きっかけは台風19号–吾妻郡が再エネ導入防災施設で手にした災害時の安心

CNET Japan

 群馬県吾妻郡が、防災施設の見直しを進めている。学校や保健福祉センター、役場庁舎、病院など災害時の避難所となる施設に太陽光発電と蓄電池を取り入れ、停電時でも使える電源施設を備えたほか、エネルギーマネジメントシステム(EMS)を導入し、電力の効率的な活用を実現。LED照明や照明制御システムを取り入れることで、日常的な節電にもつなげる。

 山林が多く、火山防災が主とされる吾妻郡がなぜ急ピッチに防災施設のリニューアルに踏み切ったのか、再生可能エネルギーの導入はどんなメリットをもたらしているのかについて紹介する。

きっかけは令和元年台風19号

 活火山として知られる浅間山や2020年4月に運用を開始した八ッ場ダムなどを擁する群馬県吾妻郡は、その地形により火山防災に力を入れてきた。しかし2019年10月の令和元年台風19号で、土砂災害が発生するなど大きく被災。「当時は役場の全職員が外に出られない状況だった。道路には石が数多く転がり、水も出ないし、電気もつかない。こんな状態は夢にも思っていなかった」と嬬恋村村長の熊川栄氏は振り返る。

嬬恋村村長の熊川栄氏。キャベツの産地としても知られる嬬恋村を紹介してくれた
嬬恋村村長の熊川栄氏。キャベツの産地としても知られる嬬恋村を紹介してくれた

 以前から「防災減災は非常に重要」(熊川氏)と位置づけ取り組んできた嬬恋村だが、台風19号を受け対策を強化。「ハードとソフトにおけるすべての計画を作り直し、しっかりとした避難施設ができたと思っている。照明のLED化、太陽光発電設備の導入など、環境問題にも取り組んだ」(熊川氏)と大幅なリニューアルに踏み切った。

 サポートしたのはパナソニック ライフソリューションズ社マーケティング本部関東電材営業部だ。群馬、栃木、茨城、新潟、長野を担当エリアとして持つ関東電材営業部は、照明、配線器具、空調、太陽光電池、蓄電池といった電設資材販売を担う。地域の電気工事店などに太いパイプを持ち、地元に根差した活動で、群馬県吾妻郡6カ町9施設の防災リニューアルを推進した。

 リニューアルしたのは高山村 保健福祉センター、東吾妻町 役場庁舎・コンベンションホール、町民体育館、東吾妻中学校(体育館)、嬬恋村 嬬恋中学校、東部こども園、西吾妻福祉病院、中之条町 中之条保育所、伊勢町保育所の9施設。200~1000名規模の避難所として機能するほか、西吾妻福祉病院は防災拠点病院になっている。

 各施設には、太陽光発電・蓄電池連系システムを導入し、創エネ、蓄エネを実現。照明をLEDに切り替えることで大幅な省エネにもつながる。また、エネルギーの使用状況を計測して見える化、分析・​診断し、運用改善をサポートするエネルギーマネジメントソリューション「Emanage(エマネージ)」で遠隔からの見守りも実施。思わぬ節電に結びついたという。ここからは、リニューアルしたいくつかの施設の詳細について紹介する。

太陽光パネルと蓄電池がもたらす非常時の安心

高山村 保健福祉センター

 高山村 保健福祉センターは、2000年頃に運営を開始。約20年が経ち、設備などが老朽化。改修工事などを考えるタイミングで、防災対策リニューアルを施したという。

 平常時はデイサービスセンターや児童館、保育所を併設し、周囲の人たちが集まる施設として賑わっているが、災害時には避難施設として約287名を受け入れる。西向き片流れの屋根に太陽光パネルを設置し、90.4kWの発電を実現。蓄電池を組み合わせることで、年間の電力使用量は約30万kWhから約16万kWhまで減らせたという。

高山村 保健福祉センター。デイサービスセンターのほか児童館、保育所を併設する
高山村 保健福祉センター。デイサービスセンターのほか児童館、保育所を併設する
西向き片流れの屋根に太陽光パネルを設置し、90.4kWの発電を実現する
西向き片流れの屋根に太陽光パネルを設置し、90.4kWの発電を実現する

 1~3月分の電気料金を、過去11年間平均と2021年で比べると、202万2707円から146万7046円と50万円以上のマイナスを実現。さらにお湯を沸かすボイラーを「エコキュート」に切り替え、過去11年間平均45万4936円かかっていた灯油代が0円になったという。これにより年間400万円弱の削減が見込める計算になる。

 また、Emanageにより遠隔監視することで、必要のない床暖房の電源が入っていることを見つけ、大きな削減に結びついた。公共施設は担当者が何年かに一度変わることが一般的で、変更のタイミングで引き継ぎがうまくできず、床暖房が入れっぱなしになってしまっていたとのこと。データを計測することで気づけたという。

東吾妻町 役場庁舎・コンベンションホール

 東吾妻町の役場庁舎は、町営の温泉施設として建てられたものを役場庁舎にリノベーションした経緯を持つ。そのため温泉施設当時のままお城のような外観。役場庁舎の建て替えと、赤字が続いていた温泉施設の見直しが時期的に重なり、今あるものを有効活用しようという考えから、温泉施設をなくし、約1年かけて役場庁舎へと改修した。

東吾妻町 役場庁舎・コンベンションホール。町営の温泉施設として建てられたものを役場庁舎にリノベーションした
東吾妻町 役場庁舎・コンベンションホール。町営の温泉施設として建てられたものを役場庁舎にリノベーションした

 役場庁舎とコンベンションホールあわせ、約460台のLED照明を導入。屋外に設置したLPガスで空調を動かしている。屋上に太陽光パネルを設置し、蓄電池は屋内に配置する。

屋上に太陽光パネルを設置
屋上に太陽光パネルを設置
庁舎内のモニターには現在の発電電力などを可視化
庁舎内のモニターには現在の発電電力などを可視化

嬬恋中学校

 以前は2つあった中学校を約10年前に合併し、現在の形となった嬬恋中学校。約200名の生徒が通っており、80%がスクールバスで通学しているという。

 もともと、校庭の奥に太陽光パネルが設置されていたが、今回のリニューアルでさらに効率の良いものに変更。あわせて蛍光灯をLEDに変更することで、電気代を従来の3分の2まで削減した。

太陽光パネルは今回のリニューアルでさらに効率の良いものに変更。サイズも小さくなったことがわかる
太陽光パネルは今回のリニューアルでさらに効率の良いものに変更。サイズも小さくなったことがわかる

 大きな変化があったのは体育館だ。長年使っていた水銀灯からLED照明に変更されたことで、明るさが大幅に向上。体育館の一部のみを消灯する、点灯するという分割制御もしやすいという。

 避難所として約250人の受け入れ体制を持ち、リニューアル時に蓄電池と非常用コンセントを取り入れることで、停電時でも電源供給を実現。LED照明にも調光機能を採用し、災害時は点灯後約10%に明るさを落とすことで長く電気が使える仕組みにしている。

長年使っていた水銀灯からLED照明に変更されたことで、明るさが大幅に向上したという体育館
長年使っていた水銀灯からLED照明に変更されたことで、明るさが大幅に向上したという体育館
停電時でも電源供給ができる非常用コンセント
停電時でも電源供給ができる非常用コンセント

西吾妻福祉病院

 長野原町、嬬恋村、草津町、中之条町の4町村で構成される西吾妻福祉病院は、総合病院としてヘリポートなども完備するほか、訪問診療なども請け負う。災害時の受け入れ施設として24時間稼働が求められることからも電源の確保は必至。系統電力と太陽光を併用することで、エネルギー分散によるリスクの軽減を図る。

 以前は3分の1程度だったLED照明の比率を100%にすることで、明るさを確保した上で省エネも実現。電力の3分の2を太陽光で補うなど、節電効果もあがっているという。

 蛍光灯を使用していた以前は、暗くなって手元が見づらくなる、頻繁に交換が必要なるなどの問題があったが、LEDに変えることで使い勝手を向上。手元も見やすくなったとしている。

 太陽光パネルと蓄電池による電力に切り替えてからすでに数回の停電を経験しているが、瞬時に系統電力から切り替わるため停電に気づかないくらいだったとのこと。

西吾妻福祉病院
西吾妻福祉病院
病院内の敷地に設置された太陽光パネル
病院内の敷地に設置された太陽光パネル

書類申請まで伴走、地元電気工事組合と連携、万全のアフターケア

 吾妻郡の各施設が防災リニューアルに踏み切った背景には、環境省の補助事業「地域の防災・減災と低炭素化を同時実現する自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業」の活用がある。ここから補助金が出ることで費用の7割近くを補えるなど、「かなり安価に実現できた」と施設関係者は口をそろえる。

 ただ、その仕組みや申請の仕方などが複雑で、パナソニックではそうした申請の書き方、提出の仕方まで伴走することで、太陽光パネルや蓄電池の設置に結びつける。また、吾妻電気工事協同組合と災害時における対応について協定を結んでおり、いざというときは電気工事協同組合のメンバーが駆けつける仕組みを構築。電気設備だけに職員だけでは対応しきれない、万が一に備える。

 嬬恋村村長の熊川氏は「防災施設リニューアルの話をきいて、すぐにでも導入したいと思い、即決した」と話す通り、スピード感を持って対応した背景には補助金の存在も大きい。豪雨、台風、地震と自然災害が多い日本で、防災施設の安全はそこで暮らす人々の安全につながっていくだろう。

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