会、環境に配慮した消費行動をする人々)と、流行に敏感なストリートウェアのリーダーたちだ。

どちらのセグメントも市場としては規模が大きい。リサーチアンドマーケッツ(Research and Markets)の調査によれば、衣服の生産から着用、廃棄にいたるプロセスで持続可能を目指すサステナブルファッションは、世界全体の年間売上高が100億ドル(約1兆3000億円)に上る。一方、PWCストラテジー&コンサルタンシー(PWC’s Strategy& consultancy)の統計データでは、ストリートウェアは年間2000億ドル(約26兆円)近い市場規模を誇る。ただし、両セグメントとも競争が激しく、とくにストリートウェアはブランド各社がしのぎを削っている。

「公式サイトでは、当社ブランドの商品を初めて購入するユーザーが増えている」とドローリ氏は述べ、Sperry.comでは前四半期、顧客の75%が初回購入者だったとつけ加えた。スペリーは今後も、サステナビリティに配慮した服や、ストリートファッションにヒントを得たウェアを求める新規顧客の獲得を狙う方針だという。

ブランドの存在は「前面には押し出していない」動画の制作

スペリーは7月31日、サステナブルおよびエシカル消費市場に向けて、ドキュメンタリー動画を新規公開した。『Reclaim Your Water(あなたの水を取り戻そう)』と題する動画シリーズは三部作からなり、自然と環境保全関連のドキュメンタリーを多く手がけてきたフェイス・ブリッグス監督による作品だ。シリーズはYouTubeおよびスペリーのソーシャルメディアチャネルで初回エピソードがリリースされた。ブリッグス監督は2021年10月、ノース・フェイス(The North Face)と組んで障害者と登山を取り上げた動画を公開したほか、ブルックス・ランニング(Brooks Running)やREIとのコラボ作品として同様のテーマで動画を制作している。スペリーによる今回のシリーズは、BIPOC(黒人、先住民、有色人種)に焦点を当てた作品を主に扱うコンテンツ会社、クレイマ(Claima)と共同で制作された。

『Reclaim Your Water』の三部作は、毎エピソード異なるアフリカ系アメリカ人を主人公に、その人と「水」との関係を描いており、黒人コミュニティにとってはこれまで苦痛の源であった水が、将来的には強さの源になる可能性があるという主張を展開している。

動画の出演者が着用する商品はスペリーが提供し、同社製とわかるスポーツウェアを身につけた人物が一部のシーンに登場する。また、各エピソードの冒頭でスペリーのブランド名が表示される。そういった要素を除けば、従来型のキャンペーンとは趣の異なる動画広告となっている。

「意図的にそういう映像にした」とドローリ氏は強調する。ストーリー描写に力を入れ、ブランドの存在は「前面には押し出していない」という。

動画製作費はトップファネルの予算から

しかし、映像におけるブランドの存在感が控えめだとしても、このドキュメンタリーシリーズがスペリー全体のマーケティング戦略に即していないわけではない。

「当社は現在、スペリーをパーパスドリブンなブランド(社会における企業の存在意義や経営目標にもとづく方針や戦略を実践するブランド)へ生まれ変わる過程にある」とドローリ氏はいう。「ソーシャルメディア上の『Make Waves(波を起こせ)』など、パフォーマンスをより重視した複数のキャンペーンを同時に実施したが、これらはトップオブファネルの幅広い消費者に訴求する施策で、『Reclaim Your Water』のドキュメンタリーシリーズ等と連動している。スペリーというブランドに対する消費者の意識を変えようとする取り組みの一環だ」。

ドローリ氏によると、スペリーとその親会社のウルヴァリン・ワールド・ワイド(Wolverine World Wide、以下ウルヴァリン)は、2022年のマーケティング予算の一部を、直接売上に結びつきにくいトップオブファネル施策用に確保しているという。前述のドキュメンタリーシリーズもそのひとつで、有料広告ではなく、スペリーとクレイマのソーシャルメディアチャネル限定で公開され、自然検索からのトラフィックが頼りだ。ちなみにインスタグラムの場合、スペリーのフォロワー数は33万人、ブリッグス監督のフォロワー数は2万人に達している。

親会社のウルヴァリンはスペリー以外に、シューズ専門のサッカニー(Saucony)やアクティブウェアのスウェッティ・ベティ(Sweaty Betty)など、12のブランドを所有しているが、そのなかでもスペリーはとくに好調で、ウルヴァリン傘下ではトップ3に入る成績を残している。前四半期の売上は6700万ドル(約87億1000万円)で、年末までには10数ポイント伸びると予想される。ウルヴァリンCEOのブレンダン・ホフマン氏によれば、こういった成長期はブランドにとって、市場におけるポジショニング変更の取り組みを始めるには格好のタイミングだという。

「ブランドキャンペーン『Make Waves』は10月まで継続の予定だ。また、この1年を通じて、引き続きブランドの新たなパーパス(存在意義)を打ち出していく」と、ホフマン氏は述べた。

ストリートウェアブランドとのコラボレーション

スペリーに対する消費者の認識を変えるには、開拓中の新たなオーディエンス層に対しても働きかける必要がある。過去6カ月のあいだにスペリーは、英国のスケートボードブランド、パレス・スケートボード(Palace Skateboard)や、ドイツ発で影響力の大きいストリートウェア専門のブログ「ハイスノバイエティ(Highsnobiety)」など、数々の事業体とのコラボレーションを始動させた。

「これらのコラボレーションを通じた宣伝には、いわゆるハロー効果がある」とドローリ氏は指摘する。「たとえばパレス・スケートボードとの取り組みのように、すぐれたパートナーの力を借りて盛り上がりを演出すれば、その影響で当社のブランドへの期待が高まり、新たな顧客層の獲得につなげることができる」。

[原文:Ethical consumers and streetwear heads: Inside Sperry’s strategy to reach new audiences

(翻訳:SI Japan、編集:猿渡さとみ)

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